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【ジロ・デ・イタリア2019 / レビュー】カラパスが史上初のエクアドル人総合優勝!「将来的には、ツールのマイヨ・ジョーヌやブエルタのマイヨ・ロホも着たいんだ」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか古代円形劇場をピンク色の道が貫き、抜けるような青空の下、満員の観客席では黃・青・赤の大旗がはためいた。第14ステージにマリア・ローザを手に入れたリカルド・カラパスが、モヴィスターの強固な隊列に支えられ、最後まで危なげなく総合首位の座を守りきった。第102回目のジロ・デ・イタリアが、史上初めてのエクアドル人総合優勝を見届けた。
2019年大会の最終週は、個人タイムトライアルの第21ステージを除いて、毎日のようにドラマチックな逃げ切り勝利が展開された。
例えば第16ステージ。標高2618mのガヴィア峠こそ積雪のため迂回されたが、ジロ伝統の難峠モルティローロが、休息日明けのプロトンの前に立ちはだかった。しかも選手たちの肢体を、否応なく氷雨が濡らした。ただ序盤に出来た21人の逃げ集団から、さらに抜け出したジュリオ・チッコーネとヤン・ヒルトだけが、地形&天候の厳しさを跳ね除け最前線を突っ走った。特に大会初日から青いジャージを身にまとうチッコーネは、肝心の山岳ポイントも着実に収集しつつ、後方のエース(ロペス)を気にしてスピードの上がらないヒルトを横目に、半袖ジャージで精力的な加速を繰り返した。ラストは雨と汗と鼻水とがすべて混じり合うような、そんな極限のコンディションの中で、24歳の若きイタリアンクライマーが勇敢に区間勝利をさらいとった。
翌17ステージは、18人の逃げ集団から区間勝者が生まれた。ラスト15kmで、勝利へと続く一発を決めたのは、「アタックは一発しか打たない」と決めていたナンス・ペテルス。そのまま山の上のバイアスロン用トラックを真っ先にこなし、歓喜のプロ初優勝へと駆け込んだ。
3週間の中で最も衝撃的な大逃げ劇は、第18ステージで演じられた。スプリンター向けコースで、残り250mで渾身のスプリントを切ったチーマが、すでに区間2勝のパスカル・アッカーマンの恐ろしい追い上げをかわし切ったのだ。本人にとっても、日伊合同チームのNIPPOにとっても、初めてのジロ区間勝利だった。3週間の中で最も大きな笑顔が弾けたのは、第19ステージかもしれない。2016年にジロ総合2位・ブエルタ総合3位と自転車界を大いに席巻しながらも、伝染性単核球症に苦しめられてきたエステバン・チャベスの、完全復活のアピールだった。
すでに第7ステージでも大逃げ勝利を手にしているペイオ・ビルバオが、2019年ジロ最後の逃げ切り勝者となる。まずは序盤の逃げ集団に滑り込み、代替チーマ・コッピ通過後に一旦吸収されるも、再び前方へと飛び出した。最終盤にまたしても強豪たちに捕らえられるが、ビルバオは決して諦めなかった。カラパスやミケル・ランダ、ヴィンチェンツォ・ニバリ、そしてチッコーネというそうそうたるメンバーを振り払って、山頂フィニッシュで2つ目の栄光を手に入れた。
このカラパス&ランダのモヴィスターコンビと、イタリアの英雄ニバリにとって、大会3週目に突入した時点での共通の敵はプリモシュ・ログリッチェだったに違いない。なにしろ2度の個人タイムトライアルで圧倒的な力をひけらかし、序盤5日間マリア・ローザを身にまとい、第13ステージまでは総合本命の中で首位を突っ走ってきた男だ。しかし第13ステージでランダの飛び出しを見逃し、第14ステージでカラパスの独走勝利を許し、第15ステージにはニバリの猛攻撃とメカトラで崩れ落ちたログリッチェに、もはやかつての勢いはなかった。2019年ジロ最難関ステージの、モルティローロの山道で、ピンク争いからは完全に脱落した。
「パンターニの山」で戦いの口火を切ったのはニバリだった。モヴィスターの2人組も、協力体制に加わった。翌第17ステージは、ランダが仕掛ける番だった。残り3kmで大きく加速。ほんの数秒ずつながらも、カラパスを含む総合勢に差をつけた。
しかし「チーム内のマリア・ローザを差し置いてアタックした」のだから、至極当然ではあるけれど、レース後にはちょっとした雑音も飛び交った。かつてファビオ・アルやクリス・フルームに仕えた時も、やはりランダは「謀反」のような動きを見せている。しかも今回、そもそも開幕前は、ランダこそが絶対的エースだったのだ。ただこの日に26歳の誕生日を迎えたマリア・ローザ本人は、「だってランダは偉大なる選手だから」と、決して事を荒立てようとはせず……。
「ランダほど強いチームメートを持てることは、僕にとっては、心強い支えでしかない。むしろモヴィスターから、僕とランダの2人が、最終表彰台に上れたら最高だよ」
周囲の不安は杞憂に終わる。第19ステージはランダが精力的な隊列牽引を引き受け、あらゆる不穏な動きを封じ込めた。最終日前夜には、ランダのために、逆にマリア・ローザ姿のカラパスが発射台役を勝って出たほど!山の戦いがすべて終わった後、モヴィスターの2人は、山頂で固く抱き合った。美しきチームワークだった。カラパスは総合2位ニバリに1分54秒差をつけ、初めての総合優勝に王手をかけた。ランダもこの最終山岳ステージで、見事に総合3位に浮上した。……ただ最終日の個人タイムトライアルで、再び表彰台圏外に追いやられてしまうのだけれど。
2017年ツールでは1秒差で表彰台を逃したランダは、今回は8秒差で総合4位に落ちた。代わりにTT巧者ログリッチェが生まれて初めてのグランツール表彰台に上り、ニバリはジロでは6大会連続で表彰台乗りを決めた。
全長17kmの独走は、ヴィクトール・カンペナールツにも微笑まなかった。すでに第9ステージでも2位に泣いたアワーレコード保持者は、わずか4秒差で、今回も2位に甘んじた。むしろ過去2年、ジロでトム・デュムランのために働いてきたチャド・ハガが、5日目に大会を退いたエースに代わり、初めてのグランツールステージ優勝を味わった。
3週間前にボローニャを走り出した176人のプロトンは、ヴェローナに到着する頃には、142人にまで数を減らしていた。タイムトライアルコースに1番に駆け出していった初山翔は、「ア・ツ・ヤマ!ア・ツ・ヤマ!」コールの鳴り響く円形劇場に、3番目に滑り込んだ。大会序盤に2度の勇敢なる逃げを見せ、最下位の証マリア・ネーラを着せられたジャポネーゼは、ジロを最後まで走りきった史上6人目の日本人となった。
そして大観衆の待ち受けるフィニッシュ地へと、142番目にたどり着いた者こそが、2019年ジロ・デ・イタリアの総合覇者となった。ピンク色のジャージ姿で拳を固く握りしめ、喜びを噛み締めたカラパスが、祖国エクアドルに史上初めてのグランツールタイトルをもたらした。
「夢が叶ったよ。僕のキャリアの中で、最も美しい瞬間だ。祖国の子どもたちにメッセージを伝えたいな。夢を信じ続けろ、って」
しばらくは夫人や2人の子供たち、さらには両親と共に「この快挙を、静かに味わいたい」と願うカラパス。つまりはチームメートのランダや、ライバルのニバリがさっそくツール出場を宣言したのに対して(ログリッチェは未定)、2019年マリア・ローザは……。
「今年のツールには頼まれたって出ないよ!でも将来的には、ツールのマイヨ・ジョーヌやブエルタのマイヨ・ロホも着たいんだ」
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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