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【ブエルタ・ア・エスパーニャ2020 レースレポート:第9ステージ】熱狂と興奮のスプリントステージを制したのはアッカーマン「次は正攻法で勝ちたい」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか表彰台で手を振るパスカル・アッカーマン
サム・ベネットにとってキャリア通算50勝目となるはずだった。ドゥクーニンク・クイックステップにとっては2020シーズン40勝目だったし、ついでに言えば2003年のチーム創設から数えて、グランツール通算区間100勝目を祝うはずだった。代わりに2番目にフィニッシュラインを越えたパスカル・アッカーマンが、生まれて初めてのブエルタ区間勝利を手に入れた。
「まさか僕の勝ちだとは思ってもいなかった。サムには申し訳ないけど、この勝利に本気で満足してる。だってチームが素晴らしい仕事をしてくれたから、こうしてなにかお返しができたことが嬉しいんだ」(アッカーマン)
1日の大半は平和だった。アリツ・バグエスとフアン・オソリオがスタートと同時に飛び出すと、メイン集団は、遠ざかっていく2人の姿を穏やかに見送った。すぐにタイム差は最大5分15秒にまで広がり、ドゥクーニンク隊列がゆっくりと制御に乗り出した。急がず焦らず。2分半から3分半の間で、逃げを延々と泳がせておいた。
コース上には山岳ポイントが一切存在しない。しかも荒野を突き抜ける一本道には、懸念されていたような強風も吹いてはいなかった。つまりモビスターはなにも企てなかったし(「週末の2ステージに向けて体力回復を目指した」by総合5位エンリク・マス)、総合2位プリモシュ・ログリッチは31歳の誕生日をリラックスして過ごせたし(「普段ならすでにオフだからパーティーで祝うんだけど、レースというのも楽しいね」)、マイヨ・ロホのリチャル・カラパスも「もっとナーバスになると思ったのに、かなり簡単なステージだった」と笑顔を見せた。
ただ数度の落車は発生した。たとえばスタートから50km地点ではエクトル・サエスが地面に転がり落ち、ヘルメットが破壊するほどの衝撃を受けた。同時に転んだのが後の勝者アッカーマンだ。どうやら外傷はなかったが、レース中にドクターカーと並走したり、左すねに医療スプレーを吹きかけたりする姿がテレビカメラに映し出されたことも。
むしろこの日で一番ヒヤリとさせられたのは、残り65kmで、突如としてイネオス・グレナディアーズのディラン・ファンバーレが飛び出したことかもしれない。すわ、なにか危険な動きか、とウルフパックは慌ててチェックに入るも..単なる中間ポイントへ向けての加速だった。カラパスの護衛役は、逃げの2人に続いて3位通過。総合ライバルによるボーナスタイム1秒回収の可能性をきっちり握りつぶすと、再び静かに集団へと戻っていった。
緊迫感がそれほど高まらぬまま、それでもフィニッシュまで22kmを残して、プロトンは逃げを回収した。モビスターが時には集団先頭を占拠したが、ログリッチ残り13kmでパンク→自転車交換を余儀なくされた時でさえ、ライバルチームは不穏な動きを見せなかった。
ゴール前のスプリントフィニッシュ
そして残り5.5km、とうとう戦いの時がやって来る。スプリンターにとっては、大会9日目にして、ようやく巡ってきた2回目のスプリントステージなのだ。しかもこの先もたった2回..どう多く見積もっても3回しか自慢の脚を披露する機会はない。数少ないチャンスをどうにかしてつかみ取らねばならない。しかし動いたのはドゥクーニンクではない。ボーラ・ハンスグローエとロット・スーダル、グルパマ・エフデジの3チームが隊列を組み上げると、カーブの連続へと先頭で突っ込んでいった。
「前回のスプリント(第4ステージ)では、ドゥクーニンクの動きを警戒しすぎた。だから今回は自分たちの動きをすることにしたんだ」(アッカーマン)
ライバルたちが積極的に動き、特にボーラが5人で上がっていく姿を横目で見ながら、ドゥクーニンクは急遽プラン変更を決めた。最終発射台ミカエル・モルコフによれば、「本来は自分たちで主導権を握るはずだったんだけど、ボーラの動きに乗ることにした」のだという。ウルフパックは最前列からしばし姿を消した。もちろん最終盤までベネットの周りを4人のアシストが警護していたのだが、残り1kmまで来ると、発射台のモルコフ以外は早々と解散した。
トップでフィニッシュするも危険行為で降格したサム・ベネット
「いつだって簡単に勝ったように見えるかもしれないけれど、簡単な勝ちなんて決してないんだよ」とフィニッシュ直後に語ったモルコフは、フラムルージュをくぐりながら、ボーラの3両列車の真後ろを頑なに死守してみせる。トレックのエミルス・リエピンスが軽い頭突き(風な動き?)で横槍を入れてきた時も、マジソン世界王者はびくともしなかった。そして自分の高さまで下がってきたリエピンスに..残り600m、今度はベネットが2度、お返しとばかりに体当たりをお見舞いする。
こうして専用発射台の背後に留まり続けたベネットは、ラスト200mでアッカーマンが飛び出すと、自らもスプリントを切った。ライン直前ぎりぎりでライバルを抜き去り、いの一番にフィニッシュラインを越えた。
「フィニッシュ後にビデオを見て、ちょっとサムはやりすぎなんじゃないかと思った。トレックの選手とも話したけど、やっぱり同じ意見だった。ここ数週間の落車を考えると、僕らは他の選手たちのために注意を払わなきゃならない。よりフェアな走りをしなければならないんだよ」(アッカーマン)
ベネットとリエピンスとの一件は、レース後に審判団によりVAR(ヴィデオ・アシスタンス・レフェリー)システムで検証された。ベネット側に危険行為があったとして、同集団内の最下位への降格処分が下された。公式に記録として残される結果は、つまり110位だ。
「こんなやり方で勝ちたかったわけではないけれど、でも正しい判定だと思う。まだ2回くらいはスプリントステージが残ってるから、次は正攻法で勝ちたい。その機会が今から待ちきれないよ!」(アッカーマン)
予定通りに行けば、翌第10ステージで、早くも再びスプリントチャンスがやってくる。大集団で何事もなくステージを終えた総合上位勢にとっても、もう1日、静かな時間を過ごせるのは大歓迎。なにしろ週末には、マイヨ・ロホ争いを大きく左右するであろう、恐ろしき山頂フィニッシュ2連戦が控えている。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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