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サイクル ロードレース コラム 2019年10月25日

【ジャパンカップ / レビュー】ハイスピードである上に、極めてハイレベル。トレック・セガフレードが2日連続で歓喜

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ジャパンカップ

スピードの速いレースになる。事前に予言する者は多かった。日本ナショナルチーム監督の浅田顕も、その1人だった。

「集団の人数が多いままで、最終盤、特に下りに突入したくないはずなんです。つまりワールドツアー勢は、日本のコンチネンタル勢を早めに振り落としにかかる。速いレースになりますよ」

2019年ジャパンカップは、こうして高速で走り出した。宇都宮森林公園に作られた全長10.3kmのコースを全部で14周回こなすうちの、その1周目を、大会委員会側があらかじめ計算していた周回タイムより1分近くも速く駆け抜けた。準備の出来ていない者たちは、あっという間に後方へと置き去りにされた。

ハイスピードである上に、極めてハイレベル。昨季から出場人数が倍以上に増え、119人に大きく膨らんだプロトンから、2周目に8人の逃げ集団が出来上がる。例年ならば逃げを後方でコントロールしつつ最終盤に備える……傾向にあったワールドツアー勢が、今大会は全5チームがそれぞれ前に1人ずつ送り込んだ!今年のジロ・デ・イタリアで山岳賞を持ち帰り、ツール・ド・フランスではマイヨ・ジョーヌを纏ったジューリオ・チッコーネの姿さえあった。

一方で日本人選手はゼロ。国内コンチネンタルチームからはすでに43歳とは言え、かつてグランツール総合表彰台経験を持つスペイン人フランシスコ・マンセボ・ペレスが唯一喰らいついた。日本ナショナルの石原悠希が遅れて追走に乗り出すが、6周回目で「芋掘り」は終わった。

その代わり、メインプロトンの最前線に、日本勢がずらりと居並ぶことになる。2018年大会も宇都宮ブリッツェンが、3人のエスケープの後方で、集団コントロールに励んだものだ。ただし1年前とは状況が違う。昨大会のブリッツェンがあえて積極的に牽引を選んだのに対して、今回の日本勢には「引く」以外の選択肢は与えられなかった。ワールドクラスの逃げ集団の後方で、宇都宮ブリッツェン、チームブリジストン サイクリング、シマノレーシングチーム、チーム右京は必死の制御を余儀なくされた。タイム差が2分以上に開かぬように。

しかし10周目にワールドチームがこぞってメインプロトン前方へと上がり始め、11周目にユンボ・ヴィスマが猛攻に転じると、あっさり逃げ集団は吸収される。同時にメイン集団は一気に小さくなり、牽引作業で疲弊しきった日本のコンチネンタル勢は、ほぼ全員まとめて後方へと切り捨てられた。

つまりワールドツアー勢が望んだように、最終盤は少人数精鋭の戦いへと持ち込まれた。中でも15人の集団に4人を送り込んだユンボ・ヴィスマが、恐るべき波状攻撃を開始した。

高い独走力を誇るニールソン・ポーレス が独走に持ち込み、この夏のツール・ド・フランス総合3位ステフェン・クライスヴァイクやブエルタ・ア・エスパーニャ区間勝利のセップ・クスが加速に転じた。全てはジャパンカップ直前の、秋のイタリアンクラシック連戦の主役たち……10月6日GPベゲッリ優勝ソンニ・コロブレッリ、10月9日ミラノ~トリノ優勝マイケル・ウッズ、10月12日イル・ロンバルディア優勝バウケ・モレマを振り落とすため。

「作戦としては間違っていなかったし、我々のチームは間違いなく最強だった。しかし個々としては……今回は最強ではなかった」

こう監督のリヒャード・ブラヒエが振り返ったように、ユンボは要警戒人物をどうしても引きちぎれなかった。むしろ13周目の古賀志林道で、チッコーネの手厚いアシストを受けたモレマがいよいよ攻撃に転じると、黄色軍団は反応さえできなかった。ただウッズだけが追随し、「個々として今回最強」の2人は、そのまま全てを置き去りにした。

最後はジャパンカップ「経験」の差が出た。もしくは台風被害を乗り越えて開催されたレースだからこそ、「絶対に勝つ。そうすることで皆さんに思いを伝えたい」と語っていたモレマの「信念」の強さも、味方したのだろうか。2015年に4人でのスプリントを勝ち取ったモレマは、今年はウッズとの一騎打ちを落ち着いて制した。前日のエドワード・トゥーンスによるクリテリウム優勝に続き、トレック・セガフレードが2日連続で歓喜の声を上げた。

3位争いはディオン・スミスが制し、序盤から逃げていたマンセボは4位。組織的に動いたユンボは、クスの5位が最高位だった。NIPPO・ヴィーニファンティーニ・ファイザネで3年前から本場欧州のレースを転戦し、「その経験こそが今日につながった」と語った中根英登は、6位に食い込んだ。自ら何度も差を埋めに行き、最終盤は両脚が攣る中での奮闘だった。

凄まじいスピードは、最後まで衰えなかった。144.2kmを走り終えての最終的な走行時速は、時速39.11km……つまり28回を誇る大会史上、最速だった。フィニッシュラインを越えたのは、たったの40人。つまり史上最速のジャパンカップはまた、大会史上最低級の完走率に終わった。

昨季から参加人数が約2倍に増え、戦いのレベルも倍増したジャパンカップは、この先も格・質ともに上げていく。2020年シーズンからは、大陸別ツアーから離脱し、UCI国際自転車競技連合が新たに創設する地球規模の「プロシリーズ」に組み込まれる。近い将来にはワールドツアー登録も目指す。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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