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幸いなことに、落車もなければ、総合候補が分断にはまることもなく、ようやく純粋なレースだけで勝敗が決した。マイヨ・ジョーヌのトニー・マルティンを落車で失ったエティクス・クイックステップは、大きな笑顔を取り戻した。昨大会は初日に落車でツールを去ったマーク・カヴェンディッシュが、2年ぶりの待ちに待った区間勝利を手に入れた。ステージ終了時点で総合首位に立っていたクリス・フルームは、マイヨ・ジョーヌ表彰台に臨んだ。英国、つまりフランス語で言うところの「グラン・ブルターニュ」からきた2人が、ブルターニュで輝いた。
ブルターニュのアナグマ、イノーが人生最後のマイヨ・ジョーヌを獲得してから30年。黄色いシンボルのいないプロトンが、フランスで最も自転車熱の高い土地へと踏み込んだ。
持ち主を失ったマイヨ・ジョーヌは、本来ならば、12秒差で総合2位のクリス・フルームに引き継がれるはずだった。しかしマルティンの手術の成功と早い回復を祈りつつ……、2013年総合覇者はマイヨ・ジョーヌ着用を拒否した。かつて先人たちが、そうしてきたように。1971年、雨の下りでの落車でルイス・オカニャが病院送りになった翌朝、ライバルのエディ・メルクスは黄色を拒んだ。1980年膝の痛みでイノーが夜間に大会を離れた翌朝のヨープ・ズートメルクも、1991年ロルフ・ソレンセンが鎖骨骨折でリタイアした翌日のグレッグ・レモンも、さらには2007年ミカエル・ラスムッセンが居場所報告虚偽で追放された翌日のアルベルト・コンタドールも、やはりマイヨ・ジョーヌを着なかった。
真夏の青い空の下で、2km地点で5人が逃げ出した。前日エリトリア人として史上初めて山岳ジャージを手にしたダニエル・テクレハイマノは、12.5km地点に待ち構える今ステージ唯一の4級峠を狙って、2日連続のエスケープに乗った。完全なるスプリンター向けのコースで、スプリントリーダーの消えたコフィディスからはルイス・マテマルドネスが。今大会初めて前方に選手を送り出したランプレ・メリダからはクリスティアン・ドゥーラセックが。
もちろん「地元チーム」のブルターニュ・セシェ アンヴィロヌモンからは、アントニー・ドゥラプラスとブリース・フェイユーの2人がエスケープに滑りこんでいた。チームマネージャーのエマニュエル・ユベールにとって、「小さい頃から30歳まで住んでいたし、15歳まではフィニッシュラインから300mのところに住んでいたよ!」(チーム公式リリースより)とひときわ思い入れの強いフジェールの町へ向かって、先頭集団でペダルを回した。
ほぼ完全なる平坦なステージで、しかし、スプリンターチームが逃げ切りを許すわけもない。今ステージを逃すと、ピュアスプリンターにとっては、あとは第15ステージと最終シャンゼリゼしか輝ける機会は残っていないのだ。だから慎重にタイム差を制御した。特にマイヨ・ヴェール擁するロット・ソウダルや、カヴェンディッシュ率いるエティクス・クイックステップが、きっちり前方で牽引を行った。リードは最大3分50秒しか与えなかった。途中では激しく中間スプリントを争いつつ、再アタックを防ぐために早すぎる吸収も避けつつ、エスケープに敢闘賞バトルを繰り広げるチャンスも与えつつ(地元っ子ドゥラプラスが獲得)……、ゴール前11kmで逃げ集団を飲み込んだ。
あとは形式通りに大集団スプリントへと向かうだけだった。すでに区間2勝を誇るアンドレ・グライペルをどうにか封じ込めようと、ゴール前5kmでエティクスやジョン・デゲンコルブ率いるジャイアント・アルペシンは長い列車を組んだ。FDJはセバスティアン・シャヴァネルが単独で、スプリントエースのアルノー・デマールを前まで連れて行った。フラムルージュではロットが3人で主導権を握り、ラスト500mではカチューシャの3両列車が先頭を奪い取った。
「序盤2回のスプリントは少し早く仕掛けすぎたから、今回はできるだけ長く我慢しようと努力した。カチューシャの発射台2人に連れられたクリストフが見えたから、彼がスプリントを切るのを待つことにした。そして彼の後輪に入った。でも、彼も、待ちの姿勢を取っていた。その時、グライペルが上がっていくのが見えたから、すぐに彼の後輪に飛び移った。グライペルは僕をフェンス側に押しやって、出口を塞ぐことだってできたはずなのに、彼はジェントルマンだからね。ラインを崩さなかった。おかげで僕はオープンスペースを見つけることができたというわけさ」(カヴェンディッシュ、テレビインタビューより)
ステージ序盤にはマルティンの手術が上手く行ったという朗報が飛び込んできた。そして1日の終わりには、エティクスは区間2連勝・今大会3勝目という見事な報いを手に入れた。もちろん、カヴにとっては、2013年7月12日以来2年ぶりとなるツール区間勝利。キャリア通算では26回目のスプリント勝利で、34勝エディ・メルクス、28勝ベルナール・イノーに続く単独ツール史上3番目の区間勝利数を記録したことになる。
「僕が手にした26勝のいずれもが、すごくスペシャルなんだ。ツール・ド・フランスで区間1勝さえあげられたら、もうキャリアは成功したも同然なんだ。それなのに、僕はほぼ毎年、区間勝利を上げ続けているんだからね。なんだか凄いことだよ。このレースに戻ってきて、2年ぶりの勝利を手にできたなんて、本当に最高だよ。特に今日は、妻と娘の目の前で勝てたからなおさらだ!」(カヴェンディッシュ、ゴール後インタビューより)
ちなみに、マイヨ・ヴェール争いに関しては、グライペルが首位を守り切った。2位サガンとは12pt差。この先ピュアスプリンターにとっては、ポイント収集は徐々に難解になっていく。一方で3年連続グリーンを勝ち取ってきた怪童は、2度の坂道ゴール(第8・13ステージ)や過去幾度か見せてきた大逃げを利用して、ポイント賞争いをリードしていける可能性を残している。また現在までにボーナスタイム26秒を稼ぎだしてきたサガンは、総合でも11秒差の2位に上がった。……もちろん新人賞では、現在ナンバーワンにつけている!
そしてマイヨ・ジョーヌは、フルームが改めて身にまとった。第3ステージで手に入れ、翌日には「チームメートを休ませるために」あえて手放したが、予想外の形で自らの手元に返ってきた。
「こうしてまたマイヨ・ジョーヌを着られるなんて、非常に光栄だ。残念ながら、僕が望んだようなやり方で戻ってきたわけじゃない。それに、マイヨ・ジョーヌを手に入れられて嬉しいけれど、まだまだレースは長い。今はとにかく2日後のチームタイムトライアルで出来る限りのベストを尽くすことだけを考えている。その後にようやく、自分の置かれた状況を正確に判断できると思う」(フルーム、公式記者会見より)
チームタイムトライアルの前に、プロトンの行方には、ブルターニュの壁が立ちはだかっている。しかも「まるで英国みたいな道」とフルームが表現したように、道はひたすら上り下りとカーブの連続だ。
また当夜に、UCI国際自転車競技連盟より、第4ステージ終了後に行われたドーピング検査で、ルーカ・パオリーニのA検体からコカインが検出されたことが発表された。所属チームのカチューシャは、パオリーニに即時帰宅を命じた。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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