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ハンドルを投げ、そして右手を力強く天に突き上げた。2015年ツール・ド・フランスでは、幾度となく、こんな瞬間を夢見てきた。区間2位になら、5回も入った。そしてついに、2013年ツール・ド・フランス第7ステージ以来となるグランツール区間勝利を、ペーター・サガンがつかみ取った。前夜の覇者エステバン・チャベスがマイヨ・ロホを危なげなく守りきり、サガンが大好きな緑色のジャージも、同ポイントながらコロンビアのヒルクライマーが2日連続で身にまとった。
アンダルシアの大地には、いつものように、強烈な日差しが降り注いでいた。ただ風が強かった。前ステージの巨大な集団落車と、ヴィンチェンツォ・ニーバリの除外処分のせいで、プロトンは193人に小さくなった。さらにステージ中には、包帯だらけで走り出したパオロ・ティラロンゴが脚を止めた。ファビアン・カンチェラーラも胃痛を訴え、第4ステージ朝に大会を離れたツールに続いて、わずか3日目で自転車を降りた。
元気のある者たちは、スタート直後から飛び出していった。エスケープ巧者シルヴァン・シャヴァネルが逃げのきっかけを作り、借り物の山岳ジャージを羽織るウォルターフェルナンド・ペドラサは2日連続の大逃げに挑戦した。最終的には8人の逃げ集団が出来上がり、長らく先頭でジャージをアピールし続けた。
途中には2つの峠が立ちはだかっていた。「今日はティンコフ・サクソが仕掛けてきますよ」と新城幸也がスタート地で予言したように、蛍光イエローのジャージが、タイム差制御に乗り出した。逃げ集団には3分ほどの猶予しか与えなかった。「サガンならきっと、軽くこなせるでしょうね」(新城)という今大会初の1級峠では、ティンコフ・サクソが厳しいテンポを刻んだ。
しかし、1級峠でオマール・フライレが山岳ジャージにつながるポイントを手に入れると、再びシャヴァネルがエンジンをふかした。細かい砂がアスファルトを覆いつくしているせいで、ひどく滑りやすくなっていた下り坂を、猛スピードで攻め立てた。またラスト30kmの平坦な海岸道路に突入すると、アレクシー・グジャールとマーティン・チャリンギが最後の抵抗を試みた。
「僕らチームは、エスケープを吸収するために、1日中牽引を続けた。協力してくれたのはオリカ・グリーンエッジくらいのもの。他のチームは何もしてくれなかったね。上りもきつかったけれど、最終盤は向かい風がひどくて、ゴール前20kmではものすごくエネルギーを消耗した」(サガン、公式記者会見より)
ンの後方で起こったため、何が起こったのかは分からなかったとのこと)、かなりの痛手だった。ちなみに同時に、サガンのライバル、ナセル・ブアニも地面に転がり落ちている。フレンチスプリンターにとっては、2日連続の落車だった。ただ、幸いなことに、ティンコフ列車は、仕事を完遂することができた。ゴールまで14kmを残して、ついに逃げを全員回収した。
「今日はブアニや(ジョン・)デゲンコルブにも勝機がある日だったのに、彼らはラスト3kmに突入するまで、まるで仕事をしなかったんだ」(サガン、公式記者会見より)
だからサガンは——すでにチームメートを全て使い果たしてしまったスプリンターは——、2人の発射台に引かれてフィニッシュラインへと突き進むデゲンコルブの後輪に入り込むことに決めた。自らの背中には、ブアニが張り付いた。
7月のツール・ド・フランスに、少々苦い思い出を抱く3人の対決だった。フレンチスプリンターは、落車を繰り返し、第5ステージで途中リタイアを余儀なくされた。最高順位は区間6位だった。病欠のマルセル・キッテルに代わってスプリントの全責任を課されたデゲンコルブは、ステージを重ねるごとに、どんどん気難しくなっていった。区間2位が2回、4位が3回だった。そしてサガンは、スプリントしたり、4日連続で大逃げに乗ったりと、あらゆる手をつくした。しかし1位には、どうしても手が届かなかった。
「うんざりするほど2位を繰り返してきたけれど、でも、いつも2位で終えることなんて不可能なんだ。そして今日、僕は、1番でフィニッシュした」(サガン、公式記者会見より)
デゲンコルブが右にスプリントを切った瞬間に、サガンは左に道を選んだ。マラガの大通りのど真ん中で、夢中でもがいた。ブアニも驚異的な伸びを見せ、やはりハンドルを投げたが……、勝利の女神はサガンに微笑んだ。ステージ一番の働き者に、正当なる報いが与えられた。ブアニは2位で、デゲンコルブは3位で肩を落とした。また総合有力候補たちは、揃って先頭集団で平和に1日を終えた。
「本当にうれしいよ。特にチームのみんながあれだけ働いてくれた後だから、ものすごくハッピーだ」(サガン、公式記者会見より)
フランスでは4年連続で緑色のジャージを持ち帰ったサガンだが、スペインでも緑色に染まるつもりはあるのだろうが?
「え?分からないや。うーん、ポイント配分システムってツールと同じなの?違う?うーん……、分からないや。このブエルタは、単に、世界選手権の調整のためにやってきたんだ。距離を乗り込んで、調子を上げていくためにね。明日はフラットステージなの?僕向けのフィニッシュ地形?ふーん、そうなんだ。……全然コースのことは把握してないんだけど、明日のことは明日の朝考えるよ」(サガン、公式記者会見より)
相変わらずとぼけた様子のサガンであったが、とりあえず、第4ステージはゴール前4kmに小さなのぼりが待ち構えている。さらにはラスト500mは上り基調。14%ゾーンも潜んでいるという、短いけれど、かなりの激坂だ!
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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