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【ツール・ド・フランス 2019 第13ステージ / レースレポート】完璧な1日。アラフィリップ「自分が一番驚いている」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかまさに完璧な1日。2019年7月19日、マイヨ・ジョーヌの100歳の誕生日の当日に、黄色をまとうフランス選手が区間勝利を果たした。ステージ地に詰めかけた歴代マイヨ・ジョーヌ着用経験者たちに祝福され、初代着用者ウジェーヌ・クリストフの姿が描かれたイエロージャージを授与された。沿道に詰めかけたファンたちは「アラフィリップさん、あなたはもしかしたらご存知ないかもしれませんが、シャンゼリゼまでこのまま突き進むんですよ!!」なんていう替え歌を絶叫した。そして翌日の第14ステージでは、フランス共和国大統領エマニュエル・マクロンの待つトゥルマレ山頂へと、ジュリアン・アラフィリップはマイヨ・ジョーヌ姿で向かう。
50年前に初めてマイヨ・ジョーヌに輝き、あまりの強さに「ル・カニバル(人食い)」とあだ名されたエディ・メルクスの記念碑がポーの町にお披露目された..ほんの1時間ほど前、「ラ・カニバル」の別名を持つマリアン・フォスが鮮やかな加速を披露した。男子の個人タイムトライアルコースを利用して行われた女子レース「ラ・クルス」で、ロード・トラック・シクロクロス合わせて9つの世界タイトル+2つの五輪金メダルをその手でつかんできた32歳が、2014年第1回大会に続く2つ目のタイトルを懐に入れた。
27.7kmの全力疾走で、優勝大本命に名前を挙げられたのはワウト・ヴァンアールトのはずだった。しかしフィニッシュ手前1km、道幅が狭くなる右カーブでフェンスに接触。地面に倒れ込んだ。わずか3日前に初めての区間優勝に歓喜した元シクロクロス世界王者は、この日は涙の即時リタイアを余儀なくされた。幸いにも骨に異常はなかったが、太ももに深い切り傷を負った。また同じカーブでマキシミリアン・シャフマンも落車。左手骨折でやはり大会を去る。
そのヴァンアールトの3分後に走り出したトーマス・デヘントが、35分36秒12の暫定トップタイムを叩きだす。そこから約1時間45分に渡って、首位だけが座ることを許されるホットシートを温め続けた。しかしプロトン屈指の逃げ男は、この日は最後まで逃げ切れなかった。この日スタートを切った全166人中、165番目と166番目の走者に、記録を塗り替えられてしまうのだ!
2018年マイヨ・ジョーヌのゲラント・トーマスは、いわゆる「総合表彰台候補」の中では最高タイムを記録した。リゴベルト・ウランを22秒、リッチー・ポートとステフェン・クライスヴァイクを31秒、ティボー・ピノを35秒、エンリク・マスを44秒、ヤコブ・フグルサングを53秒上回った。ナイロ・キンタナに至っては1分37秒も遅れ、アダム・イエーツも1分54秒ものタイムを損失した。なによりイネオスの「ダブルリーダー」の片割れで、24時間前まで総合でわずか4秒差しかなかったエガン・ベルナルを、1分22秒も突き放した。おかげであらゆるライバルに対して総合46秒以上のリードを有し、2年連続のイエロー獲りに有利な位置につけた。
ただしアラフィリップを除く。2週間前には決して、このフランス人パンチャーは「総合表彰台候補」のひとりとは考えられていなかった。同第13ステージの出走前は、1分12秒の総合リードをどこまで減らしてしまうのか..もしくは完全に逆転されてしまうかもしれない..と関係者たちをはらはらさせていた。しかしこの日のフィニッシュ後、トーマスは「今からは、彼こそが、総合争い最大のライバルだ」と宣言した。なにしろマイヨ・ジョーヌ姿で、あらゆる中間計測ポイントでトップタイムを更新し、フィニッシュでは元トラック世界&五輪王者の記録を14秒も塗り替えてしまったのだから!
「自分が一番驚いている」と語ったアラフィリップは、第3ステージに次ぐ今大会2度目のステージ優勝を獲得。フランス人としては18年ぶりのツール個人TT勝利を手に入れ、マイヨ・ジョーヌをまとうフランス人としては35年ぶりに独走競技で勝ちを得た。当然のように「36年ぶりのフランス人最終マイヨ・ジョーヌ」という声は大きくなり始めた。たとえ本人は「大会初日から気持ちは同じ。1日1日を精一杯走るだけ」と繰り返したとしても。
アラフィリップとトーマスとの総合タイム差は1分26秒。2019年ツールの山の戦いは、翌14ステージから本格的に始まる。
<選手コメント>
■ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)
(ステージ優勝・総合リーダージャージ)「これ以上のことがあるかな。ただもうスーパーにうれしいよ。今日のコースではいい走りができるんじゃないかと思って、いとこのフランクにもそう伝えた。けれど、まさか勝てるなんて思っていなかった。(総合2位のトーマスと)差はあるから、いい走りをしてマイヨ・ジョーヌを守れたらいいと思っていたんだ。前半は自分に向いたコースで、全速力で行った。後半の走りには自分でも驚いた。歓声に励まされて、フィニッシュラインにたどり着くまで、出せる限りの力を振り絞れたんだ。まだマイヨジョーヌを着ていられて本当に幸せだ。こんなに特別なジャージをツール100歳の誕生日に着られるなんて、最高だよ。
ここからは一日一日ずつ進んで、何が起こるか見ていくしかないね。土曜には、超難関ツールマレー峠への山頂フィニッシュがある。メイングループにできる限りついて行けるよう、力を尽くす。けれど同時に、僕たちのチームの総合ライダーはエンリク(・マス)なんだ、ということも強調しておきたい。今日、すばらしいTTを走った彼に、おめでとうを言いたいよ」出典:チームの公式リリースより
■ゲラント・トーマス(チーム イネオス)
(ステージ2位・総合2位)「悪くはなかったけど、体が熱くなりすぎている気がして、それを何とかしようとしたりしていたんだ。でも誰も同じ状況のはずだから、言い訳にはならないね。悪くはなかったけど、終盤に思ったほど力をこめられなかったんだ。全体的にはペースをコントロールしていたけれど、最後の8kmはもう少しペースアップしたい気持ちだった。けれど、最後の5%の力が今日はなかった。悪くない走りだったけれど、細かく問題を見つけようと思えば、いくらでも言えてしまう。アラフィリップは明らかに好調で、今、総合において警戒すべき相手だ。でもツールはまだ長いし、ここからたくさんの難関ステージがあるからね」出典:チーム公式リリースより
■エンリク・マス(ドゥクーニンク・クイックステップ)
(ステージ9位・新人賞ジャージ)「今日の結果は本当にうれしいよ。ジュリアン(・アラフィリップ)の結果もあるから、なおさらさ。新人賞ジャージは、これからエガン・ベルナルと僕の争いになるだろうね。総合のトップ5に2人いるのは大きなアドバンテージで、僕たちのチームは状況に応じていろいろなカードを切ることができる。マイヨ・ジョーヌについて言えば、とにかくできる限り守り続けるのが僕たちの目標だ。僕は、ジュリアンはパリまでマイヨ・ジョーヌを守れると思っているよ。一度失ったのにもう一度取り返せた。そのことは、彼がどれだけ好調かを示していると思う。初めてのツールで白い新人賞ジャージを着ることができて、本当に夢のようだよ。パリに総合10位内でたどり着くのが僕の目標だ。チームはとても好調だし、僕たちのレースにとても満足しているよ」出典:主催者の公式リリースより
■ステフェン・クライスヴァイク(チーム ユンボ・ヴィスマ)
(ステージ6位・ステージ総合3位)「ウァウト(・ヴァンアールト)の落車のショックから、気持ちを立て直さなくてはならなかった。本当に不運な、誰にも起こってほしくない出来事だ。それでも、すばらしいTTができたと思う。コースは自分にとって理想的だったし、調子も良かった。前半はけっこうやっかいなアップダウンがあって、とても僕向きだった。後半はもっと平坦だったね。2回目の計測まで、いい走りができた。いい結果が出るんじゃないかと思っていたよ。(総合狙いの選手の間で)差はそれほど大きくないし、エキサイティングなツールになるだろう。チームは今のところいい調子だよ」出典:チームの公式リリースより
■ペーター・サガン(ボーラ・ハンスグローエ)
(ポイント賞ジャージ)「観客にリクエストされてウィーリーをして見せたんだ。喜んでくれたみたいだよ。ジュリアン(・アラフィリップ)が優勝する可能性は十分あると思う。もちろん総合争いはまだ始まったばかりだけれど、僕自身も彼のレースがうまく行くといいなと思っているんだ。彼はすばらしい走りで誰もを驚かせているし、これからのステージでもそれを続けられるんじゃないかと思う」出典:主催者の公式リリースより
■ティム・ウェレンス(ロット・スーダル)
(山岳賞ジャージ)「ジュリアン・アラフィリップのTT優勝は見事だった。TTと言えば、ゲラント・トーマスの方がスペシャリストだからね。標高2000mを超える山岳はもちろんこれまでのステージとは違うけれど、彼からマイヨジョーヌを奪うのは、誰にとっても難しいんじゃないかな。まるでここまであまり苦しまなかったように、とてもフレッシュに見えるんだ。彼がこのツールを勝つ可能性は大きいと思う。僕にとっては、脚休めの日だった。全速で行く必要はなかったからね。けれど明日からは山岳賞をめぐる争いが本格化する。明日だけでも50の山岳ポイントがあって、それは僕が今持っている全ポイントより多いんだ。できれば逃げに入って10ポイントを捕りたいと思っているけど、残りの40ポイントは総合狙いの選手の誰かが獲得すると思う」
出典:主催者の公式リリースより
コメント翻訳:寺尾真紀
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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