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【ツール・ド・フランス 2019 第16ステージ / レースレポート】「ポケットロケット」ユアンがステージ2勝目「脚の痛みは消えちゃった」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか第11ステージに人生初のツール区間優勝をもぎ取り、25歳と6日目にして戦後最年少の全3大グランツール区間覇者となったばかりのカレブ・ユアンが、早くも2勝目を手に入れた。酷暑にも負けず、横風にも負けず、休息日明けのリズム変化にも負けず、なによりマイヨ・ジョーヌの重圧にも負けず……ジュリアン・アラフィリップは危なげなく総合首位の座をを守った。
日曜日からフランス全土に猛暑警報が出されている。ツールのプロトンを迎え入れた南仏ニームも、例外ではなかった。温度計は摂氏40度を指し、日陰でさえ33度を超えた。それでも勇敢に、今大会逃げ常連のステファヌ・ロセットと、今大会初逃げのアレクシー・グジャールが飛び出した。さらにルーカス・ヴィシニオウスキー、ポール・ウルスラン、なにより今大会最年長39歳171日のラルスイティング・バク——この2019年の夏が人生最後のツール・ド・フランスと決めている——が続き、5人の逃げを作り上げた。
それぞれの所属チームに待望の今大会初勝利をもたらしたい5選手。しかし、どうしても2分以上のタイム差を開くことができない。サイン台にアイスベストを着こんで乗り込むほど、準備万端のトニー・マルティンとユンボ・ヴィスマの仲間たちが、先頭に立って驚異的な制御を続けたせいだ。かといってメイン集団は、5人をあっさり吸収してしまうつもりもなかった。実にフィニッシュ手前2kmまで、延々とエスケープを前方で泳がすほうを選んだ。
スタートから50km地点の曲がり角で、総合2位ゲラント・トーマスが地面に滑り落ちてしまうアクシデントも。第1ステージ、第8ステージに続く今大会3度目の落車を喫したディフェンディングチャンピオンだが、ほぼ無傷でレースへと復帰した。一方で残り28km、小さな集団落車が、ヤコブ・フグルサングを途中棄権に追い込んだ。過去13回グランツールに出場してきた34歳にとって、これが人生2度目のリタイア。1度目は2017年、同年のクリテリウム・デュ・ドーフィネ総合覇者として乗り込んだツールを、やはり落車の影響で立ち去っている。2019年のドーフィネ王者は、またしてもツールで自らの実力を証明できなかった。
心配されていた横風分断もなく、ぎりぎりまで粘った逃げ集団も、目標まであとわずかのところで回収された。その後は正統なスプリント争いへと雪崩れ込み、いくつものスプリンターチームが列車を走らせた。そして最終400mのロータリーで、ドゥクーニンク・クイックステップがまんまと最前列に競り上がった。
「僕のポジションは望んでいた場所よりはるか後ろだった」と語るユアンは、すぐさま作戦を切り替えた。それは「他選手の後輪から後輪へと乗り移り、スリップストリームを利用すること」。子供の頃からひときわ小さな体でライバルたちをなぎ倒してきた工夫と知恵が、この日も余すところなく生かされた。残り200m、エリア・ヴィヴィアーニが満を持して加速を切るも、ライン間際で「ポケットロケット」ユアンが抜き去った。
生まれて初めて参戦したツールで区間2勝を手に入れたのは、偶然にもユアンが生まれて初めて「グランツールの第16ステージ」を走った日でもあった。3週間のレースに過去4度参戦してきたが、完走はゼロ。2017年ジロの「第15ステージの半分」がこれまでの最長記録だ。そのせいか「今日もひどく疲れていたし、調子も良くなかった」そうだが、チームからの信頼と、チームメートたちの献身のおかげで「脚の痛みは消えちゃった」そうだ。この先の挑戦はもちろん、シャンゼリゼまでたどり着くこと。
「シャンゼリゼのことなんてまだ考えてない。だってツールはまだ先が長い」。こう繰り返してきたアラフィリップも、休息日インタビューで「パリが近づくにつれて、気持ちが少しずつ変わってきた」と告白する。それにしてもマイヨ・ジョーヌを獲ってから「1日が長い」とも漏らす27歳。なにしろ連日、フィニッシュから1時間以上、欠かさずあらゆる義務……つまり表彰式→代表TVインタビュー→その他のTV・ラジオインタビュー→記者会見→ドーピング検査に応えてきたのだ。そしてこの日、12日分のマイヨ・ジョーヌの重みが一気に噴出したのかもしれない。今大会初めてメディアインタビューや記者会見をスキップし、早めにホテルへ帰った。アルプス入りを前に、ほんの少し、短めの1日を過せただろうか。
<選手コメント>
■カレブ・ユアン(ロット・スーダル)
(ステージ優勝)「正直言って、この暑さにやられて今日はとても具合が悪かったんだ。けれど、妻と(生まれたばかりの)娘の存在が大きなモチベーションをくれた。フィニッシュ前1kmではあまり理想的なポジションではなかったけれど、(ドゥクーニンク・)クイックステップにうまくついて行くようにして、その後方からスプリントに入った。今何が僕に起きているのか、うまく理解できないよ。ツール・ド・フランスに出場すること自体が夢だった。ここで1勝することはさらに大きな夢だったのに、それも叶ってしまった。そして今度は2勝目だなんて、信じられないよ」出典:主催者の公式リリースより
■ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)
(総合リーダージャージ)「ツール・ド・フランスの期間中に本当に真の意味で休息できる日はないかもだけど、それでも月曜の休息日は気分良く過ごせた。今日はとても暑かったけれど、誰にとっても同じ条件だし、なんとか折り合いをつけるしかない。だから、ステージ中はしっかり食べ、たくさん飲むように心がけた。マイヨ・ジョーヌをキープできて、少なくともまたもう一日これを着られて幸せだよ」出典:チームの公式リリースより
■ペーター・サガン(ボーラ・ハンスグローエ)
(ポイント賞ジャージ・ステージ4位)「まるでオーブンの中でレースしているみたいだったね。今日の平坦ステージでは、ライバルたちがたくさんの中間スプリントポイントを獲得しないようにすることと、あとはフィナーレで自分のベストを尽くす、その2点に集中した。我々はよく走れていたし、チームメートもとてもいい仕事をしてくれたけれど、残念ながら、ラスト数メートルでは自分の周りにあまりスペースの余裕がない状況だった。それでも4位でラインを越えられたし、ポイント賞では十分なリードを保つことができたよ」出典:本人の公式ウェブサイトより
■ディラン・フルーネウェーヘン(チーム ユンボ・ヴィスマ)
(ステージ3位)「スプリントを切ろうとした瞬間にユアンが加速して、結果的に(前のスペースがふさがり)閉じ込められる形になってしまった。スプリントできるスペースの余裕ができたときには、もうフィニッシュまでの距離が十分ではなく、前の二人を追い抜くことができなかった。ツールの終わりまでスプリントの機会はもうほとんどなかったから、残念だ。少し早くチームのトレインが早く出すぎたところもあるし、ワウト・ヴァンアールトもここにいない。僕にはスピードがあるけれど、他の選手が勝ったことには驚かされないよ。勝ちたかったし、もう少しいいスプリントができたはずだとも思う。今からはとにかくアルプスを生き延びて、パリでの勝利を目指すよ」出典:チームの公式リリースより
■ティム・ウェレンス(ロット・スーダル)
(山岳賞ジャージ)「カレブ(・ユアン)が勝てて本当に嬉しいよ。僕たち、特にマキシム・モンフォールがとてもいい仕事をして、ユアンはそれをうまく活かすことができた。プロトンで一番速いスプリンターだということを証明したんだ。このツールは、ロット・スーダルにとってすばらしいものになっているね。まるで雲の上を歩いているような気分だし、チームのモチベーションはとても高いよ。山岳ジャージについて言えば、木曜はできる限り先行して集められるだけのポイントを集めたいと思っている。明日(水曜)の逃げはトーマス・デヘントに任せる予定さ」出典:主催者の公式リリースより
■エガン・ベルナル(チーム イネオス)
(新人賞ジャージ)「とても暑い日で、確かにそうだなとは思ったけれど、僕にとってはかなり過ごしやすい気候なんだ。ゲラント・トーマスは大丈夫だよ。落車があったけれど無事だったし、明日以降には何も影響しないと思う。アルプスに近づいているね。アルプスの峠はより長くて、より傾斜が急だ。よりコロンビア風の上りだよ。準備はできているし調子も良い。けれど、ツールの最終週だし、何でも起こり得る。チームイネオスは強力だけど、他のチームもこれから(レースをコントロールする)責任を負っていかなくてはならないよ」出典:主催者の公式リリースより
■アレクシー・グジャール(AG2R ラ モンディアル)
(ステージ敢闘賞)「勝ちには3km弱届かなかった。今日のメイン集団は逃げに決して大きなタイム差を許してくれなかった。敢闘賞に選ばれて嬉しいよ。おかげで、10日間マイヨジョーヌを着続けている友人に(ポデイウムで)会うことができた」出典:本人のSNS(ツイッター@gougeardA)より
コメント翻訳:寺尾真紀
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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