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サイクル ロードレース コラム 2015年7月12日

ツール・ド・フランス2015 第8ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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フランス西部のブルターニュで壁を真っ先によじのぼったのは、東部のジュラ県からやってきたアレクシス・ヴュイエルモーズだった。1度目のアタックは吸収されるも、2度目で勝利を仕留めた。フランス選手の栄光の日を待ちわびていた大会の祖国に、2015年ツール1勝目をもたらした。2kmの短い上り坂で、優勝候補たちには差はつかなかった。「ファンタスティック・フォー」ではディフェンディングチャンピオンのヴィンチェンツォ・ニーバリだけが、ライバルたちから10秒を失った。

フランス名物、夏の大バカンスが本日幕を開けた。「ジュイエティスト(7月派)」たちが都会から大脱出をはかり、ツールの沿道も、自由時間を満喫するファンたちでびっしり鈴なりになった。

理想的な自転車日和に誘われて、スタートから10kmほど争った後に4選手が飛び出した。シルヴァン・シャヴァネル、ロメン・シカール、バルトシュ・フザルスキー、そして……本人はブルターニュっ子というわけではないけれど、ブルターニュ籍のチームで走るピエールリュック・ペリコンが、白と黒のブルターニュ地方旗はためくコースを先頭で突っ走る特権を手に入れた。

楽しくリラックスした時間は、それほど長くは続かなかった。というのも4人は最大3分半ほどのリードしかもらえなかった。逃げ切りが不可能なのは、誰の目から見ても明らかだった。この朝に、チームメートであり親友でもあるジェローム・ピノーが今季限りの引退を発表したものだから、シャヴァネルは少しでも前方で存在感をアピールしたかったのだけれど。

「プロトンは僕らが遠くに行くことを拒絶した。逃げ切れるかもしれない、なんていう幻想は持たなかった。だからこそ本気でエネルギーを振り絞ることもしなかった。だって明日は大切なチームタイムトライアルが控えていたし……」(シャヴァネル、ゴール後インタビューより)

背後のメインプロトンでは、いつものように激しい中間スプリントが繰り広げられた。マイヨ・ヴェールのアンドレ・グライペルがメイン集団内でトップの位置を勝ち取り、12pt差で後を追うペーター・サガンは4番後ろでラインを越えた。が、そこで加速は終わらなかった。スプリンター+スプリンターの推進力を利用した1ダースほどの面々が、かたまりになってそのまま走り去って行ったのだ!ミカル・クヴィアトコウスキーやピエリック・フェドリゴ、ピエール・ローラン、ペーター・サガンという、かなりの勝負師たちが紛れ込んでいた。朝からのエスケープ4人にはあっさり合流した。

メイン集団はすぐに火消しに走った。新しい集団が遠くに行くことも拒絶した。とりわけキャノンデール・ガーミンのライダー・ヘシェダルの寛容なる努力で、危険因子はきっちり回収した。一時的に最前列に残ることを許されたフザルスキーとラルスイティング・バク、ミカル・ゴラスもまた、やはりダニエル・マーティン擁する黄緑集団の懸命な制御により、ゴールまで8kmを残して吸収されていった。

全ては壁での一発勝負に向かって行った。BMCが6両編成の列車を組んだのは、総合3位ティージェイ・ヴァンガーデレンを好位置に留め置くためであり、サムエル・サンチェスを発車するためでもあった。連日働きづめのロット・ソウダルの面々は、グライペルのためでなく、今日はトニー・ギャロパンのために奮闘した。ティンコフ・サクソはダブルツールを狙うアルベルト・コンタドールの護衛に努め、そんなチームの仕事を利用して、サガンも好ポジションにつけた。ゴール前2kmの、右直角カーブには、スカイが先頭で飛び込んだ。もちろんマイヨ・ジョーヌを引き連れて。

フィニッシュまで1500m、フルームが坂道で先頭に立った。ヴュイエルモーズが、シモン・ゲシェケやアダム・イェーツを伴って前方に飛び出すと、フルームは恐ろしいペースで追いついていった。なにも3人のアタックを潰したかったわけではない。見晴らしの良い集団のてっぺんで、あらゆるライバルたちの動きを俯瞰し、コントロールしたいと考えたから。

「正直に言うと、今日の最後の上りで、僕の優位性を見せつけようなんてことは考えていなかった。ただ前に位置取りし、全員に目を配った。誰かがアタックした際の状況に備えたかった。自分のリードをしっかり守ることだけを考えていた。ここでは大きな差はつかないと分かってたからね」(フルーム、公式記者会見より)

あえなく集団に引きずり戻されたかに見えたヴュイエルモーズも、実は、フルームの動きを上手く利用したに過ぎなかった。

「朝から予定していた通りに、坂道の早めのパートでアタックした。そうしたら2選手が張り付いてきた。でも彼ら2人を、あのまま、フィニッシュまで連れて行きたくはなかったんだ。だから一旦、速度を緩めることに決めた。フルームが追いついてきた後は、僕は上手く彼の後輪に入った。ほんの少し息をついた。そして集団のリズムが落ちた瞬間に、再びアタックした」(ヴュイエルモーズ、公式記者会見より)

2度目の加速が、決定打となった。がむしゃらにマーティンが追いかけてきたけれど、もはや細身のフレンチヒルクライマーは手の届かないところへと到達していた。2014年パリ〜ニースではカルロス・ベタンクールを総合優勝に導き、同年ジロ・デ・イタリアではドメニコ・ポッツォヴィーヴォの総合5位に尽力しつつ、自らも総合11位に入る奮闘を見せた。マウンテンバイクでは団体世界チャンピオンにまで上り詰め、2012年、ロード転向してからは有能なる「山岳アシスト」として高い評価を得てきた27歳が、自らが単独で光り輝くチャンスを見事につかみとった。

「謙虚さを忘れてはならないし、注意深く、野心とつきあっていきたい。だからこの先の目標については、もう少し、時間を与えてもらえるとありがたい。僕にはまだ、チームリーダーになるようなレベルも、能力も、備わっていないんだ。もしかしたら、将来的には、僕がどこかのステージレースでリーダーを務める日が来るかもしれないけれど」(ヴュイエルモーズ、公式記者会見より)

マイヨ・ジョーヌのコントロール下で、大半の総合上位候補たちはヴュイエルモーズから10秒遅れの集団でゴールした。ただフルームが「びっくりした」と語ったように、ニーバリはさらに10秒遅れてフィニッシュラインを越えた。「空白の1日だった」と本人は端的に理由を述べた。

また「フルーム集団」には、サガンが潜り込んでいた。残念ながら区間4位で、マイヨ・ジョーヌに近づくためのボーナスタイムこそ手に入れられなかったものの、マイヨ・ヴェール用ポイントは大量19pt獲得。累計ではグライペルを3pt差で逆転し、ついに愛着のある緑色のジャージを、手元へと取り戻した。

「グリーンジャージを取り戻せて素敵だね。リードはたった3ポイントだけれど、この先はリードを失わぬようベストを尽くしていく。もちろん、もっとポイントが取れたら嬉しかったけれど、でも満足はしているんだ。イエロージャージまでは11秒。おそらく難しいだろうな。でも、僕らはトライするために、ここに来てるのさ」(サガン、チーム公式リリースより)

全長28kmのチームタイムトライアルで、もしもティンコフ・サクソがチームスカイを11秒以上上回れば(そしてサガンがチーム5番目の選手と同集団でゴールすれば)、スロバキアの怪童に黄色い衣装が回ってくる。いや、もしかしたら、13秒差のティージェイ・ヴァンガーデレンのほうが、マイヨ・ジョーヌの可能性は高いかもしれない。昨秋チームタイムトライアル世界選手権を制したBMCは、当時のメンバーを4人揃えている(デニス、オス、クインツィアート、ヴァンガーデレン)。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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