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サイクル ロードレース コラム 2020年11月4日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2020 レースレポート:第13ステージ】悪夢を拭い去る好走で今大会4勝目!ログリッチ「この先も集中し続けなきゃならない」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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プリモシュ・ログリッチ

マイヨ・ロホを取り返したプリモシュ・ログリッチ

1ヶ月半前にフランスで見た悪夢をきれいさっぱり葬り去り、プリモシュ・ログリッチが得意種目で好走を見せた。区間4勝目をさらい取り、リチャル・カラパスからマイヨ・ロホも奪い返した。戦況は総合35秒以内に上位4人が並ぶ混沌から、47秒以内での3人の競り合いへと変化した。大会は残り5日。2020年ブエルタ・ア・エスパーニャの総合優勝争いは、いまだ大きく開かれている。

「素敵だね。最高の1日だよ。今日は自分をすごく強く感じた。自分でも驚いたほど。だってもっと苦むに違いないと思ってたから」(ログリッチ)

ほっとする知らせと共に大会最終週は幕を明けた。大会2回目の休息日に行われたPCR検査で、選手151人を含むチーム・大会関係者681人全員が陰性と判定されたのだ。おかげで参加22チームは1つも脱落することなく、マドリードまで旅を続けることができる。

全長33.7kmの個人タイムトライアルのフィニッシュ地には、3級山岳ポイントが燦然と輝いていた。「平地だけで僕にとっては完璧なのに」と区間21位で終えたハリー・タンフィールドが嘆いたように、つまり31.9kmのほぼ完全なる「平地」の先には、1.8km・平均勾配14%の「壁」があった。

自ずと関心は各選手・チームの作戦に集まった。2種類の全くタイプの異なるコースの合わせ技を、果たしてどう攻略すべきか。自転車を変えるか、それとも変えずに突っ走るか。

たとえば9番スタートで真っ先に好タイムを叩き出したアレクサンダー・エドモンソン(区間18位)や、ベストの調子であれば間違いなく区間優勝候補に上げられたはずのクリス・フルーム(区間86位)は、最初から最後までTTバイクで走り通した。

一方で大多数の選手は自転車交換を選んだ。大会側も最終坂の麓に「自転車交換ゾーン」を設置した。この場所に限って、チームスタッフがコース上で代替自転車と共に待つことが許可された。また全長50mのゾーン上限の白線まで、スタッフがサドルを押すことも認められた。ステージ前の下見時には、多くのチームが現場で交換練習を行った。

もちろんパンクやメカトラや、その他もろもろの理由で、この場所以外での自転車交換も禁止はされていない。ただその際はチームカーに積んである自転車を使用し、交換作業はチームカーに乗っているスタッフの手で行われねばならない。総合5位のエンリク・マスはこの手法を選択した。

ツール第20ステージの平地+激坂タイムトライアル(区間6位)では、あえて自転車を変えなかったレミ・カヴァニャだが、今回は規定のゾーンで自転車を変えた。フランス個人TTチャンピオンは前を走る選手を平地で3人、上りで2人追抜き、望み通り暫定首位に立った。しかしツール時は約3時間温めたホットシートを、ほんの1時間足らずでネルソン・オリヴェイラに譲り渡すことになる(カヴァニャは最終的に8位)。

ポルトガル国内TT王座に過去4度君臨してきたオリヴェイラは、なにより2017年世界選TT、つまり前半27.6km平坦+最終3.4km激坂という極めて似たようなコースで、トム・デュムラン→ログリッチ→フルームに次ぐ4位に食い込んだこの種の道のスペシャリストである。2つある中間計測ポイントはおろか、フィニッシュでも軽々とトップタイムを塗り替えた。

ところが20分後に出走したウィリアム・バルタが、中間計測で2度ともに、オリヴェイラと同タイムを叩き出す。プロ3年目にしていまだ未勝利ながら、ログリッチが制した昨ロマンディ個人TTでひと桁順位に食い込むなど、24歳のアメリカ人は孤独な戦いには長けていた。上りだって決して苦手ではない。アングリル山頂には25位でたどり着いている。この日の激坂のてっぺんにたどり着く頃には、オリヴェイラ(区間3位)を9秒も突き放していた。バルタは46分40秒56で堂々トップを奪った。

「このタイムトライアルは、僕にとって今大会における最大の目標だった。序盤はかなりの平坦だったけど、実際は、向かい風のせいで大いに努力を要した。ペダルを緩めることができる場所なんて一切なかったよ。最後の上りはまさに『壁』。最後の1kmはひどく骨が折れた」(バルタ)

プリモシュ・ログリッチ

プリモシュ・ログリッチ

快走のおかげでバルタは、人生2度目のグランツールで総合25位から22位へと順位を上げた。ただ残念ながら、念願のプロ入り初勝利は、たったの1秒差で逃すことになる。最後から2番目に出走したログリッチに、46分39秒48で1位の座をさらい取られてしまうのだ。

すでに12日間に渡って激しい競り合いを続けてきた総合上位4人は、この日もまた、稀に見るほどの好勝負を見せた。

たしかに総合4位ダニエル・マーティンは、平地部分ではライバルに対して大きくタイムを失った。24.5km地点=第2中間地点では、ログリッチや総合3位ヒュー・カーシーに対して早くも約1分の遅れを喫している。しかし激坂1.8kmを含む第2中間地点からフィニッシュまでの9.2kmだけなら、総合3位ヒュー・カーシーを8秒、カラパスを14秒上回る。素晴らしい山の脚を改めて証明した。

アングリルの激勾配でアウターギアを回したカーシーは、高いタイムトライアル能力でも世界を驚愕させた。なにしろ平地から積極的に攻めた。12km地点=第1計測地点を14分48秒、つまりバルタ&オリヴェイラからたったの11秒遅れで駆け抜けた。しかも2分後にスタートしたログリッチよりも、2秒速いという衝撃。第2計測地点ではログリッチに逆転されてしまうものの、わずか1秒差でしかなかった。

実はカーシーが子供時代に所属していた自転車クラブのコーチは、元英国TTチャンピオン。おかげでしっかり基礎を叩き込まれていたという。昨年ジロの第9ステージの平地+登坂の個人TT--やはりログリッチが勝っている--では、8位という好成績も残している。当然ながら激坂部分も苦もなくこなし、47分04秒37で坂の上へと駆け込んだ。

「すごく上手く行った。自転車交換も練習時よりはるかにスムーズに済んだしね。結果は上々だし、自分の今日の走りにすごく満足している」(カーシー)

ただプロ5年目という短いキャリアで、すでに個人タイムトライアル11勝を獲得してきたログリッチが、一枚上手だった。第2計測地点ではカーシーに対してわずか1秒に過ぎなかったリードは、自転車交換の時点で約15秒に広がり、フィニッシュ地ではさらに25秒にまで大きくなっていた。ツール・ド・フランス第20ステージでの失敗がまるで嘘だったかのように、完璧にスピードを操った。

つまり総合首位から10秒遅れでスタートしたログリッチは、第1計測地点では6秒差に近づき、第2計測地点では9秒リードへと逆転した。1日の終わりには、39秒差でマイヨ・ロホを着ていた。

決してカラパスも悪くはなかった。タイムトライアル世界チャンピオンを過去3人輩出してきたチームと共に「しっかり準備をしてきた」と、自信を持って151人の最後に走り出した。平地部分で遅れを19秒に食い止めたのは、むしろ上出来のはずだ。残念ながら最後の9.2km、つまり最も得意とすべき登坂部分だけで、30秒もロスした。あの日、山岳賞キープを目指して駆け上がったプランシュ・デ・ベルフィーユ5.9kmの登坂タイムは、絶不調ログリッチより8秒も速かったのだけれど。

リチャル・カラパス

リチャル・カラパス

「すごくハードなタイムトライアルだった。でも結果には満足しているし、ブエルタの総合争いはいまだオープンだ。可能性はまだたくさん残っている。僕にもチャンスがあるし、すべてが変わり得る」(カラパス)

こうしてログリッチはシーズン再開後だけで11勝目、今大会13日目にして4勝目をあげた。なにより1年2ヶ月ぶりの個人タイムトライアル制覇が、本人にとっては嬉しかった。

「ずいぶんと長い間TTで勝てなかったけど、ようやく勝てた!スタート前から『僕が簡単にタイムを開くだろう』と多くの人が予想していた。でもTTというのは、誰もがゼロから等しくスタートするんだよ..。それに必ずしも楽しいものではないしね。でも幸いにも今日の僕は足の調子が良くて、素敵なTTを実現させた」(ログリッチ)

大会初日からログリッチとカラパスの間を行ったり着たりしているマイヨ・ロホは、みたびログラの手元に帰ってきた。新たに30ptを加算したポイント賞では、2位以下とのリードをさらに広げた。

「39秒リードというのは、ビハインドよりはるかにいいよね!もちろんこの先も集中し続けなきゃならない。幸いにもチームメートは本当に頼もしいから、最後まで戦い続ける」(ログリッチ)

49秒差で区間を終えたカラパスは、39秒差の総合2位に一歩後退した。また総合トップ10に入れたらいいな..とブエルタに乗り込んできたカーシーは、25秒差の区間3位で終え、総合では47秒差の3位にきっちり踏みとどまった。「(総合も狙うか?)そのつもり」と、カハ・ルラルで2年間過ごしてきたイギリス人は、言葉少なにスペイン語で宣言する。

また総合4位マーティンは、35秒差から一気に1分42秒差へとタイムを落とした。表彰台までは55秒差。規定場所以外で自転車を交換したマスは、奇策の効果のほどは不明だが、この日だけでログリッチに対して1分43秒も失った。新人ジャージと総合5位の座は堅守したものの、表彰台までの距離が1分18秒から2分36秒へと広がったのに対して、総合5圏外陥落の危機は3分23秒から2分52秒へと縮まった。

ダビ・デラクルスが総合13位から10位へとジャンプアップを果たし、代わりにミケル・ニエベが3つ順位を落としたが、それ以外に総合上位の順位変動はなかった。フィニッシュの3級山岳では区間覇者ログリッチが3ptを収集したが、山岳ジャージは、早くも「来年のツールを考えながらTTを走った」というギヨーム・マルタンが7区間連続で守っている。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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