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サイクル ロードレース コラム 2019年7月25日

【ツール・ド・フランス 2019 第17ステージ / レースレポート】翌日からはアルプス3連戦。アラフィリップ「何があっても後悔しない。心はやる気にあふれている」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ジュリアン・アラフィリップ

まさに嵐の前の静けさ。巨大な逃げが容認され、ヨーロッパチャンピオンのマッテオ・トレンティンが独走勝利を飾った。翌日からのアルプス山岳3連戦を前にメイン集団は、マイヨ・ジョーヌのジュリアン・アラフィリップ曰く「節約モード」で走った。なにより13回目の総合首位表彰式の後、マイクの前できっぱり宣言した。「人生で今以上にモチベーションを抱いたことはない。マイヨ・ジョーヌを守るために戦う」と。

いわゆる「逃げ屋」にとっては、2019年ツールで最後のチャンスだった。プロトン屈指の逃げ巧者トーマス・デヘントが、当然のように、スタートフラッグが下ろされると同時に飛び出した。すぐに大量の選手が続き、あっさり33人の大きなエスケープが出来上がった。

22チーム中17チームが滑り込み、総合上位を脅かす選手はゼロ。後方集団はすぐに手綱を緩めた。おかげでタイム差は広がっていくばかり。ステージのちょうど折り目の100km地点では、すでに10分20秒差がついた。さらに残り50kmで差は14分15秒に拡大した。

残り85kmで激しい通り雨に襲われても、後方の集団が帰宅の足を速めることはなかった。むしろ「エクストリーム・ウェザー・プロトコル」に則って、この日の制限時間は「区間勝者のタイム」ではなく「メイン集団のタイム」が基準にされることがスタート前に発表されたせいか、さらなるエコモードで無理せず集団から脱落していく選手もちらほら。

ただフィニッシュ手前17kmほどで、小さないざこざが発生する。総合2位ゲラント・トーマス擁するチームイネオスのルーク・ロウと、総合3位ステフェン・クライスヴァイクを支えるユンボ・ヴィスマのトニー・マルティンが、先頭ポジションを巡ってちょっとした意地の張り合いを行ったのだ。すぐにアラフィリップが「ねえ、ステージ勝利を争ってるわけじゃないんだから、静かに行こうよ」と声をかけたそうだ。両者もすぐに和解したと言う。ところがテレビ生中継で……一部始終が映し出されていた。当然ながら大会審判団は小さな悪事を見逃すわけにはいかない。2人にはレースからの除外処分が下された。

マッテオ・トレンティン

一方で大量のリードを与えられた前方集団は、フィニッシュまで40kmを残して、早くもステージの栄光を巡るバトルが勃発した。アタックと、無数の駆け引き。徐々に集団サイズは小さく削られていく。ついには一桁台にまで数を減らした先頭集団から、残り14km、トレンティンが飛び出した。3級峠の登坂口に差し掛かる、ほんの直前だった。

「最後の上りを自分のリズムで上りたかったし、先行することで、後々のアタックにもついていけると考えたから」との作戦を実行したトレンティンだが、結局は誰も追いついてはこなかった。後続に37秒もの差をつけて、悠々とひとりでフィニッシュラインを越えた。「まさか僕に独走勝利ができるなんて考えたこともなかった」と告白した通り、グランツールでは区間8勝目にして、初めての独走勝利でもあった。ほんの3日前に東京2020テストイベントの現場に立ち、とんぼ返りでツール視察に訪れたイタリア代表監督ダヴィデ・カッサーニの目の前だった。

この夏4歳の誕生日を迎えるヨーロッパチャンピオンジャージが、華々しい勝利を挙げた20分10秒後、生誕100年を祝うマイヨ・ジョーヌがフィニッシュラインへと滑り込んだ。会場のレースコメンテーターが「ギャップではいまだかつてマイヨ・ジョーヌ交代劇が見られたことはありません!!」と連呼していたように、25度目のギャップフィニッシュも黄色のアラフィリップにとっては安泰だった。

翌日からはいよいよアルプス3連戦の幕が開く。「何があっても後悔しない。体はへとへとだけど、心はやる気にあふれている」と語るアラフィリップは、1985年ベルナール・イノー以来34年ぶりに、フランスにマイヨ・ジョーヌをもたらすために走る。1分35秒遅れの総合2位トーマス以下は、3位クライスヴァイク1分47秒差、4位ティボー・ピノ1分50秒差、5位エガン・ベルナル2分02秒差、6位エマヌエル・ブッフマン2分14秒と、かつてないほどの僅差で強豪たちがせめぎ合っている。標高2000mを超える神々しい山々が、クライマックスの舞台だ。

<選手コメント>

■マッテオ・トレンティン(ミッチェルトン・スコット)
(ステージ優勝・ステージ敢闘賞)「本当に感情が湧き起こってくるフィニッシュだった。ソロアタックで勝ったのはキャリアで2回だけ。それをツール・ド・フランスで、このフィニッシュラインで、この面子の先頭集団からやり遂げたなんて、感無量だよ。クリス(クリストファー・ユールイェンセン)が大きな助けになってくれた。相談して、彼が序盤のアタックをカバーしてくれることになった。実際にたくさんの逃げの試みを彼がつぶしてくれた。そして、強力なメンバーでアタックがかかったとき、僕がそれについていくことができたんだ。完璧な筋書きだった。逃げの中に協調体制がなかったから、何度かアタックを試みた。10秒ほどの差を開くことができたら、後ろはお見合い状態になって、今の自分の脚ならそのまま逃げ切ることができるんじゃないかと思った。向かい風だったし、後ろ(一緒に逃げていた集団)がうまくローテーションを組めば追いつかれてしまう心配があったけれど、杞憂だった。最後の峠(3級サンティネル峠)の頂上を越えてからは、リスクは最小限に抑えつつも、あとは全力で行くだけだった」出典:チームの公式リリースより

■ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)
(総合リーダージャージ)「何もミスをおかさずにマイヨ・ジョーヌでガップにたどり着くのに、本当に集中が必要だった。マイヨ・ジョーヌは名誉であり、喜びであり、重責でもある。レースの中でプロトンをまとめる役割も果たさなくてはならない。今日のレースでは途中で選手たちがピリピリした雰囲気になり、僕は皆を落ち着かせて、状況を収めようとした。今日僕は決してアタックしないから、不要なリスクをとらないようにと伝えたんだ。明日からはツールの最高の舞台、アルプスの難関ステージが始まる。準備はできているよ。脚は辛いだろうけれど、こんなに強い意志とモチベーションでレースを走ったことはないから。僕のチームが山岳でのベストチームじゃないことは誰もが知っている。できる限り長くチームメートと一緒に走るようにはするけれど、他の総合狙いのチームもレースをコントロールしなくてはならないよ」」出典:レース主催者の公式リリースより

■エガン・ベルナル(チーム イネオス)
(新人賞ジャージ)「今年のツールは、明日からのアルプス3連戦のどこかで勝負が決まる。クライマーたちは皆、何か仕掛けてくるよ。ピノ、ランダ…力を出し惜しみする選手はいないだろう。17日間もレースをしてきたあとで、いい調子の脚の状態を保つのが一番難しいことだ。どこかのチームがペースを上げただけで、大きな差が開く可能性もある。イネオスがどんな走りをするかは、そのときの調子によるよ。もし脚がなければ、レースを動かすことはできない。アラフィリップはリードを守っているね。ピレネーでマイヨ・ジョーヌを失うかもと思っていたけれど、失わなかった。調子も良いみたいだし、(総合の)ライバルとして数に入れなければならないね」出典:レース主催者の公式リリースより

■ペーター・サガン(ボーラ・ハンスグローエ)
(ポイント賞ジャージ)「集団にいたから、勝利を争うチャンスはなかった。レース序盤、ポイント賞ジャージのライバルであるコロブレッリ、ヴィヴィアーニ、マシューズの動きを封じようとしていて、逃げに乗ることができなかったんだ。その後は一日気温がかなり高くて、雨が降るまでは走りにくいコンディションだった。結果的には僕にとっての休息日になったね。アルプスは誰にとっても毎日ハードなレースになるよ」出典:主催者の公式リリースより

■ティム・ウェレンス(ロット・スーダル)
(山岳賞ジャージ)「明日が重要になるね。たくさんの運が必要だ。逃げに乗れて脚の調子も良ければ山岳ポイントを獲得できるかもだけど、決して簡単ではないだろう。気温がとても高くて今日は苦しんだけど、それは誰にとっても同じだったからね。今のところ調子は良いけれど、普通以上の調子の良さじゃないと、明日はだめだ。1日で合計90の山岳ポイントだから、山岳賞争いはどんな方向に行ってもおかしくない。数多くのライバルがいるんだ」出典:主催者の公式リリースより

■カスパー・アスグリーン(ドゥクーニンク・クイックステップ)
(ステージ2位)「チームが僕を信頼してくれて本当に嬉しい。とても調子が良かったし、逃げでわくわくする一日を過ごせた。レースの最終盤ではなく、サンティネル峠で動いてみたけれど、その時点では脚にパワーがもうあまり残っていなくてトレンティンとの差をちづめるのは難しかった。2位はすてきな結果だよ。僕にとって初めての、グランツールステージトップ3位入賞だ。チームにとってこんなにすばらしい展開になっている今回のツールで、最終日までいい走りができるといいな」

コメント翻訳:寺尾真紀

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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