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【ツール・ド・フランス2015/プレビュー】総合優勝候補の4選手の仕上がりは完璧。挑戦者のレベルも高い102回大会がユトレヒトで開幕!
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか7月4日に、オランダのユトレヒトで封切られるのは、スリルとサスペンスに満ちたスペクタクル超大作!なにしろ「ファンタスティック・フォー」なんて呼ばれるマイヨ・ジョーヌ候補が、スタートラインに4人並ぶのだ。ディフェンディングチャンピオンのヴィンチェンツォ・ニーバリ、2013年100回大会覇者クリス・フルーム、グランツール7冠アルベルト・コンタドール、そして若きコロンビアの刺客ナイロ・キンタナ。これほど大人数の優勝候補が豪華競演するのは、近年ではめったにない事件だ。
ファンタスティック・フォーの大戦
昨オフ中から4人全員が「ツールを目指す」と宣言していたものだから、2015年シーズンの自転車界はうきうきそわそわと4人の動向を見守ってきた。そして6月のレースシーンを見る限り、どうやら4人が4人ともに準備万端の様子。ハイレベルな激突が繰り広げられることは、ほぼ約束されている。
ニーバリはフレンチアルプスを舞台に繰り広げられたクリテリウム・ドゥ・ドーフィネで、あえてステージに集中して結果を残した(区間2位、リーダージャージ着用)。6月最後の週末には、昨年に続いて、ナショナルチャンピオンジャージを勝ち取った。つまり昨年同様に、ツールに向けたピーク合わせは完璧だ。フルームはそのドーフィネで2日連続山頂フィニッシュを制し、総合優勝をもさらいとった。山道での恐るべき高速ペダリング+加速能力は健在で、2013年にドーフィネ総合優勝→ツール総合優勝とステップアップしたように、2015年も同じ方式でマイヨ・ジョーヌを取りに行く。
ピレネーの小さなレース、ルート・デュ・シュドを最終調整の場に選んだのはコンタドール。ジロ総合優勝後の休息明けに、難関山岳区間+総合をバキュンと撃ち落とした。1998年のマルコ・パンターニ以来となるジロ&ツールの「ダブルツール」という偉業達成も夢ではなさそうだ。一方のキンタナは、雪の降る3月ティレーノ〜アドリアティコで力強く総合優勝を奪ったが、初夏のルート・デュ・シュドはコンタドールから17秒遅れの総合2位で終えた。全ては下りで離されたせいであり、上りでは涼しい顔でコンタドールの背後に潜んでいた。あくまで「無理しない」的な態度に、一部の自転車関係者は「4人の中で一番怖いのはキンタナ」と囁く。
自信をつけたフレンチ軍団
しかし、4人ということは、必ず1人は表彰台から脱落するわけで……。いや、むしろ、主役級を力ずくで突き落として、表彰台によじ登る第5、第6の存在が出てくるかもしれない。なにしろ2015年大会は、挑戦者たちの顔ぶれもびっくりするほどレベルが高い。たとえば昨ツールの総合5位ティージェイ・ヴァンガーデレン。ドーフィネですさまじい進化っぷりを披露し、2012年のマイヨ・ブランは、一躍「表彰台候補」として注目を浴び始めた。
昨年ついに「古豪復活」をアピールした開催国フランスは、今年は表彰台取りに自信満々だ。使命を託されるのは若きティボー・ピノとロメン・バルデの2人。特に昨ツール総合3位の25歳ピノに関しては、「マイヨ・ジョーヌさえ行ける!」と一部関係者は加熱する。ツール・ド・ロマンディ&ツール・ド・スイスで山頂フィニッシュを制し、たしかにヒルクライマーとしては、すでに超一流である。スイスではカーブ多発のフィニッシュでスプリントをかけ、ボーナスタイムを取りに行くなど、「スピード」や「下り」への苦手意識も完全に克服した。なにより苦手とする個人タイムトライアルが短いのはピノには好都合!
また24歳バルデは、昨年同様、38歳ジャンクリストフ・ペローとのダブルリーダー制が必ずや吉と出るはずだ(昨大会バルデ6位、ペロー2位)。待望のツールデビューを果たすワレン・バルギルも、「未来の」マイヨ・ジョーヌ候補として、ファンや関係者たちの熱い視線を集める。
オランダ開幕なだけにウィルコ・ケルデルマン、ロベルト・ヘーシンク、バウク・モレマの活躍にも期待しつつ……、「新スペインチャンピオン」アレハンドロ・バルベルデ(キンタナのアシストなのか、それともダブルリーダーなのか?)や、「プリト」ホアキン・ロドリゲスの、スペインベテラン組の存在も決して忘れてはならない。
序盤9日間に要注意
個人タイムトライアルがわずか13.8km、チームタイムトライアルが28kmと極めて短く、大会10日目以降はたっぷり山三昧。つまり、大まかに見れば、山岳「赤玉」ジャージ40周年にふさわしい、ピュアヒルクライマー向きのツールに仕上がっている。
ただし、開催委員会は、マイヨ・ジョーヌ候補に異なる形の試練をたっぷり与えることに決めたらしい。というのも大会前半は、決して平凡で平坦なステージばかりが続くわけではないからだ。むしろ日替わりのクラシック風。アルデンヌ風激坂(第3、8ステージ)は山岳巧者の得意技としても、フランドルクラシック顔負けの強風(第2、6ステージ)や石畳(第4ステージ)が、体の軽い選手たちを苦しめる。ファビアン・カンチェラーラやアレクサンドル・クリストフ、ジョン・デゲンコルブ、ペーター・サガン等々が水を得た魚のように突っ走る一方で、ヒルクライマーたちは落車・メカトラ・分断の犠牲となり総合争から早くも脱落……という危険性も十分に秘めている。
後半はピレネー3日間、中央山塊2日間、アルプス5日間とうんざりするほどの山続き。しかも難関山頂フィニッシュが5回、激坂フィニッシュが1回、軽い上りフィニッシュが2回、下りフィニッシュが2回と、どのステージもひどく難しく、どのステージも総合争いにおいて重要だ。ファンタスティック・フォーがとてつもない接戦を繰り広げた場合、もしかしたら、マイヨ・ジョーヌの行方はパリ到着24時間前のアルプ・デュエズまで決まらないかもしれない。そもそも、ギリギリまでサスペンスを引き伸ばす、これぞズバリ開催委員長クリスティアン・プリュドムの狙いである。
つまるところタイムトライアルスペシャリストやピュアスプリンターには、残念ながら、それほど多くの活躍の場は与えられない。もちろんTT巧者には初日マイヨ・ジョーヌの名誉が、スプリンターには最終日の栄光が待っている!トム・デュムランやトニー・マルティンには生まれて初めてイエロージャージに袖を通す可能性があるし、マーク・カヴェンディッシュには3年ぶり5度目のシャンゼリゼ勝利をつかみとるチャンスがあるというわけなのだ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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