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サイクル ロードレース コラム 2020年8月18日

【クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ:レビュー】ベルナルもログリッチも途中棄権。頂点に君臨したのはコロンビアの新星ダニエル・マルティネス!

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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イネオス

途中棄権した昨季のツール王者エガン・ベルナル(写真中央)

状況がクリアになると予想されていた。ところが蓋を明けてみれば、混沌はますます深まるばかり。2020年クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ、言い換えればツール・ド・フランス前哨戦は幕を閉じたが、果たして9月の本番になにが起こるのかはまるでわからない。

誰もが理解できたこともある。それはユンボ・ヴィスマが、どこよりもしっかりと仕上げてきたということ。個々としても強く、チームとしてはさらに強いということ。昨12月に早々とツール・ド・フランス用のメンバー8人を発表したオランダチームは、間違いなく、1984年のチーム創設以来初めてのツール総合獲りに本気だ。そのモチベーションたるや恐ろしいほどである。

ワウト・ファンアールトのシーズン再開後3勝目(初戦8月1日ストラーデ・ビアンケ、3戦目8日ミラノ〜サンレモ、4戦目12日ドーフィネ第1ステージ)でユンボ軍団はパワフルに走り出すと、2日目の山頂フィニッシュでトリオリーダーの一角、プリモシュ・ログリッチが区間勝利。あっさりと総合首位に躍り出る。

6月21日のスロヴェニア国内選手権で、一足早くシーズン再開していたログラは、ここまでほぼノーミスで走り続けてきた。国内選ロード優勝→国内選個人TT2位→ツール・ド・ラン第1ステージ2位(集団スプリントにも関わらず!)→第2ステージ優勝→第3ステージ優勝→ラン総合優勝→ドーフィネ第1ステージ9位→そして第2ステージの区間勝利。さらにログリッチは3日目も、大逃げ勝利を飾ったダヴィデ・フォルモロの後方で、区間2位争いの山頂スプリントを制した!

ところでドーフィネは1チーム7人制のため、ツール・ド・フランス本番より、各チームのメンバーは1人少ない。だから今大会のユンボ・ヴィスマは、ログリッチ、ファンアールト、トム・デュムラン、ステフェン・クライスヴァイク、トニー・マルティン、セップ・クス、ロベルト・ヘーシンクで乗り込んだ。つまりツール組の残りの1人、ジョージ・ベネット(12月の時点で選ばれたのはローレンス・デプルスだが、体調不良のため6月に入れ替え)は、ドーフィネの代わりにイタリアで大暴れ。グラン・ピエモンテで優勝を果たし、イル・ロンバルディアで2位と、やはりツールに向け準備万端であることを示した。

このロンバルディア当日の8月15日は、自転車界にとってひどく不穏な1日となった。イタリアでは若き至宝レムコ・エヴェネプールが崖下に転落し、ドイツチャンピオンのマキシミリアン・シャフマンが、コース内に進入した自動車と衝突事故を起こした。ドーフィネでは、昨ツール総合4位エマヌエル・ブッフマンが落車で離脱を余儀なくされ、フランス期待の星ティボー・ピノもやはり落車で背中を痛めた。

ログリッチェ

ログリッチ

なによりこの不運の渦に、ユンボ・ヴィスマも巻き込まれてしまう。やはりエース格を引き受けるクライスヴァイクは、落車による肩脱臼で大会を去った。ログリッチさえ落車で一時は集団に遅れを取る。最終的にはメイン集団内の上りスプリントで2番目に食い込み、難を上手く逃れたかに思われたが、翌朝スタート地には姿を表さず。大事を取って、総合リーダーのまま戦いの場を離れた。

たしかに大会最終日には、緑ジャージのファンアールトが凄まじい牽引力を発揮した。自分のために走る機会を得たデュムランも、どうやら本調子を取り戻しつつあることを匂わせた。さらには山岳アシストのセップ・クスが、独走勝利をもぎ取った。2人のリーダー抜きでも、ユンボの強さは光った。しかしツール・ド・フランス開幕を2週間後に控えるこの時期に、ログラとクライスヴァイクが身体を痛め、調整スケジュールにずれが生じた。小さな疑問符が灯ってしまったことは、否定できない。

むしろイネオスには、大きな疑問符が点滅した。過去8回のツール・ド・フランスのうち、7回を勝ち取ってきた英国精鋭軍は、やはりトリオリーダー制で挑んだ。しかしツール・ド・ランでも、ドーフィネでも、ユンボの黄色い隊列に圧倒される場面が多かった。しかもグランツール総合7勝クリス・フルームと2018年ツール総合覇者ゲラント・トーマスは、リーダーを務めるどころか、アシストとしてさえ十分に働けぬまま。おかげでエガン・ベルナルは、しばしば孤軍奮闘を余儀なくされた。

ダニエル・マルティネ

総合優勝のダニエル・マルティネ

ベテランの先輩とは異なり、現役ツールチャンピオンは、復帰戦ルート・ドキシタニー総合制覇で好調にシーズンを再開している。ツール・ド・ランではログリッチとの直接対決に敗れて総合2位。といっても両者を分けたものは、2度のボーナスタイムと、最終日の山頂スプリントでついた4秒のみ。この成績は不安材料どころか、むしろトリオ内でのヒエラルキー固めに有効だったはず。またドーフィネ初日も、坂道スプリントで3位に食い込む奮闘を見せた。

ところがログラが首位をかっさらった2日目に、総合4位に甘んじると、3日目には7位陥落。そして第4ステージには出走することをやめた。背中に痛みがある、という理由で。

ただベルナルの途中棄権は、フェイクではないかとも囁かれている。つまり本人に敗北の記憶を植え付け、イネオスはもはや無敵ではないという意識を周囲に芽生えさせるよりも、被害を最小限に食い留めたほうがいい。積極的後退。報道によれば、23歳の王者が背中を痛めたことはいまだかつて一度たりともない。しかもリタイア当日は早めにホテルを離れ、同伴カー付きでトレーニングに出かけたようだ。

こうしてユンボvsイネオスのガチンコ対決は、ユンボの圧倒的優勢のまま、一旦終わりを告げた。退却したログリッチの代わりに、最終日を総合首位としてスタートしたピノもまた、ツール・ド・フランスに向けて好材料を持ち帰れなかった。落車のせいで完全ではない身体に鞭打つも……ダニエル・マルティネス24歳、タデイ・ポガチャル21歳、パヴェル・シヴァコフ23歳、4日目の区間勝者レナール・ケムナ23歳等々の恐れを知らぬ若者たちの波状攻撃に翻弄され、ついには逆転負けを喫してしまう。

頂点に立ったのはマルティネス。ベルナルが去り、ナイロ・キンタナも最終日に途中で自転車を降り(7月の事故落車の膝の痛みが引かないため)、チームメートのリゴベルト・ウランやセルジオ・イギータからは心からの祝福を受けて……また新たなコロンビア選手が、ツール・ド・フランスでの大暴れを予感させた。

ちなみに昨夏を大いにわかせたジュリアン・アラフィリップは、大会終盤に2日連続で逃げにトライしたが、勝利には届かなかった。約5ヶ月の中断を経て、8月1日にシーズンが本格再開してから、走行日数はたったの7日。「僕はまだ100%じゃない」とのアラフィリップの言葉は、きっと誰にとっても真実なのだ。

文:宮本あさか

Cycle*2020 クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ 第5ステージ ハイライト

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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