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【ツール・ド・フランス 2019 第10ステージ / レースレポート】例年よりも1日長い第1幕が終了。マイヨ・ジョーヌのアラフィリップ「これ以降起こることはボーナス」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか単純なスプリントステージになるはずだった。しかしコース上に吹き付けた強い横風が、シナリオをがらりと変えた。分断に嵌った総合勢4人が総合トップ10から蹴落とされ、イネオスの「ダブル」リーダー2人が総合表彰台の位置に浮上した。ジュリアン・アラフィリップは1回目の休息日をマイヨ・ジョーヌで過ごし、ワウト・ヴァンアールトはツールデビューで衝撃的な初勝利を手に入れた。
スタート直後に逃げ集団が出来上がった。6選手が滑り込み、最大3分ほどのタイム差をつけた。中央山塊の小さな起伏は存在するものの、「上れる」スプリンターたちには絶好の地形だった。俊足を擁するドゥクーニンク・クイックステップやロット・スーダル、サンウェブ、ユンボ・ヴィスマが積極的なタイム差コントロールに従事した。
フィニッシュ手前89kmの中間スプリントで、いつも以上に白熱した争いが巻き起こった直後だった。プロトンが進路を南西に切り替えたところで、風は横風に変わる。途端に複数チームが猛烈な加速を敢行し、集団は一時3つに分割してしまう。下りでメインプロトンは再びひとつにまとまった。ナーバスな雰囲気もいったんは収まったかに見えた。しかし残り35km、新たな横風分断の企てが巻き起こる。きっかけを作ったのはマイヨ・ジョーヌ姿のアラフィリップと「ウルフパック」の仲間たち!
北クラシック精鋭軍ドゥクーニンクの動きに、ここぞとばかりに追随したのが、「分断が起こった瞬間、僕らは理想的な場所にいた」(byゲラント・トーマス)というイネオスだ。前年度覇者トーマスとエガン・ベルナルを引き連れて、総合ライバルたちを引きちぎりにかかった。
道が極めて細く、曲がりくねっていたのも、分断の生成を加速させた。前日まで総合3位につけていたティボー・ピノが後方集団に取り残された。さらには2017年ツール総合2位リゴベルト・ウランや、6月のクリテリウム・デュ・ドーフィネ総合覇者ヤコブ・フルサング、無事に「鬼門」第9日目を乗り越えたリッチー・ポートも罠にはまった。今大会2日間マイヨ・ジョーヌを着用し、この日は白い新人賞ジャージをまとって走るジュリオ・チッコーネも遅れを喫した。ちなみに上手く先頭集団に留まったものの、今ジロ4位のミケル・ランダは、運悪く落車の犠牲となり後方へ消えていった。
今大会初の本格山岳ステージ、プランシュ・デ・ベルフィーユではほんの秒単位の争いとなったが、大会序盤を締めくくる平坦ステージは、分単位の被害を生んだ。ピノ、ウラン、フルサング、ポートは、イネオスの2人から1分40秒遅れの集団で「くそったれの1日」(by ピノ)を終えた。ランダは2分09秒ものタイムを落とした。特にピノは23秒差の総合3位から、2分33秒差の総合11位へと一気に陥落。24時間前には総合ライバルのトーマスに対して17秒のリードを有していたが、休息日の前日、1分21秒ものビハインドを喫することになってしまった。
28人にまで人数を減らした先頭集団は、幸いにもスプリンターには不足しなかった。第4ステージ覇者エリア・ヴィヴィアーニと翌第5ステージ覇者ペーター・サガンを筆頭に、グランツール区間4勝カレブ・ユアン、2年前のポイント賞マイケル・マシューズ、欧州王者マッテオ・トレンティン、さらにはソンニ・コロブレッリやジャスパー・フィリプセンetc。最前線に姿が見えなかったのはアンドレ・グライペルやディラン・フルーネウェーヘンくらいのものだろうか。
おかげで激動のステージは、激しいスプリント勝負で幕を閉じた。中でもラスト1kmはサンウェブが3両列車で有利に進めていた。ところが残り250m、前から6番目の位置から、果敢に加速を切った若者がいた。それがヴァンアールトだ。ヴィヴィアーニは慌てて後輪に飛び乗り、サガンは逆側の向かって左側へと進路を取り、マシューズは最終発射台の背後で最後の加速に懸け、その背後からユアンは飛び出したが……24歳新人があらゆるビッグネームをまとめてなぎ倒した。今大会すでにチームメートの勝利が2回、チーム全体の勝利が1回、新人賞ジャージを4日間、と素晴らしい日々を送ってきたヴァンアールトは、この初めての勝利を「リアリーナイスケーキ(本当に素敵なケーキ)の上のサクランボ」と称した。ただシクロクロスで3枚のアルカンシェルを手にしてきた元世界王者は、「ツールで区間を勝っても特別なジャージはついてこないからなぁ」とちょっと寂しそう。
例年よりも1日長いツール・ド・フランス第1幕が閉じた。10日間走り続けた171人の選手たちは、フィニッシュ地アルビ近郊で短い休息をとる。水曜日から始まる第2幕で、いよいよプロトンはピレネーの難峠へと挑みかかる。
<選手コメント>
■ウァウト・ヴァンアールト(チーム ユンボ・ヴィスマ)
(ステージ優勝)「信じられないよ。この10日間、ツールがどれだけ偉大なレースなのかを肌で感じてきた。初めてのツールで勝利をあげられるなんて。今日は僕にとってはいろいろな条件がそろったんだ。エシェロンが形成され、ディラン(・フルーネウェーヘン)とジョージ(・ベネット)が分断の後ろになってしまった。チームとしては理想的な状況ではなったけど、与えられたチャンスを僕は掴んだ。ヴィヴィアーニのスプリントは強力だったけれど、かなり手前からスプリントを始めた僕が勝利をものにした。今日の勝利は、チームとしての強さの証明だと思う。チームTTに加えて、3つのゴールスプリントを3人の選手が勝ったんだからね。これがリーダーのステフェン(・クライスヴァイク)の総合の後押しになるといいな」出典:チームの公式リリースより
■ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)
(総合リーダージャージ)「分断を狙ったわけではなかったんだ。ただ、かなりナーバスで難しいステージになるだろうと予測していた。マイヨ・ジョーヌを守り、エリア・ヴィヴィアーニのスプリントを狙うのが今日の目標だった。コースの何kmの地点で横風の危険があるのか、かなり正確に分かっていたし、他のチームも同じ情報を持っていたはず。かなりのストレスとプレッシャーをプロトンのみんなが感じていた。分断は誰もが予測していたと思う。そこからは前方にいられるように全力で行った。総合でタイムを稼ぐことは最初から考えていなかったんだ。マイヨジョーヌを着ていられるのはすばらしい経験だし、できる限り守り続けたいと思う。でも総合についての考えは変えていないよ。これ以降起こることはボーナスみたいなものだと考えなきゃ」出典:主催者の公式リリースより
■ゲラント・トーマス(チーム イネオス)
(優勝と同タイムのステージ12位・総合2位)「本当にいい日になったね。僕たちももう少し早くにアタックをかけようとしたけれど、そのときはタイミングが熟していなかった。EF(エデュケーションファースト)と(ドゥクーニンク・)クイックステップもアタックを狙っているみたいだったから、何が起こってもいいように準備をしていた。だから、分断が起きたときにはパーフェクトな場所にいたんだ。一番必要なところで、チームの全員が力を合わせた。分断の後方になったチームは、すぐさまその差を埋めようとした。それがうまく行かず、糸が切れたように大きな差がついた。
いいタイム差が総合でついたね。予想していなかった日に、一撃を繰り出すことができた。相手の位置取りの失敗で1分半のアドバンテージを得られたのは、僕たちにとってはありがたいことだよ」出典:チームの公式リリースより
■ティム・ウェレンス(ロット・スーダル)
(山岳賞ジャージ・敢闘賞)「目立つ素敵なジャージでツール初日から走り続けられるよ、と聞かされていたら、喜んで!と飛びついていただろうな。とても素敵な感覚だよ。僕は暑さに弱いから、ドバイで新しいキットやドリンク、サプリメントなんかを試してきたんだ。それが本当に役に立っている。ピレネーでも逃げに入れるような足があって、もっとポイントを稼げるといいな」出典:主催者の公式リリースより
■ペーター・サガン(ボーラ・ハンスグローエ)
(ステージ5位・ポイント賞ジャージ)「クレージーな一日だった割りに、スプリントはほぼノーマルだったね。マイケル・マシューズのために(チーム・)サンウェブがいいトレインを組むんじゃないかと思っていたけど、彼らのスピードが思ったより遅くて、その後ろに閉じ込められてしまったんだ。それでもいくつかのポイントを稼ぐことはできた。すでにステージも勝ったし、まだこの先チャンスもあるしね。今は休息日のことだけ考えてるよ。その先どうなるかはお休みのあとだ」出典:主催者の公式リリースより
■ナトナエル・ベルハネ(コフィディス、ソリュシオンクレディ)
(ステージ敢闘賞)「敢闘賞を意識して走るのは今ツールで2度目だよ。第6ステージでも狙っていたんだ。今日、初めての敢闘賞を受け取ることができてとてもうれしいよ。プロトンが2分半以上前に行かせてくれなかったから、今日先頭集団で走るのはかなり難しかったんだ」」出典:主催者の公式リリースより
■ミケル・ランダ(モヴィスター チーム)
(ステージで落車あり 2分9秒遅れのステージ55位・総合21位)「まさにショックだった。一瞬前にはバイクの上にいたのに、次の瞬間には地面で、観客に囲まれていたんだからね。幸いなことに怪我はなく、レースを続けることができた。難しい状況で、チームメートはずいぶん僕を助けてくれた。“ただの”タイムロスだけど、目標にしていたものは遠くになってしまったね」出典:チームの公式リリースより
■ワレン・バルギル(チーム アルケア・サムシック)
(ステージでの落車について)「ミケル・ランダの落車について悲しく思う。ジュリアン(・アラフィリップ)の後輪に接触してバランスを崩し、左側にいたミケルにぶつかってしまった。僕は奇跡的に落車を免れたけれど、ミケルはそうではなかった。彼が大丈夫であることを願う」出典:本人(@WarrenBarguil)のツイートより
コメント翻訳:寺尾真紀
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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