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【ジロ・デ・イタリア2019(ST.10〜ST.15)/ レビュー】勝負は試練の3週目に。3大ツール全制覇のニバリ「火曜日からは全く違うレースが始まる」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかついに勃発した山岳の戦いで、不運と大胆さが交差した。2019年ジロ・デ・イタリア初日から絶好調で突っ走ってきたプリモシュ・ログリッチェはタイムを失い、イタリアの星ヴィンチェンツォ・ニバリは総合優勝への強い執念を改めて見せつけた。なにより1回目の休息日前日にはマリア・ローザから5分06秒遅れ、総合2位ログリッチェからは3分16秒遅れにつけていたリカルド・カラパスが、2回目の休息日をピンク色のジャージで迎えた。
大会2週目は、初山翔の2度目のエスケープで幕を開けた。第3ステージはたった1人で144kmを逃げたが、第10ステージはルーカ・コヴィリと115kmの2人旅だった。
初山SHOWに代って、最前線を奪ったのはスプリント列車だ。大会2週目の最初の2日間は、完璧なるフラットで、しかもスプリンターにとっては山岳突入前最後のチャンスだった。ところが猛然とスピードを上げる隊列は、残り1kmで明暗が分かれた。すでに区間2勝を上げ、マリア・チクラミーノを楽しんでいたパスカル・アッカーマンが激しく地面に転がり落ち、代わりにアルノー・デマールが1勝目を手に入れた。しかもアッカーマンに少々揶揄されながらも……中間ポイントを地道にこつこつ積み重ねてきたおかげで、デマールはシクラメンジャージさえもさらい取った!
今夏のツールは欠場予定のフレンチスプリンターは、第11ステージでもきっちり中間ポイントを収集。フィニッシュではカレブ・ユアンに次ぐ2着に終わったものの、ポイント賞のリードは着実に広げた。しかもこの日を最後に区間2勝ユアンと、昨年のポイント賞王者エリア・ヴィヴィアーニが……0勝のまま大会を去り、「キング・オブ・スプリンター」の座を巡る争いは、つまり1位200pt(第15ステージ終了後)のデマールと、2位187ptのアッカーマンの2人のスプリンターに絞り込まれた。大会は残り6日。2人の直接対決の機会は、第18ステージのただ1度だけ。
「チーム全体で山を乗り越える。だってこのチクラミーノを守るという目標があるからね。やる気倍増だし、ヴェローナに絶対たどり着きたい。タイムアウトにならぬよう、山を上手くこなしつつ、チャンスとあらばあちこちでポイントを収集していくつもり」
デマールが恐れる山越えは、第12日目から始まった。2019年大会で初めての1級山岳が登場した第12ステージも、今大会初の1級山頂フィニッシュとなった第13ステージも、25人を超える巨大な逃げ集団がステージ勝利を争った。チェザーレ・ベネデッティとイルヌール・ザカリンがそれぞれ区間の栄光を手に入れ、大会6日目から首位の座を守ってきたヴァレリオ・コンティから、チームメートのヤン・ポランツェがマリア・ローザを引き継いだ。
この2日間の巨大な逃げはまた、ログリッチェの「ライバルチーム」たちの攻撃の起点となった。第12ステージで攻撃に転じたミゲルアンヘル・ロペスとミケル・ランダは、「前待ち」をしていたアシストの助けを得て、それぞれ28秒を取り戻した。翌日のスペインチームはなんと3人を前線へと滑り込ませた。そして最終峠の麓で、メイン集団からランダがアタックを打つと、またしても先行組は力強い牽引係に早変わりした。モヴィスターからは、最終盤でカラパスさえも飛び出した。
モヴィスターが強力なチーム力を見せつけた一方で、ログリッチェは孤軍奮闘する場面が多く見られた。もちろん第13ステージを終えた時点でも、「ログリッチェ優勢」の図式はいまだ変わらず。たしかに大逃げを打ったザカリンやバウケ・モレマに総合タイムを詰められたが、ほんの一時的に過ぎなかった。モヴィスターの2人はいまだ2分近くも離れていたし、ロペスはメカトラで、サイモン・イェーツはバッドデーで総合優勝争いから大きく遠ざかっていた。なにより最も危険人物のニバリに対しても、いまだ1分44秒リードを有していた。
しかし2019年シーズンここまで出場した3つのステージレース全てで総合を制し、ジロ初日にピンクジャージをさらい取り、第9ステージの個人タイムトライアルで圧倒的な強さを見せつけたログリッチェは、第14ステージで追われる立場から追う立場へと変わる。131kmという短距離ステージで、カラパスに28kmもの独走を許してしまったのだ。
ステージ最終盤に立ちはだかる1級サンカルロ峠で、エクアドルの山男はひとり飛び立った。総合4位に終わった1年前は、新人賞を巡りロペスと熾烈なにらみ合いを繰り広げ、時には「足の引っ張り合い」と批判されたこともあった。しかしホワイトジャージの対象年齢を卒業したカラパスは、この日は「ログリッチェとニバリの反応を試すため」に自らが飛び出した。……肝心のログリッチェとニバリは、睨み合い、牽制し合い、追いかけてはこなかった。カラパスは両者に1分54秒もの大差をつけてフィニッシュし、第4ステージに続く今大会2つ目の区間勝利をさらいとった。さらにはボーナスタイムの10秒も手に入れて……ログリッチェを7秒差で逆転成功。エクアドル人として史上初めてのマリア・ローザを身にまとった。
またこの日、サイモン・イェーツがカラパスに次ぐ2位に飛び込み、いまだ自らが終わっていないことを証明した。さらに翌日の、イル・ロンバルディアのコースを拝借して行われた第15ステージでは、「落ち葉の」モニュメント2勝のニバリが戦いをかき回すことになる。区間最後の難関、チヴィリオ山頂直前で、大きな一撃を打ちおろしたのだ。
「ライバルたちの目を見て、彼らがどんな調子なのかを理解し、そして僕はアタックに転じた」
カラパスがすぐに後輪に張り付き、イェーツも上手く流れに乗った一方で、ログリッチェは遅れを取った。チヴィリオ登坂直前に変速機トラブル→チームカー対応できず→同僚トールクの自転車を拝借→長く孤独な追走……と相次ぐ困難から脱出した直後だったせいかもしれない。さらにはプロトン一のクレイジーダウンヒラーが、過去2度勝ち取ったロンバルディアの下りを恐ろしいスピードで駆け下りる背後で、自分用に調整されてはいない自転車を操るログリッチェは、カーブを曲がり切れずガードレールに激突してしまう。
ダリオ・カタルドが逃げ切り優勝を飾り、その11秒後にカラパス、ニバリ、イェーツがフィニッシュラインを駆け抜けた。さらにその40秒後、ログリッチェはひどく厳しかった大会2週目を終えた。
4日連続で山でタイムを失い、カラパスに次ぐ総合2位につけるログリッチェにとって、試練の3週目がやってくる。なにしろライバルたちが「直接対決」を挑んでくる難関山岳ステージは、いまだ4日間も残っている。最高標高地点「チーマ・コッピ」予定だった標高2618mガヴィア峠は、大雪のためコースから姿を消したけれど、第16ステージには伝説の難峠モルティローロが待ち受けるし、ヴェローナ到着前夜にも1級山頂フィニッシュが組み込まれた。
一方で47秒リードでマリア・ローザを着るカラパスにとって、17kmと距離こそ短いものの、恐るべきは最終タイムトライアルだろう。ニバリの存在も、また恐ろしい。首位から1分47秒差、ログリッチェから1分差につけるベテランは、3週目にこそ真価を発揮する男として知られる。史上わずか7人しか存在しない、3大ツール全制覇チャンピオンの称号は伊達ではないはずだ。
「火曜日からは全く違うレースが始まる。極めて複雑な戦いだ。カラパスはアタックで挑むだろう。ログリッチェはより待ちの姿勢で、計算しながら走る。僕に関しては、1回大アタックを打つか、何度にも分けて数秒ずつ稼ぐか、まだ分からない」
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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