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【ブエルタ・ア・エスパーニャ 2019】カオスを振り払ったログリッチェが快挙に挑む。「大会最終週を恐れてはいない。むしろワクワクしている」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか「史上初」の快挙へと、プリモシュ・ログリッチェは力強く、真っ直ぐに突き進む。大会1週目のカオスを振り払い、自らを頂点とするヒエラルキーを着々と築きつつある。
20秒差で4強がひしめく状態から、1強体制へ――。スペイン一周がフランスで過ごした1度目の休息日の翌日に、総合争いの力関係はがらりと変わった。得意とする個人タイムトライアルで圧倒的なトップタイムを叩き出し、第10ステージで、ログリッチェが区間勝利とマイヨ・ロホを同時にさらいとったからだ。しかも、わずか36.2㎞走っただけでアレハンドロ・バルベルデに1分38秒、ミゲールアンヘル・ロペスには2分……赤いジャージをまとって最後に走り出したナイロ・キンタナに至っては3分06秒もの差を押し付けてしまった!
この時点で早くも総合2位以下を1分52秒も突き放したログリッチェだが、決して気を緩めなかった。その逆だ。攻撃は最大の防御なり、の精神を最大限に発揮し、機会が訪れるたび加速を切った。
たとえば第13ステージの超激坂フィニッシュでは、同国の後輩タディ・ポガチャルとタッグを組み、4強のその他ライバルをまとめて置き去りにした。2日後には、チームメートのセップ・クスの見事な逃げ切り勝利の背後で、バルベルデと一時的に共闘。キンタナをはるか遠くへ置き去りにした。その翌日の第16ステージでは、超級山岳を舞台に、ポガチャルとロペスの新人賞争いに上手く乗じた。今度はバルベルデを切り捨てた。
つまり大会2週目のログリッチェは、総合ライバルから「ペダル」で1秒たりとも失ってはいない。第13ステージのフィニッシュでポガチャルにボーナスタイム10秒を献上したのみ(自身は6秒獲得)。むしろTT翌日からの6日間でバルベルデに新たに56秒を叩きつけた。びっくりするような集団落車のせいで、40秒ビハインドでブエルタを走り出したスロベニア人は、今や2分48秒ものマージンを手に2度目の休息日を過ごす。
「大会最終週を恐れてはいない。むしろワクワクしている」
過去2回参戦したツール・ド・フランスでは、いずれも3週目に区間勝利を上げている。もちろんジロでの苦い経験も忘れてはいない。幸いにも5月のイタリアとは違い、今回はとてつもなく頼もしいアシスト勢が脇を固める。「ログリッチェと一緒に表彰台に登りたい!」と無邪気に語るポガチャルという、チームの枠を越えた力強い味方さえいる。
こうしてログリッチェが一歩抜け出し、表彰台の残り2つの席を巡る争いは3人に絞り込まれた。「ツールを走った後のブエルタは、いつだって調子が不安定なものさ」と開幕前から語っていたキンタナは、この2週目で首位からずるずると総合6位まで陥落。代わってポガチャルが表彰台争いに割り込んだ。しかも9日目のアンドラで初めての区間勝利を達成した20歳は、13日目には早くも2勝目を挙げ、総合で上から3番目へと駆け上がった。
表彰台から突き落とされ、現在総合4位に甘んじるのはロペス。連日アタックを試みるも、ポガチャルに新人賞の白いジャージさえむしり取られた。ただし目標に対する執念深さはお墨付き。昨季ジロも昨ブエルタも、第20ステージで表彰台3位に滑り込んだのだ!一方で39歳の世界チャンピオンは、2位の座を堅守し続ける。3週目はついにモビスターの単独エースとして戦う。ちなみに1年前のブエルタでは第19ステージまで延々総合2位を守りつつ……最終的に5位で終えている。もちろん昨夏に10日間のツール・ド・ラヴニールを制したポガチャルにとって、3週目は完全に未知なる領域だ。2位バルベルデ、3位ポガチャル、4位ロペスまでは1分11秒差。3位ポガチャルと4位ロペスの差はわずか17秒のみ。
ところで7日目にすでに両手を挙げているバルベルデは、当然ながら9月末のことも考えつつ走らねばならない。スペインの永遠のエースとして、世界選手権での連覇が期待されるからだ。同じく37歳大ベテランのフィリップ・ジルベールも、第12ステージ勝利でアルカンシェル候補に名乗り出た。ツールで14日間マイヨ・ジョーヌを着用したジュリアン・アラフィリップがあくまで優勝大本命と言われるが、その「ルル」と春先のワンデークラシックで3度対等に渡り合い、締めくくりにリエージュ〜バストーニュ〜リエージュを勝ちとったヤコブ・フグルサングだって、間違いなくヨークシャーでは要注意人物。ご存知の通りブエルタ第16ステージをパワフルに制し、確実に調子を上げている。
2019年ブエルタ・ア・エスパーニャも残り5日。うち山岳ステージの2日間で、総合争いはどう動くだろうか。自身にとって初めての、スロベニアにとって史上初めての、そしてユンボ・ヴィスマにとって史上初めてのグランツール総合制覇を、ログリッチェは持ち帰ることが出来るか。
そうそう、これまでの16日間で、集団スプリントの機会はたったの3回しかなかったけれど……少なくとも厳しい山を残り越えて最後まで生き残ったスプリンターたちには、最終日マドリードで思いっきり加速するチャンスが与えられる(はず)。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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