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サイクル ロードレース コラム 2019年5月21日

【ジロ・デ・イタリア2019(ST.1〜ST.9)/ レビュー】元スキージャンパーのログリッチェがその力を誇示「まだまだ道は長い。山岳ステージはこれからだ」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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プリモシュ・ログリッチェ

プリモシュ・ログリッチェの圧巻の勝利で始まり、同じくログリッチェの力の誇示で2019年ジロ・デ・イタリアの序盤9日間は締めくくられた。初日に手に入れたマリア・ローザは、「自らの意志で」第6ステージの終わりに手放したものの、直接的ライバルたちに1分44秒以上もの差をつけ大会2週目へと走り出す。

開幕直前に現役世界王者アレハンドロ・バルベルデと22歳の新鋭エガン・ベルナルの欠場が発表されたが、それでも今年のイタリア一周のスタートラインには、とてつもなく豪華な顔ぶれが並んだ。3つのグランツールと2つのモニュメントを制した地元の星ヴィンチェンツォ・ニバリを筆頭に、2年前の総合覇者トム・デュムランや、昨ブエルタを勝ち取ったサイモン・イェーツ。昨シーズンのジロ&ブエルタで表彰台乗りを果たしたミゲルアンヘル・ロペスに、やはりグランツール総合表彰台経験を持つミケル・ランダにイルヌール・ザカリンにラファル・マイカ。

中でも今シーズンここまで、最も絶好調で突っ走ってきたのがログリッチェだ。昨夏ツール・ド・フランスの総合4位でグランツールライダーとしての可能性を証明した元スキージャンパーは、2019年は2月末UAEツアー、3月ティレーノ〜アドリアティコ、5月上旬ツール・ド・ロマンディと、出場した3つのワールドツアーステージレース全てで総合優勝をさらいとってきた。

そしてジロ第1ステージ、全長8kmの登坂タイムトライアルで、ログリッチェはあっさり自身初のピンクジャージを身にまとってしまう。ライバルたちには早くも19秒以上の差をつけた。

「できる限り速く走る以外に、特別な作戦なんてなかった。これだけの差が開いたことには驚いている。初日から最終日まで総合首位をキープできるかどうかどうかなんて分からないけど、最も大切なのは、最終日ヴェローナでマリア・ローザを着ていること」

今年のジロは、山の到来が遅い。たとえば昨大会は6日目のエトナ山頂フィニッシュを皮切りに、1度目の休息日までに3つの難関山頂勝負が待ち受けていた。一方の今年は第13ステージ以降の後半に山がぎゅうぎゅうに詰め込まれた代わりに、前半戦は距離の長い平地ステージが延々と繰り返された。

もちろんスプリンターたちにとっては、脚がフレッシュなうちに輝ける、この上ないチャンス。特に昨大会ステージ4勝&ポイント賞のエリア・ヴィヴィアーニと、やはり一昨年区間4勝&ポイント賞フェルナンド・ガビリアという、現役屈指の俊足対決(&去年までのチームメート)が期待されていた……。

パスカル・アッカーマン

しかし第2ステージで、最初のスプリント機会をモノにしたのは、グランツール初出場のパスカル・アッカーマンだった。しかも大雨の第5ステージで、早くも2勝目を獲得。喜びを体いっぱいで表現するドイツチャンピオンは、「3勝は持ち帰りたいな」と欲を見せる。

日本の初山翔が単独で144km逃げた日、イタリアチャンピオンのヴィヴィアーニはたしかに、先頭でフィニッシュラインを越えた。しかし斜行による進路妨害があったとして、まさかの降格処分に。代わりに勝者の名乗りを受けたのは、皮肉にもガビリア。「厳しすぎる審判だ。それに僕はペダルで負けたんだ」と、表彰式ではニコリともしなかった。

4日目の上り坂フィニッシュでは、スプリンターたちは全員まとめて失意を味わった。残り6.5kmほどの集団落車で大分断が発生するも、先行を続けた15人ほどの集団には、ヴィヴィアーニ、アッカーマン、アルノー・デマール、そしてカレブ・ユアンという4人の強豪が滑り込んだはずだ。しかし最後の坂道で恐ろしくペースが上がった。ユアンだけは最後の最後まで粘ったが……、昨大会総合4位リカルド・カラパスに勝ちを奪われてしまった。幸いにもその4日後、ユアンは念願のスプリント勝利を収め、溜飲を下げた。

ちなみに最終盤にスピードが上がったのは、先頭集団内にログリッチェが滑り込んでいたせいでもある。デュムランが地面に投げ出され、他のライバルたちも分断の犠牲となった一方で、マリア・ローザは巧みに難を逃れた。カラパスの2秒後にフィニッシュし、つまりはイェーツ、ニバリ、ロペス等から新たに16秒のリードを押し付けた。

左脚を痛めたデュムランは、思うようにペダルを回すことも、タイム損失を最小限に防ぐために努力することも、もはや不可能だった。5人のアシストから守られるようにして、区間勝者から4分04秒遅れで1日を終えた。そして翌日、本スタート前のニュートラルゾーンで、無念にもリタイアを決断する。

「酷い気分だよ。何ヶ月もかけてジロのための準備を積んできたのに、ほんの一瞬で全てが台無しになってしまった」

不幸中の幸いか、精密検査の結果、左膝に深刻なダメージはなかった。1週間の休養後に、デュムランは再び今までどおり走れるそうだ。

大逃げ好きにも、2019年ジロは1週目から微笑みかけた。特に第6ステージ朝にログリッチェが「マリア・ローザを他人に譲るつもり」と発言したものだから……途端に無数のピンク希望者たちが激しくアタックを繰り返した!あまりに加熱し過ぎて、集団落車が発生し、ログリッチェが軽く地面に転がり落ちる場面さえ。50kmほど先でようやく13人のエスケープ集団が出来上がり、さらにフィニッシュまで約30kmを残して、2人のイタリア選手が逃げ切りの切符を手に入れた。つまりはファウスト・マスナダが2019年ジロ最初のイタリア人勝者となり、ヴァレリオ・コンティが2016年第21ステージ以来となるイタリア人マリア・ローザとなった。

第9ステージ プリモシュ・ログリッチェ

ログリッチェが総合5分24秒遅れに後退し、ユンボ・ヴィスマが集団制御の責任から解放された第7ステージ、前日以上に白熱したアタック合戦をかいくぐり12人が逃げ出した。しかも前日も逃げ、総合でわずか2分09秒差につけるホセ・ロハスが前に滑り込んでいたものだから、UAEチームエミレーツはタイム差コントロールに必死にならざるを得なかった。ペイヨ・ビルバオが逃げ切りの勝利を決め、チームの努力の甲斐ありコンティはピンクジャージをきっちり守った。

残念ながら個人タイムトライアルスペシャリストには、いまだ勝機は回ってこない。休息日前日の第9ステージ、34.8kmの全力疾走は、4月にアワーレコード新記録を樹立したばかりのヴィクトル・カンペナールツの手に収まっても良かったはずだ。ところが残り1.5km地点でチェーンが落ちるトラブル発生。慌てて自転車交換するも、走り出すのに大いに手間取った。

「自転車交換のせいで負けた。ひどい不運だ。がっかりしてる。今夜は眠れないだろうな」

腹立たしそうに語ったカンペナールツは、わずか11秒差で優勝を逃した。今大会3つ目の最終個人TTこそ勝ってやる……とリベンジを誓う欧州TTチャンピオンのタイムを唯一上回ったのは、もちろん今大会2つ目のTTステージ勝利を手にしたログリッチェだ。カンペナールツの走行時よりも、雨はひどくなっていた。ただし濡れて危険な路面でも、「全ては予定通りに進んだ」。

1分50秒差の総合2位と、マリア・ローザこそいまだコンティから取り戻してはいないものの、ログリッチェのニバリに対する総合リードは1分44秒へと広がった。区間3位に入ったバウケ・モレマが1分55秒遅れ、今ジロ本気の総合上位入り挑戦ボブ・ユンゲルスが2分18秒遅れ。TTの日に運悪く「バッドデー」を迎えたイェーツはすでに3分46秒の遅れを喫し、メカトラでタイムを失ったロペスは4分29秒とはるか下方に沈む。

「誰がまだ総合争いに踏みとどまっているのか、もう少し先で見えてくるはずだ。まだまだ道は長い。山岳ステージはこれからだ。この先たくさんのことが起こるだろう」

ログリッチェの言葉通り、2019年のジロはこれからが山場を迎える。大会2週目は2日連続のど平坦ステージで静かに始まるが、第12ステージからいよいよ道は起伏を増す。第13ステージではついに今大会初の本格山頂フィニッシュ。登坂距離20km、標高2000mを超える真のクライマー向けのステージで、マリア・ローザ争いは新たな展開を迎える。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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