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【ツール・ド・フランス 2019 第21ステージ / レースレポート】コロンビア人選手による史上初の総合優勝。エガン・ベルナル「今日は僕が世界で一番幸福な人間」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか不可侵の栄光と不滅の歓喜、痛みの畝に、正しき芽が伸びる——。こう謳い上げる国歌を、パリのシャンゼリゼ大通りに詰めかけた無数のファンが、幾度も幾度も連呼した。絶叫の先には、エガン・ベルナルがいた。2019年7月28日、ツール・ド・フランス第106回大会は、コロンビア人選手による史上初の総合優勝で幕を閉じた。100年目のマイヨ・ジョーヌが、初めて南米大陸へと渡った。
あんなに暑かった数日間がまるで嘘のように、7月最後の日曜日、肌寒い空気がパリを包み込んでいた。3週間前にブリュッセルから走り出した176人のプロトンは、4つの山岳地帯を越え、標高2000m超級の山々をよじ登っていくうちに、155人にまで数を減らしていた。フランスの首都到着の24時間前、アルプスはヴァル・トランスの山頂で、マイヨ・ジョーヌを含む全ての総合争いはすでに決着がついていた。
ペーター・サガンは大会史上初めて7枚目のポイント賞マイヨ・ヴェールを持ち帰り、ロメン・バルデが3年連続のフランス人山岳マイヨ・ア・ポワをもたらし、総合トップ10に3選手を送り込んだモビスターが2年連続でチーム総合首位を祝った。大会の3分の1、つまり14日間に渡ってフランスに黄色い夢を見せたジュリアン・アラフィリップも、スーパー敢闘賞としてシャンゼリゼの表彰台に乗ることを許された。もちろん第一次世界大戦以降では最も若いツール・ド・フランス総合王者であり、つまり史上で最も若い22歳の「マイヨ・ジョーヌ」が戴冠式に臨む前に……恒例の華やかなスプリント合戦が繰り広げられた!
都会の石畳路を4選手が逃げ、スプリンターチームは大会最後の列車を組み上げた。最終周回のコンコルド広場ではドゥクーニンク・クイックステップが最前列を確保し、最終ストレートに入るとエドヴァルド・ボアッソンハーゲンが不意打ちのロングスプリント。激しいスピード合戦の中で、道路左からディラン・フルーネウェーヘンが競り上がり、反対側の右ではカレブ・ユアンが急速に追い上げハンドルを投げた。
生まれて初めてツールのスタート地に立ち、今大会の11番目のステージで生まれて初めてツール区間を制し、つまり史上最年少で全3大ツール区間制覇を成し遂げた25歳にとって……21日目にして早くも3つ目の栄光だった。しかも本人曰く「スプリンターが勝利を願うあらゆるステージの中でも、これぞクイーンステージ」での勝利。いつもよりもひときわ高い表彰台から、世界で最も美しき大通りの眺めを楽しんだ。それから、すっかり日の落ちたシャンゼリゼをひとり自転車に乗って、チームの仲間のもとへと帰って行った。「おめでとう!」なんてコロンビア人たちから声がかかると、しみじみと幸福そうな笑顔で、「君たちこそおめでとう!」なんて返しながら。
対照的にベルナルは、身動きもできぬほどファンやメディアにもみくちゃにされながら、それでも「今日は僕が世界で一番幸福な人間」だと感じていた。「だってツールだよ。ツール・ド・フランスだよ。自転車選手にとっては、世界でこれ以上に重要なものなどないからね!」
その世界で最も重要なレースを、チームイネオスは、2010年の創設以来7度目5年連続で勝ち取った。長年親しまれてきた黒地に水色から、この春チームカラーをワインレッドにに着替えたけれど、この日ばかりはすべてのレース車両が黒と黄色に塗り替えられた。いたるところに「7」の文字が誇らしげに輝き、そこには2012、2013、2015、2016、2017、2018、2019……の数字が添えられた。またベルナルとゲラント・トーマスによる同チームのワンツーフィニッシュは、ブラッドレー・ウィギンスとクリス・フルームが上位2つの席を独占して以来。ただし英国チームのイネオスにとっては、初めての「外国人選手」によるグランツール制覇でもあった。
2019年夏の大きな輪はこうして閉じ、11カ月後の南仏ニースで、再び21日間の戦いへの扉が開く。もちろん、その前に、プロトンはスペイン一周へと大急ぎで向かう。ブエルタ・ア・エスパーニャは8月24日スタート。ツールで思い通りに輝けなかった選手たち、怪我や不調でツールに出場できなかった選手たちによる……大リベンジ合戦も楽しみだ。
<選手コメント>
■カレブ・ユアン(ロット・スーダル)
(ステージ優勝)「信じられないよ! シャンゼリゼに入ってきたとき、もう少しで涙が出てしまうところだった。現実とは思えないような感覚だった。たった今、そのステージで優勝したなんて、信じられない。このツールの出だしはかなりスローで、このままでは何も起こらないまま終わってしまうんじゃないかとも思った。けれど、後半は信じられないような展開になったんだ。後半のスプリントステージはすべて僕が勝ったことになる。正直言って、言葉がないよ。たった今、シャンゼリゼで勝ったなんて。スプリントに入るかなり前からかなりごちゃごちゃしていたけれど、とにかく我慢してタイミングを待たなくちゃならないと自分に言い聞かせた。前に何人がいるかさえわからなかった。タイミングを見計らって右側から飛び出した。ここでスプリントをしたことのあるスプリンターたちが、右側は行っちゃダメだって教えてくれていたのにね! 確かに右側はかなりデコボコしていたけれど、幸い最後までスピードを保つことができた。8年前にシャンゼリゼを初めて訪れたとき、いつかここで勝つ、と言ったんだ。最初のツールでそれが実現するなんて、夢みたいだよ!」
出典:主催者による公式インタビューの動画より
■エガン・ベルナル(チーム イネオス)
(個人総合優勝・新人賞)「チームの全員にありがとうを言わなくちゃならない。ありがとうG(ゲラント・トーマス)、僕にチャンスをくれて。そしてチームのみんな、サポート、そして僕を信じてくれたことにありがとう。今日、僕は世界で一番幸せな男です。僕はツール・ド・フランスを勝ったんだ。信じられないよ」 出典:最終表彰台上でのコメント
「すごいことだよ。何を言ったらいいかわからない。僕はツールで勝ったんだ。これを本当の意味で実感するのにはきっと時間がかかると思う。家族の顔を見たとき、ただ一人一人を自分の腕に抱きしめたかった。この喜びは言葉では言い表せない。コロンビアにとって初めてのツール総合優勝・・・これまで何人もの選手が挑戦してきた。僕らの国にはこんなに長い自転車競技の歴史があり、ジロとブエルタも制覇したのに、ツールだけは勝てていなかったんだ。コロンビアはこの勝利を受け取るにふさわしいと思う。そして、初めてその夢を実現する者になれたことを誇りに思う」出典:主催者による公式リリースより
■ペーター・サガン(ボーラ・ハンスグローエ)
(ポイント賞)「この7回目のグリーン・ジャージをとてもうれしく思う。毎年ここに戻るたびに、自分のベストを尽くそうとしているから。思い返せば、初めてのグリーン・ジャージは大きなサプライズだった。ステージを勝つつもりでやってきたのに、このジャージまで手に入れてしまったんだ。2回目はツールの100回記念大会だった。それからは僕も少し慣れてきて、もう少しこのジャージを狙いやすくなってきたんだ。このグリーン・ジャージでツール・ド・フランスの歴史を作ることができて、うれしいよ。このツールを振り返って一番の思い出は、第5ステージの勝利だな。もう一つは、山岳ステージが二つ、短縮になったこと! あれは僕にとってはいいニュースだった。あともう一つ、ここパリでフィニッシュラインを越えた瞬間。すばらしくいい気持ちだったよ」出典:主催者の公式リリースより
■ロメン・バルデ(AG2R ラ モンディアル)
(山岳賞)「いい終わりだったね。失敗からも挽回のチャンスはある、ということを教えてくれた。赤い水玉のジャージは、子供のころに愛したツールのイメージそのものであり、僕が愛する自転車競技のシンボル。だからそれを手に入れてシャンゼリゼで身にまとうことができることを、誇りに思う。今年は最後の山岳ステージでこのジャージを手に入れられることが決まった。数年前には最後の山岳ステージで失ってしまったから、今年は運が味方をしてくれて、うまくいったね」出典:主催者の公式リリースより
■ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)
(スーパー敢闘賞)「すばらしい、本当に特別な体験だった。マイヨ・ジョーヌを着ることは夢だったけれど、まさか14日間も着ることができるなんて。マイヨジョーヌを一日でも長く着続けるために僕が闘っている間、チームメートは僕のために走り、僕を守ってくれた。人々からの応援も最高だった。名前を呼んで、励まし、勇気づけてくれた。お礼を言いたい気持ちでいっぱいだよ。こんなことが実際に起こるなんて、想像したこともなかった。いつかツールを総合5位で終えられるなんてこともね。スーパー敢闘賞も受け取って、きっといつまでも忘れることのないこのツール・ド・フランスから、最後にすてきなボーナスをもらった気持ちだよ」出典:チームの公式リリースより
■ゲラント・トーマス(チーム イネオス)
(総合2位)「2年前の今頃、僕は鎖骨を骨折してつり包帯で腕を固定され、自転車に乗ることさえできなくて絶望していた。それが2年後、2度目のツールを勝てなかったことにがっかりしているんだからね! トレーニングや体調をしっかり管理して、いいコンディションでツールに来れたことを誇りに思う。ツールが始まってからは万事快調とは行かなかったけれど、チームのサポートは信じられないほどだったし、おそらくこれからたくさんツールを勝つことになるだろうエガンの初めての勝利に、仲間として関わることができた。そして2位の表彰台に立てたことは、大きな成果だと思う。でも今は、家に帰ってドアを閉め、スイッチオフできることを本当にありがたく思う。感情面でも精神面でも肉体的にも、とても消耗する3週間だった。自転車競技の頂点、子供のころに夢見たレース ― もちろん素晴らしい体験だよ。けれど同時に、本当にきつい何週間、何ヶ月だった。だから、スイッチを切ることができるのが待ち遠しいんだ」出典:チーム公式リリースより
■ステフェン・クライスヴァイク(チーム ユンボ・ヴィスマ)
(総合3位)「とても特別だった。表彰台を自分の目標にしてきてそれが叶ったのだから、うれしい気持ちだけだよ。僕が達することができる最高の場所がここだったと思う。今日は無事にフィニッシュに辿りつくことだけに集中した。フィニッシュラインを越えた瞬間、総合3位でツールを走り終えたんだ、という実感が本当に湧いてきた。これは本当に、信じられないくらい美しい出来事だよ。僕のこれまでのキャリアでは間違いなく最高の栄誉だ。けれど、これからはまた、もっと上を目指していくよ。これまでの3週間僕を支えてくれたチームに感謝の気持ちでいっぱいだ。チームの一人一人がすばらしかった。チームとしても4勝挙げて、これ以上ないほど最高のツールになったね」出典:チームの公式リリースより
■ディアン・フルーネウェーヘン(チーム ユンボ・ヴィスマ)
(ステージ2位)「ラスト1kmはかなりバタバタしていた。僕たちのチームはいい位置にいなかったんだ。左側からスプリントした僕を、ユアンは右側から抜いていった。残念だけど、今日一番速かったのは彼だったね。ブリュッセルで落車したりいろいろなことが起きたツールだったけれど、ステージ1勝できたことがうれしいよ。チームで4勝してステフェンが表彰台に立って、僕たちにとってすばらしいツールだったと思う」」出典:チームの公式リリースより
コメント翻訳:寺尾真紀
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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