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【ツール・ド・フランス 2019 第15ステージ / レースレポート】興奮とサスペンスに満ちたマイヨ・ジョーヌ争奪戦、黄色ジャージ死守のアラフィリップ「次にこのマイヨ・ジョーヌを着るのはピノであって欲しい」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか100年目のマイヨ・ジョーヌ争奪戦は、興奮とサスペンスに満ちている。近年フランス一周で圧政を敷いてきた元スカイの精鋭部隊を押しのけて、ライバルチームたちがイニシアチヴを獲り、地元フランス人選手たちは、1985年以来となるフランス人マイヨ・ジョーヌの期待をかきたてる。ティボー・ピノとミケル・ランダは攻撃的な走りで2日連続でタイム差を縮め、総合表彰台争いは大混戦。そして死に物狂いでジャージを守りに行ったジュリアン・アラフィリップは、望み通り、2度目の休息日もマイヨ・ジョーヌで過ごす。
大会2週目の最終日は、いつにも増して激しい飛び出し合戦で始まった。時速47kmを超える追いかけっこの果てに、ようやく50km地点を過ぎて大きな一団が遠ざかって行った。最終的に36人の巨大なエスケープが出来上がったのは、実に75kmも走った先だった。
ヴィンチェンツォ・ニバリにサイモン・イェーツ、ナイロ・キンタナ、ロメン・バルデ、ダニエル・マーティンという本来ならグランツールの総合表彰台を争うような選手が、揃って前方へと滑り込んだ。一方ではいわゆる「前待ち」組も多かった。ピノ擁するグルパマ・FDJは2人、ヤコブ・フグルサングのアスタナは3人、そして前夜にエースのキンタナが「今後はミケル・ランダのアシストにまわる」と宣言したモビスターは、そのキンタナを含む3人!
ビッグネームたちの中で、真の実力を思う存分発揮したのはサイモンだった。5月にジロ獲りを失敗した英国人は、そもそもフランスには双子のアダムの総合争いを助けるためにやってきた。だからこそ大会序盤にあっさり大量のタイムを失った。アダムがいまだ総合1分47秒遅れだった頃(今区間終了後は33分18秒遅れ)、総合争いに大きな動きが見られないだろう第12ステージでは、大逃げの果てにツールで初めての区間勝利も手に入れた。しかし翌日からアダムが大きく失速すると、2018年ブエルタ覇者には新たな使命が課された。「チームは目標を切り替えたんだ。それこそが、もうひとつの区間勝利を手に入れること」。
まずサイモンは大きすぎる逃げ集団を、1級ポール・ド・レールの上りで、自らアタックして小さく絞り込んだ。もう1人のSimon、すなわちシモン・ゲシェケが飛び出すと、続く1級のミュール・ド・ペゲールの激坂で単独追いついた。106回目のツールで史上初めてプロトンに門戸を開いた1級プラ・ダルビスの麓には、後方の追走集団に1分半差の余裕をもって挑みかかった。
そして残り約9km、サイモンはわずか1度の加速でライバルを引き離した。ひとり栄光へと飛び立った。「誇らしくもあり、クレイジーでもあるよね!」と本人は語り、フィニッシュラインでいつもなら右手で3度胸を打つところを、この日は両手で3度、自慢気に両胸を叩いた。なにしろツール区間初優勝からわずか3日後の再勝利だ。欧州議会により自然保護区に指定され、ヘリコプターによる空撮も大音量のレースアナウンスもない……いつもよりちょっと静かな山頂が、オージーの快挙で大騒ぎになった。
激しい総合争いも、小雨の中じっと動向を見つめるファンたちを、大いにどよめかせた。序盤はドゥクーニンク・クイックステップが制御し、終盤に入るとイネオスが主導権を握ったメイン集団が、残り40km、一気にカオスに陥った。ランダとフグルサングがアタックを仕掛け……バスク人が抜け出すことに成功したからだ。しかも前方にはマルク・ソレルにアンドレイ・アマドールという、頼もしい山のアシストが待っていた。
ちなみに2カ月前のジロ第13ステージでも似たような作戦を打ち、ランダは1分半近く遅れを取り戻している(ちなみにこの時もアマドールが前で待っていた)。あの日にタイムを失ったのはプリモシュ・ログリッチェ。つまり苦い記憶を持つユンボ・ヴィスマが、ツールのエース、ステフェン・クライスヴァイクのために猛烈な追走隊列を走らせた。急激なスピードアップはまた、他のチームを苦しめた。イネオスのアシストの多くが後方へと吹き飛ばされ、そこから先、黄色のアラフィリップは長く厳しい孤軍奮闘を強いられることになる。
最終峠の上りでは、グルパマ・エフデジが攻撃に転じる番だった。前日と同じように、やはりダヴィド・ゴデュが最前線でハイテンポを刻み、残り7kmでピノ本人が飛び出した。すかさずエガン・ベルナルが後輪に張り付き、アラフィリップとエマヌエル・ブッフマンも続いた。やはり前待ちのセバスティアン・レイヘンバッハを踏み台にして、ピノがさらに前方へと突き進んだのに対して、トーマスとクライスヴァイクはあっさり後方へと置き去りにされる。ただピノの猛攻に、アラフィリップはすぐについていけなくなり、ブッフマンも落ち、そして頑なに先頭交代を拒否したベルナルも残り4kmでついには振り払われた。
ピノがランダを捕らえ、勢いよく区間2位に滑り込んだ一方で、同じフランス人のアラフィリップはひどく苦しい時間を過ごした。トーマスやクライスヴァイクに追いつかれるも、当然のように、マイヨ・ジョーヌのために誰も前を引くいてはくれなかった。それどころかラスト2kmでは、「昨日よりは脚が良く動いた」と言うトーマスに加速され、さらに後方へと押しやられた。「これまでの努力のツケを支払う羽目になった」と、最後はたったひとりで、山頂までもがきつづけた。
「今日の目標はマイヨ・ジョーヌ保守のために戦うこと。だから目標は達成したんだよ」と、アラフィリップは疲れた顔で強調した。ピノとランダに1分16秒(さらにボーナスタイムがそれぞれ6秒と4秒)、ベルナルとブッフマンに58秒、トーマスとクライスヴァイクに27秒を奪われたが、それでもいまだ総合2位以下には1分35秒もの余裕を有する。そしてアラフィリップ「以下」は大接戦。総合2位から総合6位まで、つまりトーマス、クライスヴァイク、ピノ、ベルナル、ブッフマンの5選手が39秒以内に並んでいる状態だ。7位ランダはこの2日間で1分近く後れを取り戻したが、いまだ4分54秒差と大きな後れを負っている。それでも「優勝は無理だが、表彰台は可能性がある」と希望を抱く。
「確かにタイムは失ったけど、ジャージを失ったわけじゃないし……。でも、もしも僕がジャージを失ったら、次にこのマイヨ・ジョーヌを着るのはピノであって欲しい」と語ったアラフィリップ。肝心のピノは「最難関ステージはこれからやって来る。脚の調子はいい。このまま攻め続けていく」と、3週目のアルプス大戦へ挑む覚悟はできている。
<選手コメント>
■サイモン・イェーツ(ミッチェルトン・スコット)
(ステージ優勝)「出だしからフィナーレまで、ずっとレースモードだった。総合狙いの選手たちはかなりのスピードで後ろから来ていて、その速さを実際に知っている身としては、最終峠のふもとまでリードを維持しなくちゃと思っていた。サイモン・ゲシュケはダウンヒルの最高の旅仲間で本当にありがたかった。けれど、最終峠に入ったら一人で先行しなくてはならないと分かっていた。ツールでの一番の目的はアダムをアシストすること、2番目目がステージ優勝だった。それが2つも勝てて、とても誇らしいよ。今日のステージは本当にハードだったから ― もちろん最初に優勝したステージが決して簡単だった訳じゃないけど、でもとにかく今日のステージは極めて難しいコースだった。今はとても疲れているけど、このあとの最終週には3つの難関ステージが控えているし、またチームでいい結果を目指すよ」出典:チームの公式リリースより
■ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)
(総合リーダージャージ・ステージ11位)「最大限の力を尽くしたし、特にレース前半の逃げ集団のコントロールなど、チームの誰もが、すばらしい仕事をしてくれた。確かに最後はかなり大変だったけれど、マイヨ・ジョーヌを守るためにできることはすべてやったし、守りきったことを本当にうれしく思う。今日はかなりタフな日になるだろうなと覚悟していた。それに、タイムを失ったことには驚かないよ。今は、僕の休日を楽しむよ」出典:主催者の公式リリースより
■ティボー・ピノ(グルパマ・エフデジ)
(ステージ2位・総合4位)「雨といえば僕の天気だから、それをうまく使って走らなきゃと思っていたよ。好みのステージだったし、いいフィーリングを持っていた。プラットダルビの最終盤は勾配がすこし緩くなるのを知っていたから、アタックで限界ゾーンになってもそれほどのリスクをとっている訳ではなかった。もし反撃の必要があっても、脚には力が残っているはずだから。ピレネーでは、総合上位のみんなからタイムを奪うことができた。それがなによりも大きなことだ。個人総合の首位から1分50秒遅れは悪くない。こうやって総合争いに返り咲いて、これからは最も難しいステージが待ち構えている。もし脚があれば、このままタイムを稼ぎ続けて行きたいよ。今朝のミーティングで決めた戦略はうまくいったね。 ダヴィ・ゴデュ、そしてリュディ・モラールとセバスティアン・レイヘンバッハも、とてもいい仕事をしてくれた。強いチームで攻勢に出て、それが結果につながったね」出典:チームの公式リリースより
■エガン・ベルナル(チーム イネオス)
(新人賞ジャージ・ステージ5位・総合5位)「とてもハードなステージだったね。昨日は少し力に欠けたところがあったけれど、今日はうまくいった。とても苦しんだけれど、今の自分のレベルに満足している。僕はまだ22歳で、世界最高の選手たちとレースをするのは僕の夢だったんだ。これからも夢を見続けることはできるけれど、足は地につけておかなくちゃいけない。ツールを勝つ可能性がある選手は5、6人いて、その中で僕が勝ってしまうということはありえないのではないかと思う。ただ、よほどのピンチがない限り、新人賞ジャージは僕のものになると思う。だけど、まず重要なのはマイヨ・ジョーヌ。もしこの先、ゲラントがツールを勝つために僕の犠牲が必要なら、たとえ新人賞を失ったとしても、僕はそうするよ。
最後の2つの峠は本当にハードなペースで走った。最後の数kmは全力だった。その前に、何か他の選手に動きがあれば追走していいし、僕は僕のレースをしていいとG(ゲラント・トーマス)が言ってくれていたんだ。チームとして2つの切り札を持っているほうがいい、ということだった。もし僕がピノや他の選手を追って背後についたら、彼らはそのペースでは走り続けられなくなるかもしれないからね。いずれにせよ、フィナーレはとてもうまくいったと思う。僕はTTでタイムを失ったけれど、それは何も変えなかった。昨日は彼がタイムを失ったけれど、それも何も変えなかった。今日は少し僕が彼の総合タイムに近づいた。僕たちの間ではいいコミュニケーションが取れているし、彼も僕も本当に率直なんだ。もしこの先のステージで僕がフル出力で行くことになるなら、必ず僕は彼と話をする。チームイネオスのためにレースを勝たなくてはいけない。重要なのはゲラントでもエガンでもなく、チームなんだ」出典:主催者の公式リリースより
■ミケル・ランダ(モヴィスター チーム)
(ステージ敢闘賞・ステージ3位・総合7位)「昨日はトゥルマレの上りで失速して総合争いから脱落してしまい、とても悲しかった。今日は調子が良くなったように感じたから、何かトライしてみたかったんだ。アタックすることは最初から決まっていたけれど、他のチームにそれが知られてしまっていたから、なかなか逃げることができなかった。逃げが形成されるのに本当に時間がかかったし、三人で先行できるまで大変だったんだ。 アンドレイ(・アマドール)とマルク(・ソレル)は全力で僕をプラットまで運んでくれた。本当に感謝している。(サイモン・)イェーツが先行していたから、ステージ勝利は難しいだろうと思っていた。とても才能のある選手だし、これまでのいくつかのステージで、脚を休められているからね」
■ペーター・サガン(ボーラ・ハンスグローエ)
(ポイント賞ジャージ)「今日もまたピレネーの難関ステージだったね。でもありがたいことに明日は休息日だ。ツール・ド・フランスの最終週に備えて、ちょっと回復できるよ。スタートからフィニッシュまで沿道に並び、プロトンの一人一人に歓声を送ってくれる観衆に、改めてお礼を言いたいよ。これが、自転車競技をこんなにも美しいスポーツにしてくれるんだ」出典:本人の公式ウェブサイトより
■ゲラント・トーマス(チーム イネオス)
(ステージ7位・総合2位)「昨日よりは調子が良かったね、間違いなく。最後の峠でアタックが始まったときに、浮き足立たず、なるべく自分のペースを守って走ろうとした。その点では昨日と似ていたかな。そこでのワウト(・ポエルス)の走りはすばらしかったよ。けれど、それでアラフィリップと一緒になってしまった。その時点で彼を後ろに従えて上っていく気はなかったから、彼にしばらく牽かせて、僕は残り2kmで飛び出した。戦略的にはそこで少し板ばさみになってしまったけれど、思うように脚が反応してくれるようになってきたのは良かった。全体的に悪くない日だったと思う。今年は総合争いにまだいろんな選手が残っている。もう、かなりメンタルの戦いになってきていると思う。誰もが疲れを感じているけど、それをブロックアウトしなくちゃいけない。歯を食いしばり、さらにやるしかないんだ。昨年の経験を有効に使えたらいいと思う。去年も時に苦しんだからね。休息日は誰にとっても大歓迎だと思うよ!」
出典:チーム公式リリースより
コメント翻訳:寺尾真紀
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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