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サイクル ロードレース コラム 2020年11月1日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2020 レースレポート:第11ステージ】ダヴィ・ゴデュが歓喜の雄叫び!翌日に控える魔の山アングリル「殴り合いのバトルが起こるだろう」(ログリッチ)

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ダヴィ・ゴデュ

ダヴィ・ゴデュ

魔の山アングリルを翌日に控え、総合勢はほとんど動きを見せなかった。代わりにステージ前半は山岳ジャージ争いが加熱し、最終盤はスリリングな区間争いが繰り広げられた。フィニッシュの山頂ではダヴィ・ゴデュが歓喜の雄叫びを上げ、ギヨーム・マルタンは山岳ポイントを、マルク・ソレルはタイムをそれぞれ望み通りに手に入れた。

「ほっとして叫んじゃった。数日前から脚が痛かったし、上手く行かなくてもやもやしてたからね。でもついに勝つことができた。本当に最高だよ」(ゴデュ)

厳しい調子で語るクリス・フルームの声が、テレビ画面越しにもはっきりと聞こえた。「昨日あなたたちはレース後にルールを変えたんだ」と。スタートラインに集結した2020年ブエルタ・ア・エスパーニャの選手たちは、仮スタート前に抗議を行った。前日第10区間のタイム計測方法がルールブック記載の「分断3秒まで同集団とする」から、「1秒」へと予告もなく変更されたからだ。そのせいで予期せぬマイヨ・ロホ交代劇はもちろん、総合トップ10だけでも7人が分断の被害を被った。選手間で不満が噴出し、CPAプロ自転車選手協会を通して話し合いを持ったとのこと。数分の象徴的ストライキのあと、選手たちはレースへと走り出した。

スペインに万聖節の週末が訪れ、ブエルタにマイヨ・ロホ争いを大きく左右する山頂フィニッシュ2連戦がやって来た。ただ5つの山が待ち構える今区間は、むしろ山岳「青玉」ジャージにとって極めて重要な1日となった。すべての峠を先頭で通過すれば、なにしろ大量43ptが手に入る。

アタックが乱れ飛ぶ中、ロット・スーダルが率先して動いた。大会1週目に山岳ジャージを2日間着用したティム・ウェレンスを前方へ送り出すため、代わる代わるチームメートが力を尽くす。おかげでスタートから9km地点に構える3級峠で、ウェレンスは単独で飛び出した。ひとりですぐに追いかけたのは、4日前から青玉で過ごすギヨーム・マルタンだ。ただし全力で飛ばすライバルをどうしてもとらえることができない。首位通過ウェレンスは手持ちの19ptに3ptを加算し、背後でマルタンは2pt収集に甘んじた。

山頂を越えてもウェレンスはそのまま先頭を突き進む。後方から数人ずつ追いついてきた者たちを受け入れつつ、メインプロトンとの距離を開いていく。スタートから約25km。ユンボとイネオスが道幅いっぱいに並ぶと、集団前方で蓋を閉めた。本日の逃げが決まった..かに思われた。

しかしマルタンは諦めなかった。鉄のカーテンをぶち破り、自ら最前列へと進み出ると、プロトンの主導権をむしり取る。コフィディスの5人全員(2人はすでにリタイア、1人は逃げ集団に潜り込んでいた)で隊列を組み上げ、タイム差制御に乗り出した。さらに2つ目の山へ上り始めると、12人にまで大きくなったウェレンス集団との距離を、一気に縮めにかかった。

一時は50秒差にまで広がった差が、急激に減っていくのを感じたウェレンスは、再び加速を試みた。今度ばかりは独走は許されなかった。逃げに紛れ込んだコフィディスの刺客ピエールリュック・ペリションが、すかさず後輪に飛びついたからだ。しかも後方ではいよいよマルタン自らが本気の牽引を断行した。メイン集団がいきなり半分以上脱落するほどの猛烈な加速だった。こうして山頂手前3kmほどで、望み通りウェレンスを回収した。

ひとつにまとまった集団内で、あまりに互いのみを警戒しすぎたせいだろうか。両者ともに肝心のポイントを獲りそこねてしまうのだ。「もっと収集できたはずなのに。たとえば2つ目の山は、ぎりぎりポイント圏外だった」と後々ちょっぴりマルタンが後悔したように、山頂間際で飛び出した5人を食い止められなかった。慌てて追いかけるも、ポイントのつく上位5位には滑り込めず。

そして、この山からの下りで、マルタンとウェレンスは仲良く一緒に最前線で肩を並べることになる。60kmにも渡る大騒ぎの果てに、先に行った5人も含め、とうとう8人が逃げ集団を作り上げた。

青玉争いに巻き込まれ、さんざん引きずり回されたメイン集団も、ようやく静けさを取り戻した。一旦は遅れた選手たちも、無事にメイン集団へと帰ってきた。そこから先はユンボとイネオスが集団制御権を分け合った。マイヨ・ロホを着るプリモシュ・ログリッチと、前夜マイヨ・ロホを失ったリチャル・カラパスは、なにしろ完全なる同タイムなのだ。リーダーチームとしての責任も2等分した。逃げとの差は2分ほどで保ち続けた。

残り81km。3つ目の山に突入した直後だった。モビスターのマルク・ソレルが、メイン集団から突如としてアタックを打つ。しかしユンボもイネオスもまったく動かない。総合3分52秒差の選手を追いかけるどころか、今までどおり淡々とテンポを刻むだけ。

「ユンボは自分たちにとってそれほど危険にはならないだろうと判断したんだと思う。それにペースを上げすぎることで、他のアタックを誘発し、もっと大きな差をつけられてしまうリスクを冒したくなかったはず」(エンリク・マス)

あっさり見逃してもらえたソレルは、わずか2kmの全力疾走で、前の8人に追いつく。本来なら総合10位選手は逃げ集団内では忌み嫌うべき存在だが、むしろソレルの合流で、マルタンにとっては状況が好転する。なにしろマスによると、ソレルのアタックは「予定通り」。だからこそ逃げ集団内では同僚ネルソン・オリヴェイラが待ち構えていたし、エース合流と同時に猛烈に牽引を始めたのだ。そのせいで序盤に力を使いすぎたウェレンスは、あっという間に後方へ振り落とされた。直後の1級山頂では、もはやライバルのいないマルタンは、悠々と1位通過・10pt収集を果たしたのだった。

ゴデュにとっても、ソレルの合流は、悪い条件ではなかった。そこまでの逃げの構図はグルパマ2人(ゴデュとブルーノ・アーミライ)にサンウェブ2人(マイケル・ストーラーとマーク・ドノヴァン)、さらに前待ちオリヴェイラ、ニクラス・エイ、そしてもちろんマルタン&ウェレンス。それがソレル合流+ウェレンス脱落により、「2人で逃げるチーム」が3つに増えた。自ずとグルパマの分担すべき仕事量は減ったし、そもそもオリヴェイラがあまりに熱心に作業を遂行したものだから、タイム差はさらに3分以上に広がる。

残り45kmの中間ポイントはソレルが首位通過で、ボーナスタイム3秒を手に入れた。直後に上り始めた4つ目の山岳(1級)では、マルタンが新たに1位10ptを追加した。真っ先にエイが脱落していき、さらに全長16.5kmの最終峠に入ると、エースのために力を尽くしたアーミライとオリヴェイラがそれぞれ役目を終えた。生き残ったのは5人。そこまで先頭交代に積極的ではなかったサンウェブコンビも、どうやらゴデュにたしなめられ、以降は責任を持って作業を分担した。勾配が一気に跳ね上がる残り5.5km地点に到達しても、いまだリードは2分残っていた。

「もっと最終峠でアタックがかかると予想してたけど、みんな明日のアングリルを恐れていたんだと思う。誰もが制御しつつ走っていた」(ログリッチ)

マイヨ・ロホの証言通り、メイン集団は動かなかった。ただしログリッチがいまだ4人のチームメートにがっちり支えられていた一方で、前日まで総合7位のエステバン・チャベスは残り11km前後で脱落していったし、この勾配の変わり目で、カラパスは最後のアシストを失っている。代わりにUAEチームエミレーツが前方に陣取ったが、総合をひっかきまわす動きはおろか、逃げを脅かすような加速も見せなかった。

だから「タイムも区間も」狙っていたソレルは、急勾配を利用してアタックを打つ。ストーラーに追わせたかったゴデュだが、1歳年下が動けないと判断するや、すぐに自ら後を追った。「ポイント争いで力を使いすぎた」マルタンは、完全に出遅れた。最終5km、先頭はついにソレルとゴデュに絞り込まれた。

2015年ツール・ド・ラヴニール総合覇者と、やはり同大会2016年王者の一騎打ち。時には協力しつつ、時には相手の様子をうかがいつつ、残り1kmのアーチをくぐり抜けた。ラスト300mでは真っ先にソレルが仕掛けた。

「強い向かい風が吹いているとは無線で聞かされていたけど、そこまで強くないと思っていたんだ。でも最後の最後に苦しめられた」(ソレル)

ダヴィ・ゴデュ

ガッツポーズするダヴィ・ゴデュ

「僕はパンチ力がある方だから、こういったフィニッシュでは自分は強いと分かっていた。それにソレルは加速した途端に、サドルに座り直したんだ。向かい風が強かったせいだ」(ゴデュ)

あとは残り150mまで待ち、ゴデュが加速を切った。ラスト75mで勝利を確信した。山のてっぺんでは両手でハートを描き--近ごろはインスタに恋人との微笑ましい姿を投稿している--、生まれて初めてのグランツール区間勝利を手に入れた。

「僕ら難しいシーズンを過ごしてきた。ツールでは苦しんだし、このブエルタにはより野心的に乗り込んできたのに、ティボ(ピノー)は途中棄権してしまった。でもみんなで再び力を合わせたんだ」(ゴデュ)

大会2日目でやはり自身初のグランツール区間を手にしたソレルは、この日は2位に終わった。負けたことには「腹が立つ」けれど、ボーナスタイム6秒を回収しつつ、総合ライバルたちから軒並み59秒以上のタイムを奪えたことには満足している。総合順位も10位から6位へと大きく浮上した。

マイヨ・ロホを着るプリモシュ・ログリッチ

マイヨ・ロホを着るプリモシュ・ログリッチ

メイン集団がスピードを上げたのは残り2kmを切ってから。しかし圧倒的な数的優位を誇ったユンボが完璧に制御を続け、総合15位のアレクサンドル・ウラソフが抜け出した以外は、危険な動きは皆無だった。最終的にゴデュから1分03秒遅れ(ソレルから59秒遅れ)で総合3位ダニエル・マーティン、5位エンリク・マス、2位カラパス、総合首位ログリッチが順に山頂になだれ込んだ。総合4位ヒュー・カーシーはさらに7秒遅れて1日を終えたが、総合1位から5位の順番に変動はなかった。

また総合7位だったチャベスが14位に陥落し、その14位からゴデュは2つ順位を上げている。マルタンも総合19位から17位に上昇するのだが、むしろ区間5位に滑り込めたことのほうが重要だ。ウラソフの追い上げを3秒差でぎりぎりかわし、山岳ポイント最後の1ptを手に入れた。マルタンは今区間だけで23ptをかき集め、山岳賞2位以下に26pt差をつけた。

「あと1週間しがみついて、最大限を尽くし、マドリードで最高の成果を手に入れたい」(マルタン)

ポイントを追い続けたマルタンが体力を惜しみなく消費した一方で、ソレル以外の総合勢はむしろ体力を最大限温存した。すべては翌日のアングリル大戦のために。

「数々のアタックが起こるはずだし、なにより殴り合いのバトルが起こるだろう。僕は今まで1度もアングリルに登ったことはない。でも自信はある」(ログリッチ)

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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