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ようやくストップウォッチが動き出した2日目に、早くも訪れた山頂フィニッシュをエステバン・チャベスが制した。「超ビッグ」な優勝候補たちは少々控えめに大会最初の試練を終え、代わりにコロンビア産ヒルクライマーが、今大会初の正式なる個人総合首位に躍り出た。しかも、今年5月のジロ・デ・イタリアで、新人賞マリア・ビアンカを1日だけ着用した25歳は、この日はマイヨ・ロホを含む4つの賞ジャージを独占した。巨大な集団落車に巻き込まれたヴィンチェンツォ・ニーバリは、追い上げ中に違反を起こしたとして、レース除外処分を下された。
スタートから20km地点で6選手が飛び出し、最大3分ほどのタイム差をもらって逃げ続けていた。最初に追走に乗り出したのはモヴィスターで、しばらくするとカチューシャも協力を始めた。じわじわと追い上げのスピードは増し、6人との距離も少しずつ縮まっていく。いわゆるグランツール序盤の「定型」に則って、ステージは流れていた。しかし第1週目と言えば、嘆かわしいことに、集団落車も欠かせない要素であり……。この日も例に漏れず、ゴール前30km、とてつもない規模の落車がプロトンを襲い掛かった。
落車による影響を逃れられたのは、集団前方に位置していたほんの一握りだけ。3分の2近くの選手が、なんらかの形で、強制的に走行を一時中断させられた。たとえばパオロ・ティラロンゴは血だらけになりながらも、再び走り出した(最下位で完走)。デーヴィッド・タナーやプリジミスラウ・ニエミエツは、ずいぶんと長い間地面に横たわっていた挙句、救急車でレースから去っていった(タナーは腰骨骨折、ニエミエツは頭部を強く打ちつけ要精密検査)。単にブレーキをかけたとか、地面に足をついた、というだけの選手もいた。新城幸也もまた、転倒した。幸いにもすぐに再スタートし、プロトン復帰を果たした(Teamユキヤ通信より)。
肝心のニーバリは、自転車を交換すると、メイン集団を追いかけ始めた。ここで所属チームのアスタナは、少し不手際をやらかした。まずは自転車交換に時間がかかりすぎたこと。ニーバリが追走を始めた直後に、「風除け」としてのチームカーを走らせなかったこと。アシストたちをすぐに後ろに下がらせなかったこと。もちろんファビオ・アルとミケル・ランダという2人のリーダー格が前方に残っていたから、アシスト全員を待たせるのは不可能だった。アルもまた落車であちこち痛めていたし、ティラロンゴの負傷もあり、2台のチームカーは前に後ろに大忙しだったのかもしれない。
そしてニーバリとアスタナは、ルール違反を犯す。牽引してくれた3人のアシストと別れ、単独で追走を始めたニーバリは、近づいてきたチームカーに手をかけてしまった。そのまま水色の車は加速し……、イタリアチャンピオンジャージは一瞬にして数百メートルも移動した。ヘリコプターからの映像が、決定的瞬間をとらえていた。チームの公式発表によると「ウォーターボトルを渡すため」だった。
猛プッシュの甲斐あって、カチューシャとモヴィスターが猛烈にスピードアップを繰り返したにも関わらず、2014年ツール総合覇者はゴール前10kmでメイン集団へと合流を果たした。ただ体力を大幅に消耗してしまったせいか、最終峠で、結局はライバルたちから1分程度の遅れを喫した。不満顔でフィニッシュラインを越えたニーバリは、チームメートと言い争いをしたり、レースカーから降りてきた人物からなにやら叱責されたり。さらにはツール時に「メカトラのマイヨ・ジョーヌを待たなかった」一件で仲違いしたクリス・フルームから、やさしく声をかけられたり。すべては空騒ぎに終わる。UCIルール第12章「懲戒および手続き」内の「競技者が所属チームの車両につかまった場合=競技者はレース除外」に則って、ステージ終了後、ニーバリのブエルタ除外が決定された。
ニーバリの合流と前後して、エスケープの残党も、ついには集団に吸収された。最終3級峠へ突入すると同時に、シリル・ゴチエがアタックの口火を切るも、これもまた、本格的な戦いの前菜に過ぎなかった。
ゴール前3km、ナイロ・キンタナが大きく加速した。ゴチエはあえなく前から引き摺り下ろされた。ツール総合2位の大きな一発に、すぐに同調したのはトム・デュムラン、ニコラス・ロッシュ、ルイ・メインティスの3人だけだった。
「ナイロたちが行ってしまった後、ほんの少し、僕も行くべきかどうかためらった。でももう少し待つことに決めた。そしてゴール前2kmで、彼らを捕らえることができたんだ」(チャベス、公式記者会見より)
追いついただけでなく、チャベスはすぐさま先頭を奪って、高速でテンポを刻み始めた。メインティスが真っ先に振り払われた。さらにしばらく行くと、なんとキンタナが脱落した!
本人によれば「暑さにやられた」(チーム公式HPより)そうだが、元コロンビアのチームメートであるチャベスは、「何が起こったのかは分からない。でも誰にでもありえることだし、いずれにせよナイロは素晴らしい選手だ」(公式記者会見より)と小さく援護した。2010年にキンタナが制した「若手登竜門」ツール・ド・ラヴニールを、翌年2011年に勝ち取り、将来を大きく期待されてきた。キンタナがツール総合2位に輝いた2013年は、春先の落車による頭蓋骨折や腕神経叢損傷でまるまる1シーズンを棒に振った。そんなチャベスは、実は人生においてはキンタナよりわずか18日だけど先輩で……。
細身のヒルクライマーは、キンタナ脱落後も決してリズムを緩めることはなかった。ラスト500mでロッシュが絶望的な加速を試みると、クールに引き離した。フィニッシュ直前にデュムランがぎりぎりのスプリントを仕掛けると、余裕で退けた。生まれて初めてのグランツール区間勝利を、アンダルシアの岩山で、力強く掴み取った。
「素敵な気分だよ。人生における最も大切な勝利だ。だって初めてのブエルタ区間勝利で、マイヨ・ロホまで手に入れられたんだから……。うん、おかげで、明日からは新しい目標ができた。つまりできる限り長くリーダージャージを守り続けること」(チャベス、公式記者会見より)
区間1位のボーナスタイム10秒を手に入れたおかげで、2位デュムランに対する総合リードは5秒(区間タイム差は1秒)、3位ロッシュとの差は15秒。第3ステージはステージ中盤とはいえ、新城選手に言わせると「トゥルマレ並み」の1級峠が立ちはだかっているから、大いに警戒していきたいところ。
キンタナは26秒後に、ホアキン・ロドリゲスと並んでフィニッシュ(総合では36秒遅れ)。フルームはこの2人から4秒、バルベルデは5秒を、わずかながらも落とした。またニーバリを失ったアスタナのアルは11秒、ランダは15秒遅れ。ティージェイ・ヴァンガーデレンは、キンタナ&プリトから19秒の遅れを喫している。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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