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【Cycle*2020 リエージュ~バストーニュ~リエージュ:レビュー】超豪華な顔ぶれによる最高の戦いはエンディングもドラマチック!「信じることを絶対に止めてはだめなんだ。」(ログリッチ)
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか勝利を確信して両手を挙げたアラフィリップ
最後の最後に2つも大きなミソがついてしまったけれど..2020年リエージュ〜バストーニュ〜リエージュは、これ以上は望めないほど最高の戦いとなった。まるでツール・ド・フランスのエピローグか、それとも2週連続の世界選手権であるかのように。新型コロナウイルスによるシーズン再編成は、クラシックのラ・ドワイエンヌ(最古参)に特別な興奮をもたらしてくれた。
「3カ月近くもの長い時間、家から遠く離れて努力を重ねてきた。そして僕は、ようやくなにか大きなものを、手に入れることが出来た。今はこの瞬間を満喫したい」(ログリッチ)
257kmの長いレースがほんの数センチ差で決し、ラスト100mの失態で順位が入れ替わる前に、残り14kmで勝負は5人に絞り込まれた。
きっかけはジュリアン・アラフィリップが打ったアタック。マルク・ヒルシは瞬時に後輪に入り込み、プリモシュ・ログリッチもすぐに追いついた。タデイ・ポガチャルはワンテンポ遅れて、ミハウ・クフィアトコフスキは得意の下りを利用してついてきた。現役世界チャンピオン、世界3位にして4日前のフレッシュ・ワロンヌ勝者、今年のツール・ド・フランス総合1位2位、さらには元世界王者(今年は4位)。当然ながら5人全員がツール区間覇者という、まるでロイヤルストレートフラッシュのような最強の組み合わせだった。
ここに至る過程で、まずはドゥクーニンク・クイックステップの驚異的な働きがあった。優勝本命の責任を果たすべく、9人の逃げの後ろで、ウルフパックは1日中プロトン制御に尽くした。残り81kmで集団落車にアラフィリップが巻き込まれ、ホイール交換1回・自転車交換2回・シューズ交換両足を強いられた後も、問題なくエースを最前線へと引き戻した。
残り36km、伝統坂ラ・ルドゥットでは、強い横風が吹き付けていた。寒さよりも、小雨よりも、この風こそが最大の難問だったと振り返るアラフィリップは、だからこそ締め付けをいっそうキツくした。昨年も今年もツール・ド・フランスで登坂発射台役を務め、「友に敵対したくない」という理由で世界選を辞退してしまったドリス・デヴェナインスに命じて、先頭を高速で引かせた。
続くフォルジュ坂で、人生最後のレースを戦うミヒャエル・アルバジーニが、人生最後のアタックを打つ。2016年に今大会2位に食い込んだアルデンヌ巧者は、来年からスイス代表監督..つまりこの日に最後まで逃げ続けたミヒャエル・シェアーやジーノ・マーダーに、もちろんヒルシの指揮官となる予定だ。2015年フレッシュではアラフィリップと共に表彰台に上がったベテランの背後で、やはりウルフパックがせっせと牽引に励んだ。
このリズムを壊しにかかったのがルイスレオン・サンチェスであり、ポガチャルのチームメートであるルイ・コスタだった。フォルジュ坂のてっぺん間際で飛び出した2人組は、アラフィリップが自ら後を追った。ただ下りで2人をとらえ、さらに後方から集団が追いついてくると、またしてもデヴェナインスが最前列に進み出る。ライバル一同に秩序を強い、最終坂ロッシュ・オ・フォーコンの麓まで黙々と先頭を支配した。
最終坂ロッシュ・オ・フォーコンの序盤で、主導権をむしり取ったのはトム・デュムランだった。リーダーの1人としてツールに乗り込みながらも、途中からログラのために献身的に働いた元ジロ総合覇者は、この日もとてつもないリズムを刻んだ。いまだ60人ほど残っていた先頭集団を、わずか700mほどの力技でずたずたに切り裂いたのだ。
そして冒頭のアラフィリップのアタックへ。
「ロッシュ・オ・フォーコンでは全力で加速した。でも穴は作れなかった」(アラフィリップ)
1週間前の世界選手権では、加速一発で全員を振り切ったアラフィリップだが、この日は4人に追いつかれた。
残り10.5kmの急坂ではヒルシが仕掛けるも、脱落したのはクフィアトのみ。直後にログリッチとポガチャルも1度ずつ加速を切る。それでもこれ以上グループは小さくならない。最後まで先頭に残った4人、つまりアラフィリップ、ヒルシ、ログリッチ、ポガチャルはしばらく警戒しあい、顔を見合わせた後、一時的に協力体制を組むことに決める。なにしろ後方ではマチュー・ファンデルプールが10人ほどの集団を引っ張って、猛烈な追走を仕掛けていたから。
「スプリントに向けて最大限に集中しようと心がけた。でも集中力を切らさぬよう走り続けるのに、かなりの精神力を要した。このジャージを纏うことの重圧はどんどん大きくなっていったし、当然だけど全員が僕の敵だった」(アラフィリップ)
1年前のアムステル・ゴールドレースのように、MVDPが追いついてくることはなかった。代わりに同集団から飛び出してきたもう1人のスロベニア人(いや、ジュニア世界選を勝ち取った翌年にU23世界選を制覇し、スロベニア人としてはむしろ2人より先に世界を驚愕させた)マテイ・モホリッチが、フィニッシュ400mで4人をとらえた。その後輪にすかさず飛び乗んだアラフィリップは、ライン手前200mで決定的な加速を切った。
全てが上手く行っていれば、この日のゴール写真は、一生アラフィリップ家の居間に飾られるであろう宝物となったはずだ。マイヨ・アルカンシェルで出場した初めてのレースで、初めてのリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ制覇となるはずだったのだから..。
しかしアラフィリップは2つの重大なミスを犯した。1つ目が右フェンス際から突如として左へ流れると、背後にいたヒルシの進行を邪魔し、軽くホイールに接触してしまったこと。同様にヒルシの後輪にいたポガチャルも減速を余儀なくされる。2つ目は4番手から右側にスプリントを切ったログリッチを顧みることなく、残り15mほどで悠々と両手を上げてしまったこと。
真実はハンドルを投げたログリッチにぎりぎりでさされ、ラインを越えたのは2番手でしかなかった。しかもスプリント中に危険走行があったとして、同フィニッシュ集団内の最下位=5位へと降格処分を受けた。
「失望なんてキャリア中に何度も味わってきたし、この先もたくさん味わっていく。言い訳するつもりはない。ただ実際のところ、自分としては、それほど大きく波打った感覚はなかった。ヒルシには心から謝罪したい」(アラフィリップ)
ポディウム
「後悔はない。次のレースに集中するまで」とも世界王者は言い切る。おそらくこの言葉に嘘はない。だって2週間前のプランシュ・デ・ベルフィーユで、もっともっと深い失望を味わったであろうログリッチが、自転車チャンピオンというものがひたすら嘆くことだけで時を費やすような人種ではないことを、身を持って証明している。
「信じることを絶対に止めてはだめなんだ。最後の数メートルまで、最後の数センチまで、全力を尽くさなきゃならない」(ログリッチ)
ツールでの失敗は「教訓」であり、「成長するためのプロセス」と語るログリッチは、こうして早くも形ある結果を手に入れた。昨秋のブエルタ・ア・エスパーニャでスロベニア人として史上初めてグランツール総合制覇を成し遂げた30歳は、スロベニア人として史上初めてのモニュメント覇者となった。
「重要なワンデーレースでも自分が輝けるはずだと分かっていたし、僕は単なるステージレーサーではないはずだと信じてた。モニュメントを1つも勝てずにキャリアを終えたくなんかなかったよ!」(ログリッチ)
ログリッチと共に表彰台に立ったのは、1998年生まれの2人だった。世界選3位、フレッシュシュ・ワロンヌ1位、そしてリエージュ2位とヒルシは高いワンデー適正を示し、ツール総合優勝とリエージュ3位でポガチャルはなんでもこなせてしまう末恐ろしい器用さを発揮した。両者とも揃って「またこのレースに戻ってくるよ」とコメントしているから、現在22歳の2人は、この先少なくともあと10年はリエージュをもり立ててくれるのだろう。
ちなみに、ある意味で激動のシーズンを送ってきた4人の中で、このレースを最後に休暇に入るのはヒルシだけ。アラフィリップは水曜日のブラバンツ・パイルで速攻リベンジに向かい、18日のツール・デ・フランドルではなんとポガチャルと再度顔を合わせる予定だ。
3ヶ月も家から離れてたというログリッチは、家でゆっくりと勝利の喜びを噛みしめる暇もないままに、10月20日開幕のブエルタ・ア・エスパーニャへ連覇目指して乗り込んでいく。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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