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【ブエルタ・ア・エスパーニャ2020 レースレポート:第10ステージ】31歳の誕生日翌日に掴んだ勝利!ログリッチ「1つ年をとって、その分さらに強くなった」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかプリモシュ・ログリッチ
総合ライダーにクライマー、パンチャー、さらにはスプリンターも。あらゆる脚質が1つの勝利を奪い合い、プリモシュ・ログリッチが見事に栄光を競り落とした。しかもボーナスタイムと分断のおかげで、思いがけずマイヨ・ロホにさえ返り咲いた。なんと総合2位リチャル・カラパスとは完全なる同タイム。週末の難関山頂フィニッシュ2連戦を、これ以上望めないほどスリリングな形で、2020年ブエルタ・ア・エスパーニャは迎えることになる。
「勝つのはいつだって最高だね。今日は脚の調子がすごく良かったんだ。チームが僕を最高の場所へと連れて行ってくれた。だからこの勝利は彼らのものでもある」(ログリッチ)
いつもより3日間短いグランツールは、早くも後半戦に突入した。変則的だった2020シーズンもあと9日で幕を閉じる。残り少ないチャンスを逃すまいと、スタート直後から数選手が飛び出した。小さな攻防を経てブレント・ファンムール、ピム・リヒハルト、ヨナタン・ラストラ、アレックス・モレナールが前線で集団を作り上げると、あっという間に12分近いタイム差をつけた。
前日に引き続き、メインプロトンがしばらくはのんびりモードで過ごしたせいだ。ただドゥクーニンク・クイックステップだけが控えめな制御を続けた。最終盤に囮アタックを打ったレミ・カヴァニャは、レース前に「もちろんサム(ベネット)が最後まで残れたらサムで行く」と宣言していたし、最終的に区間3位に食い込むアンドレア・バジオーリも、「元々の計画ではサムがエースだった」とレース後に認めている。つまり前区間に降格処分を食らったベネットと共に、ウルフパックはリベンジに挑むつもりだった。
ところが50kmほど走った先で、ミッチェルトン・スコットが前線に牽引要員を1人送り込んだ。ロバート・スタナード(5位)とディオン・スミス(11位)とで勝負に出るつもりだった。残り100km前後でアスタナも同じく協力を始めた。アレックス・アランブル(4位)が「まさに僕向きのフィニッシュ」と断言していたからだ。おかげで集団の走行スピードは上がり、逃げ集団との距離は順調に縮まっていく。
どうやらこの加速は、「お天気もよく、景色も最高。でもミッチェルトンとアスタナが引き始めたせいで、あまり楽しめなかった」と総合5位エンリク・マスをがっかりさせたようだ。なによりベネットを苦しめた。残り60km前後、唯一の山岳(3級)にさしかかると、早くも今ツールのマイヨ・ヴェールは集団後方で喘ぎ始めた。
やはりバジオーリの証言によれば、ベネットは「調子が良くなかった」。すぐにB計画が発動する。チームメイト7人全員が前で隊列を組み続け、ただスプリンターは最後尾で孤軍奮闘するしかなかった。必死にしがみついたが、残り26kmで、ついには完全にプロトンから脱落した。最終的には仕事を終えて合流してくれたイアン・ガリソンと共に、区間最下位157位で1日を終えている。
残り16kmで逃げが吸収されると、クレイジーな時間が始まった。ありとあららゆるチームが神経質に前線へと競り上がった。イネオス・グレナディアーズもカラパスを連れてポジション取りに夢中になり、ウィリー・スミットが大胆に前方へと飛び出したこともあった。
なにより「クレルモンフェランのTGV」の大きな一発が、集団をめちゃくちゃに引っ掻き回した。残り10kmでカヴァニャは飛び出し、すぐさまイヴォ・オリヴェイラも後輪に飛び乗った。数秒ほどしか引き離せなかったかもしれない。しかしフランスとポルトガルの現役TTチャンピオンコンビは、強力すぎるほどのルーラーの脚で、そのわずかなタイム差を死守し続けた。
特に「ひとり逃げ」には慣れているカヴァニャは、残り5kmでさらにスピードを上げた。アスタナやイネオス、ボーラ・ハンスグローエにロット・スーダルが必死に牽引するプロトンを、たっぷりと翻弄した。
たしかに集団がひとつにまとまった直後、残り2.5kmで最前列に速やかに進み出たのはミカエル・モルコフだった。カヴァニャの奮闘のおかげで、冷静に動くことを許されたベネットの専属発射台は、ゼネク・スティバルとバジオーリを最高の場所へと送り出した。
あらゆる強豪が入り乱れる集団を、しかしドゥクーニンクが制御することなどもはや不可能だった。目まぐるしく先頭は入れ替わった。残り2km、道が上り始めた途端に、パウル・マルテンスがど真ん中で坂道を駆け上がった。背中にはログリッチがぴたり張り付いていた!
「最終盤はテクニカルでひどく危険だった。だから第一の目標はタイムを失わないことだったんだ」(マルテンス)
すぐにカハルラルが最前列に押し込みをかけた。残り1kmを切るとオマール・フライレがアランブルを引き連れてがむしゃらに突進した。ようやくスティバルが仕事に乗り出すも、残り500mの左カーブめがけて、今度はギヨーム・マルタンが猛烈なアタックを試みた。
母国フランスはこの日から2度目のロックダウンに入った。「スペインでレースを続けられることがどれほど恵まれた環境なのかを自覚し、感謝する」と語る哲学者マルタンは、だからこそ「手ぶらでスペインを去りたくない」と連日果敢に攻め続ける。
「400m、300m……まだ僕は一番前にいた。脚にもいまだ力は残っていた。勝利を信じた」(マルタン)
残念ながらフィニッシュ手前150mで、マルタンの努力は無に帰す。山岳「青玉」ジャージの作り出した穴を精力的に塞ぎに走ったのは、赤ジャージのカラパスであり、総合6位フェリックス・グロスチャートナーであり、バジオーリだった。ところが、ゆるい右へのうねりで開いたオープンスペースから素早く先頭へと躍り出たのは、緑ジャージのログリッチだった!
誰ひとりとして後輪に飛び乗ることはできなかった。背後には埋めきれない空間が広がり、ただ悠々とログリッチは今大会3つ目の区間勝利を手に入れた。
「1つ年をとって、その分さらに強くなった。ワインと同じで、古いほうがいいんだよ」(ログリッチ
31歳の誕生日の翌日にやってきた勝利には、サプライズのおまけさえついていた。
この第10ステージは「集団フィニッシュが予測されるステージ」に分類されている。通常であれば3秒以上の分断が発生しない限りは「同一集団」とみなされ、集団内の選手には同タイムが与えられる。ところが審判団はログリッチ以下区間8位マルタンまでを同一集団とし、9位以降を第2集団として扱った。
すなわちスプリンターとしては一等賞だった9位ジャスパー・フィリプセン以下、28位までの選手に、ログリッチとの「実際のタイム差=3秒」が記録された。
フィニッシュ直後のリチャル・カラパス
カラパスは14位だった。つまり3秒を失った。しかもログリッチは区間1位でボーナスタイム10秒を獲得している。こうしてログラは一気にライバルとの差を13秒縮め……、前日までの13秒の遅れを完全に取り戻した。ちなみに純粋なフィニッシュタイムだけを比較すると、実はカラパスが26秒リードしている。今大会ここまでの10日間でログリッチは42秒、カラパスは16秒のボーナスタイムを懐に入れているからだ。
さて、完全なる同タイムで並んだ2人の順位を、どうつけるべきなのか。大会規則によると、1)個人タイムトライアルの小数点以下のタイムを比較、2)各ステージ順位の総計を比較、3)最後に戦われたステージの順位を比較、となる。たとえば第20ステージ終了後に同タイムで2選手が並んだ今年のジロ・デ・イタリアは、1番目の条件が適応されている。しかし2020年ブエルタではいまだ個人タイムトライアルなし(第13ステージに予定されている)。すると2番目の条件で決着を付けるしかない。そしてログリッチ1+2+2+19+4+20+19+1+43+1=112、カラパス2+4+3+31+9+12+21+2+23+14=121で、ログリッチに軍配が上がったのだった。
「またこうしてマイヨ・ロホを手に入れられたからといって、チームとしての姿勢は変わらない。この勢いを維持しなきゃならないし、集中し続けて、計画を着実に遂行せねばならない。1日、1日、こなしていくだけ」(ログリッチ)
ログリッチからタイムを失ったのはなにもカラパスだけではない。区間2位グロスチャートナーや7位ダニエル・マーティンは、損害をかろうじてボーナスタイムだけに食い留めたが、それ以外の選手はことごとく13秒以上を失った。総合4位ヒュー・カーシーにいたっては、さらなる分断にはまり、10秒差+ボーナスタイム10秒=20秒も後退している。
こんな小さなタイム差など、24時間後には、もしかしたらどうでもよくなるかもしれない。マールテンスが言う通りに、「今日は秒単位の争いだったけれど、週末は分単位の争いになる」はずなのだから。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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