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美しきコスタ・デル・ソルの海岸道路を、BMCが8分10秒の最速タイムで駆け抜けた。砂埃を豪快に撒き散らしながら。7月のツール・ド・フランス第9ステージで、チームメート全員の力で勝利をつかみ取る喜びを味わったばかりのアメリカチームが、8月のスペインで早くも栄光を上書きした。BMC高速トレインの先頭車両としてフィニッシュしたピーター・ベリトスが、2015年最初のマイヨ・ロホを身にまとった。だからといって、個人総合首位……というわけではない。
どこかのんびりしたような。それでいて、どこか、いらいらさせられるような。そんな相反する雰囲気が、2015年ブエルタ・ア・エスパーニャの開幕ステージを包み込んでいた。2015年ツール・ド・フランス覇者クリス・フルーム、2014年ツール総合勝者ヴィンチェンツォ・ニーバリ、2015年ツール2位&2014年ジロ・デ・イタリア王者ナイロ・キンタナ、同じく今ツール総合3位アレハンドロ・バルベルデ、さらには今年のジロで表彰台の2つの位置を占領したアスタナのファビオ・アル&ミケレ・ランダに、ツール総合3位のまま涙でリタイアしたティージェイ・ヴァンガーデレンに、2012年はジロもブエルタも逆転負けを喫して涙したホアキン・ロドリゲスetc。単純に言えば「アルベルト・コンタドール以外」の強豪グランツールライダーが勢ぞろいし、かつてないほど自転車ファンからの期待と視線を集めた今大会は、ひどく奇妙な状況から始まった。
全長7.4kmの開幕チームタイムトライアルは、いわゆる「ニュートラライズ」された。つまりストップウォッチとの戦いでありながら、計測された肝心のタイムは、個人総合タイムには一切反映されなかった。ただチームの区間&総合順位を決めるためにのみ、使用された。理由は、コースの状態が、あまりにも悪かったから。
開幕の数日前から、コースを試走した選手たちが、SNSに次々と写真をアップしていた。そこに写っていたのは、でこぼこした土の道、ぐらぐらした板張りの床、砂浜に張り出した「キャットウォーク」のような細長い舞台……。衝撃が世界を駆け巡った。CPA選手会の要請で、AIGCPチーム連盟とUCI国際自転車競技連合、大会開催委員会とで急遽話し合いが持たれた。最終的には、おそらく前代未聞の、初日ニュートラライズが決定された。すなわち、メカトラでチーム隊列から遅れようが、落車を避けるためにあえてゆっくりと走ろうが、マイヨ・ロホの争いには一切関わりなし。
「朝のバスで話し合ったんだ。『果たして危険を冒してまで勝ちに行く価値のあるコースだろうか』って。でも、僕らは、チームタイムトライアル世界チャンピオンだ。チャンピオンと言うものは、どんなコースだろうか勝つことができるのだ、ということを証明すべきだと考えた」(ベリトス、公式記者会見より)
ティンコフ・サクソもまた、全力疾走を選んだ。「無駄なリスクは冒さず、しかし、安全策も決してとることなく」(ラファル・マイカ、チーム公式リリースより)、あくまで区間を勝ちに行った。しかし、BMCのトップタイムに、ほんの1秒足りなかった。最後はチーム隊列から飛び出してまで、夢中で先頭通過を奪いに行ったペーター・サガンだったけれど……、生まれて初めてのグランツールリーダージャージ着用の夢は、故郷スロバキアの先輩ベリトスに打ち砕かれた。
「あまりにも距離が短くて、あまりにもあっという間に全てが進んだから、誰が先頭で通過するのか話し合っている暇なんてなかったよ!」(ベリトス、公式記者会見より)
自然の成り行きでマイヨ・ロホを肩に羽織ったベリトスだが、全プロトンの中で唯一、3年連続でチームタイムトライアル世界チャンピオンに輝いてきた、筋金入りのTTスペシャリストである(序盤2年はオメガファルマ・クイックステップで、昨年はBMCで)。2010年ブエルタでも初日のチームタイムトライアルを制し(リーダージャージを着たのはカヴだった)、さらには第17ステージには全長46kmの個人タイムトライアルを勝ち取った。最終的には総合3位(後に2位に格上げ)で終えていることも、決して忘れてはならない。
ちなみに、記者会見で「このジャージを守るつもり?」なんて迂闊な質問が飛んだけれど、そもそもベリトスに「守る」タイムなど存在しない。だって第2ステージは全員がゼロからのスタートだ。つまりBMCの総合リーダー、ヴァンガーデレンは、この日24秒遅れでゴールしたモヴィスターのキンタナ&バルベルデや、30秒遅れたアスタナのニーバリ&アル&ランダに対して、一切のアドバンテージを有していないのだ。「ひたすらセイフティーに」を心がけて区間ではチームとしては1分11秒も落としたスカイのフルームだって、個人としてはライバルから1秒たりとも遅れていない。
もちろん区間最下位で2分15秒遅れたユーロップカーだって、新城幸也を含む9人のメンバー全員が、他の189選手と同じように、第2ステージの終わりにマイヨ・ロホを身にまとう可能性あり!当然ながらステージ勝者が、自動的にリーダージャージを手にする。そして大会2日目の終わりには、早くも、ブエルタ名物の、山頂フィニッシュが待っている。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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