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【ブエルタ・ア・エスパーニャ2020 レースレポート:第2ステージ】《3倍速》で駆け抜けたマルク・ソレル!苦しむチームに値千金の勝利「ご褒美をもらう権利がある」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか第2ステージを制したマルク・ソレル
すべての努力は報われた。ステージ後半の65kmをチーム全員で攻めた甲斐あった。エース格のエンリク・マスとアレハンドロ・バルベルデは総合の立場をさらに確かなものとし、なにより2月1日から……実に9カ月近く追い求めてきた勝利を、モビスターは手に入れた!最終峠で素晴らしい仕事をしたマルク・ソレルが、高速ダウンヒルですべてを突き放すと、初めてのグランツール区間勝利をもぎ取った。
「最高に幸せだ。チームの地元でのレースだから、野心的に攻めた。これほど難しいシーズンを過ごしてきた僕らには、ご褒美をもらう権利があるよ」(ソレル)
観客のいない山へとプロトンは突き進む。新型コロナウイルスの感染拡大を防止するために、開催委員会は「お家でブエルタ2020を見よう」キャンペーンを打ち出している。また前夜に警察の指示で新たに「無観客ゾーン」が1つ増え、この第2ステージの最終峠1級サン・ミゲル・デ・アララールも一般ファンの立ち入りが禁じられた。現時点で無観客ゾーンは全10ヶ所。第1、第2区間の最終峠と第7区間に2回登場する1級峠、さらには全ての山頂フィニッシュ(第3、6、7、8、11、12、13、17区間)で、歓声の聞こえない戦いが繰り広げられる。
ちょっとした攻防を経て、ティム・ウェレンスは逃げ始めた。前日第1ステージでもすでに130km近く逃げた実力者は、序盤の3級峠で早くもひとりになるが、構わず先を急ぐ。山の向こうでブルーノ・アーミライ、ジョナタン・イヴェール、アレックス・アランブルが合流し、さらには1人で追いかけてきたゴンサロ・セラノも加わって、先頭は5人になった。
逃げを見送ったメイン集団では、マイヨ・ロホ擁するユンボ・ヴィスマが静かな制御に乗り出した。5人はすぐに4分近い差を許され、そこから40kmほどは極めて平和な時間が続く。
ところが、ステージ中ごろの小さな3級ウルバサ峠が、戦いの様相をがらりと変える。前方では登坂口に差し掛かると同時に、ウェレンスが再び独走を始めた。逃げの仲間4人を置き去りにし、黙々と進んでいく。一方、後方のメイン集団では、突如としてモビスターが最前列に競り上がった。さらに残り約65km、つまり山頂間際で、いきなりスピードを上げた!
「今日はここで僕らになにかできると分かっていた。だからスタート前に計画を立てて、ウルバサの山頂から攻撃しようと決めたんだ。まさに僕らはあそこで牽引を開始して、そこからは単純にすべてが完璧に進んだ」(ソレル)
スタート地パンプローナは、まさしくモビスターの本拠地。チームの「キャプテン役」イマノル・エルビティの故郷でもあり、監督のホセルイス・アリエタもこの一帯を熟知していた。だからこそ開幕直前に、あえて全員でこのコースの下見へ出かけた。
風が味方してくれることも分かっていた。だからモビスターは下りへと猛スピードで突入した。全員で隊列を組み上げ、周りに遮るもののない平原で、これでもかと執拗に加速を続けた。集団は中盤でプツリと途切れ……ほんの一瞬ではあったけれど、赤いジャージのプリモシュ・ログリッチ自らが穴を埋めに走る場面さえ!
森に差し掛かり、風の影響が少なくなっても、モビスターはおかまいなく高速牽引を続行する。マスに言わせると、すべては「単なる分断のためだけではなく、最終峠に好位置で突入するため」だったから。
逃げとのタイム差は急速に縮まっていく。先頭でひとり懸命にペダルを漕ぎ続けたウェレンスも、30kmほどの独走の果てに、逃げ切りは不可能だと悟った。無駄な体力消耗を割けるために、前日同様、自ら脚を緩めた。代わりにアルミライルが単独で飛び出すも、残り26km、最終峠の麓までしかもたなかった。
この最終峠の直前には、リチャル・カラパスが、補佐役アンドレイ・アマドールと共に攻撃に転じたこともあった。綿密すぎるほどの計画を立てることで知られるイネオスのエースは、ただし「走ってる最中に」アタックを決めた。昨ジロ覇者にとっても、実は今ステージは「地元」だった。2016年にパンプローナのアマチュアクラブに入団して以来、今でも年の半分は当地で暮らしている。区間勝利への欲求は強かった。それでも「ちょっと早く仕掛けすぎた」とレース後に打ち明けたように、やはり最終峠の入り口でモビスター隊列に回収されてしまう。
フィニッシュするマルク・ソレル
2020年シーズンここまでたったの1勝ーーワールドチーム19チーム中で最下位ーーしか獲得していない古豪モビスターは、お膝下でどうしても勝利をつかまねばならなかった。最終峠のセメント路に入ると、ますます速度を上げる。そこまで60人ほどいたメインプロトンは、あっというまにばらばらになる。途中でルイスレオン・サンチェスがアタックしようが、変わらず淡々と恐ろしいテンポを刻む。最後尾から1人、また1人と脱落していく。
山頂まで3km。そこからはソレルが先頭を引く番だった。2月1日にワンデーレースで貴重な「1勝」を上げた張本人は、ほんの48時間まで「総合候補」と呼ばれていた選手たちを次々と蹴落とし、24時間前に区間5位に飛び込んだフェリックス・グロスチャートナーをも振り払った。しばらくは粘った総合10位アンドレア・バジオーリも、ついには後方へと置き去りにした。ユンボの山岳隊長セップ・クスが、前日に続き軽い飛び出して揺さぶりをかけたときでさえ、ソレルは素早く主導権を奪い返した。
ただ山頂間際でカラパスがぶちかました大きな一発に、ソレルは出遅れた。集団に残っていた他の全員がすぐさま後輪に飛び乗ったにも関わらず。
「ちょっと苦しんだ。だって僕はものすごくハードな仕事を続けてきたからね。でも下りで前が少し減速しているのが見えたんだ。それにバルベルデとマスが僕の合流を期待していたから、追いかけた」(ソレル)
ただし後方から超高速で追いかけてきたソレルは、8人に追いつくと……そのまま追い越してしまった!面白いことに本人は「もしかしたらみんなより2倍速で下ったかも」と語っているが、追い抜かれた側のマスは「3倍速。オートバイかと思った。あれじゃあ止まることはできないだろうとすぐに悟った」と証言している。
とにかくとてつもないスピードだった。誰ひとりとして後輪に飛び乗ることはできなかったし、やはり上りで遅れ、下りで追いついたジョージ・ベネットが集団を必死に引っ張ったが、ソレルの背中さえ2度と拝むことはできなかった。
その脚を止めようとする者も、幸いにも、この日はいなかった。ソレルには嫌な思い出がある。昨大会9日目、単独で先頭を突き進んでいたというのに、残り3.5kmで「待て」の指示がかかったのだ。後方でエース格ナイロ・キンタナがアタックしたせいだ。しかし最終的には自分が勝てなかったどころか、キンタナも勝てず……フィニッシュ後に怒りを爆発させたものだ。
「あとはフィニッシュまでブレーキかけずに突っ走った」(ソレル)
この日はラインへと向けて自然と笑みがこぼれた。両手を大きく上げ、生まれて初めてグランツール区間勝利の喜びを噛み締めた。チームに「シーズン2勝目」を献上し、もちろん、ソレルが抜け出したおかげで、区間上位3人の合計タイムで争う「チーム成績」も区間首位につけた。ちなみにモビスターにとっては、2018年バルベルデ、2019年キンタナに次ぐ、3年連続の「ブエルタ第2ステージ勝利」だった。
マイヨ・ロホのログリッチ
ソレルの19秒後に9人の集団がフィニッシュに滑り込んだ。決して不思議ではないが、24時間前に最後まで勝負を争った9人と、ほぼ完全に同じ顔ぶれが並んだ。違いは脱落したグロスチャートナーの代わりに、バルベルデが入っただけ。そして集団内では前日同様にログリッチが一番でラインを越えた。
つまり新たに6秒のボーナスタイムを収集し、ログラは2日連続、昨大会から通算すると14日連続で赤いジャージを身にまとった。2日連続区間3位のボーナスタイム4秒を収集したおかげで、ダニエル・マーティンが9秒差の総合2位に浮上した。ログラの「代理」として緑のポイント賞ジャージを着て走ったカラパスは、11秒差の3位に一歩後退。ただし最終1級峠を首位通過したおかげで、山岳ジャージは手に入れた(クスと14ptで並び、総合上位のカラパスが受賞した)。ツールでは赤玉を2日間楽しんだが、ブエルタでは青玉を着る。
総合4位チャベスと5位マスは17秒差、総合6位カーシー20秒差、7位クス26秒差、8位ベネット56秒差と続く。前日5位11秒差のグロスチャートナーも、ぎりぎり1分以内に踏みとどまっている(59秒差9位)。またソレルが20位から10位1分04秒差にジャンプアップし、バルベルデが11位1分07秒に控える。つまり上位11人中、ユンボ3人、モビスター3人という内訳となる。
総合30位以下は10分以上の差がつき、最下位は早くも45分53秒遅れという壮絶な2日間が終わった。ブランドン・リビエラは生まれて初めてのグランツールをわずか2日目で去り、このブエルタを最後に引退を決めていたアクセル・ドモンは、落車で左鎖骨を骨折し、そのまま現役に別れを告げた。AG2Rにとっては2日間で3人目のリタイアだった。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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