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【Cycle*2020 パリ~トゥール:レビュー】《次のアラフィリップ》ことコヌフロワとの激闘制したピーダスン「U23時代から彼とは何度も戦ってきた」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか激しいバトルを展開したピーダスンとコヌフロワ
3年連続でアタッカーが展開を作った。7つの急坂と9つの未舗装路が勝負を大いにひっかき回し、泥濘んだ道のせいで、まるで北クラシック顔負けの興奮がレースを覆った。
「このレースにおいて、最大の防御とは、攻撃なんだ。遠くからアタックを打たなきゃならない」
こう語るブノワ・コヌフロワは、言葉通りの動きを見せた。実はいまだにコース変更には「反対派」。U23時代に2回、エリートとして2回、元の「スプリンターズ」コースを走っている。だから「クラシックとはクラシックなコースのままで完璧に美しい」という思いが強いそうだ。ただ2年前には、新コースで3位に食い込んでいる。だから自分向きに変わったことは十分に理解していた。
朝のミーティングでは、長年AG2Rの絶対的シンボルとして君臨してきた先輩に、「早めに動いてみて欲しい」と頼んだ。ツール後のクラシックシリーズでは、自分こそがチームのエースだ。ツール第13ステージの落車で脳震盪と診断され、約1カ月レースから離れていたロマン・バルデは、喜んで後輩のために働いた。フィニッシュまで50km、1つ目の急坂で、大きな加速を切った。
一方でサンウェブの第一計画は、「AG2Rとグルパマのいない集団を逃がすこと」。メイン集団のコントロールを一手に引き受けることだけは、絶対に避けねばならなかった。幸いにも序盤に逃げ出した6人の集団は、望み通りフランスの2チーム抜き。おかげでゼッケンナンバー「1」をつける2年前の覇者セーアン・クラーウアナスンは、メイン集団前方で静かに勝負の時を待った。
ところがバルデの作り出したカオスで、クラーウアナスンが落車の犠牲となってしまう。側にいたカスパー・ピーダスンは、ほんの一瞬だけ悩んだ。選択肢は2つ。「集団に残るか、それとも前に出るか」。ツール・ド・フランスでめくるめく波状攻撃を成功させたメンバーの一員は、すぐに後者を選んだ。
バルデの動きに続いて、コヌフロワが飛び出した。カスパー・ピーダスンも後輪に飛び乗った。
ぶどう畑
ルディ・モラール、カンタン・パシェ、アレクサンダー・クリーガーも2人と行動を共にした。朝から逃げていた前方の6人を追抜き、直後の小砂利ゾーンで大きな落車を起こしたメイン集団を突き放した。スプリント勝負に懸けるアルケアは、隊列を組んで追いかけたが、すでに遅すぎた(ちなみにアルケアのエーススプリンター、ナセル・ブアニは18位で終了し、2020年全8戦で争われたフランス杯の総合優勝を決めている)。
しかも上りではコヌフロワが加速を続け、グラベルではピーダスンが高速でペダルを回す。4番目の「ぶどう畑の小道」で、早くも他の3人はついていけなくなった。モラールだけは続く一般路でなんとか追いついたが、4つ目の上りでコヌフロワが再び強烈なテンポを刻むと、またしても振り落とされた。先頭は2人に絞り込まれた。
降り出した秋の雨が、摘み取りのほぼ終わったぶどう畑の小道をどろどろに浸した。モラールと入れ替わるように、真っ白な泥に全身を覆われたヴァランタン・マデュアスが、毅然として前を追ったこともあった。その後はバルデやバルギル、ペトル・ヴァコッチ、そしてヨリス・ニューエンハイスと共に小さな集団を作り上げたが、前方に仲間のいるバルデとニューエンハイスが追走に協力するはずもなく、またスプリント力のあるヴァコッチを誰もが恐れた。5人の集団は先頭を15秒差にまで追い詰めるも、ついに2人をとらえることはできなかった。
「すでにU23時代に同じ相手に破れている。あの時はスプリントで悠々と突き放された」。こんな苦い記憶を持つコヌフロワは、坂道で幾度もライバルを引きちぎりにかかった。しかしどうしても突き放せなかった。ピーダスンは分かっていたからだ。「U23時代から彼とは何度も戦ってきた。上りさえついていければ、自分に有利になる」と。そう、1年違いの2人は、決して知らない仲ではなかった。むしろ2017年U23欧州世界選手権の終盤に、他の2人(うち1人はあのマルク・ヒルシ)と共に飛び出した戦友だ。そしてあの日、ロングスプリントを制したのは、ピーダスンだった。
2600mから800mに短くなった最終ストレート、グラモン大通りに滑り込んだ直後に、コヌフロワは敵の背後に回り込んだ。ひたすらライバルの背中だけを見つめた。ツール中にケース・ボルの最終発射台を務めていたピーダスンに、敵いっこないのは分かっていた。それでも最後の最後まで諦めたくはなかった。自らをエースとして信頼してくれたチームに、「どうしても勝利を持ち帰りたかった」から。
両手を上げたのはピーダスンだった。背後に鋭く目を光らせつつ、自ら加速を切ると、コヌフロワに一度たりとも先行を許さなかった。プロ入り前にUCIレースを制した経験はあるが、24歳にとっては2018年プロ入り後につかんだ初めての勝利。ツールで区間3勝と大暴れしたサンウェブにとっては、シーズン中断後3つ目のクラシックタイトル(ブルターニュクラシック、フレッシュ・ワロンヌ)となった。しかも30秒後にフィニッシュラインを越えた5人の集団内では、チームメートのニューエンハイスがスプリントを制し、3位表彰台に上った!
一方ツールで15日間山岳ジャージをまとったコヌフロワにとっては、フレッシュ・ワロンヌ2位、ブラバンツ・パイル3位に次ぐ、この秋3つ目の表彰台であり、つまり3つ目の負けだった。
ただしプロ1年目でクラシックを制したレムコ・エヴェネプールや(2019年クラシカ・サンセバスティアン)、ユイの壁を初めて登ったその日に勝ってしまったヒルシのような、早熟な天才とばかり比べてはならないのだ。24歳のコヌフロワは、地元フランスでは、「次のアラフィリップ」と期待されている。そして現役世界チャンピオンが、悔しくてハンドルを叩いてばかりの修行時代を終えて初めてのクラシックを勝ったのは、25歳の春でしかない。
例年なら長いシーズンの締めくくり役である「落ち葉のクラシック」は、2020年はフランスにおける最後のUCIワンデーレースとなった。新型コロナウイルスによるシーズン再編成で、本来ならば2週間後にパリ〜ルーベが予定されていた。しかしフランス北部の感染拡大に伴い、10月9日に大会中止が決定。第2次世界大戦による1940〜1942年の中断以降初めて、「地獄の日曜日」がない1年となった。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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