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エスケープは3度、企てられた。3度共に、ジャイアント・アルペシンが、責任を持って逃げを潰した。トム・デュムランのマイヨ・ロホを守るために。なにより、プロトンに唯一残る「強豪」スプリンターのジョン・デゲンコルブに、今大会初めての栄光をもたらすために。しかし、ドイツ人スプリンターには、あとひと押しが足りなかった。60人ほどの集団スプリントを制したのは、クリスティアン・ズバラーリだった。幸いにもオランダ人総合リーダーは、赤いジャージで休養日を過ごす権利を手に入れた。総合トップ10に変動はなかった。
アタックでにぎわった1日だった。大きな波は3つ押し寄せた。まずはスタート直後に待ち構えた3級峠へ向かって、なんと、40人もの大人数が逃げ出した。今大会参加の全22チームが、最低でも1人ずつ、前方へと選手を送り込んだ。ただし、総合でわずか3分13秒遅れのセルジオルイス・エナオモントーヤが潜り込んでいたせいか、メイン集団は決して大きなリードを許そうとはしなかった。規模が大きすぎたのもまた、統率を欠く結果となった。いつしかエスケープは分裂し、後方から少しずつ脱落していき……、ゴール前56kmで完全に逃げは回収された。
第2波は、ゴール前50kmにやってきた。エティクス・クイックステップやティンコフ・サクソが仕掛け、そこからオランダチャンピオンのニキ・テルプストラが単独で飛び出した。普段は「最終発射台」を務めるミカエル・ドラージュ(アルノー・クーテル)やジョフレ・スープ(ナセル・ブアニ)も、リーダーのいないスペインの大地で、自らのチャンスに打って出た。しかし、抜け駆けは、決して許されなかった。最後まで粘った2014年パリ〜ルーベ覇者も、2015年版「北の地獄」王者のデゲンコルブが睨みをきかせるプロトンに、ラスト35kmで静かに飲み込まれた。
ゴール前17kmにそびえ立つ2級峠だけが、スプリンターにとっては鬼門だった。モヴィスターやアスタナは速いリズムを刻み、アタッカーたちは3度目の揺さぶりをかけた。アレッサンドロ・デマルキが飛び出した。3月に足首を痛め、7月にようやくレース復帰を果たしたばかりの2014年ツールスーパー敢闘賞は、好感触を確かめるように先を急いだ。ロメン・シカールが後に続いた。ケニー・エリッソンドも2人に合流した。
3人は、このブエルタに、幸せな記憶を抱いていた。生まれて初めてのグランツール区間勝利を、デマルキは、ここスペインでの大逃げで手にいれた。シカールは、昨ブエルタを総合13位と納得の成績で締めくくった。小さなヒルクライマー、エリッソンドは、2年前の晩夏に、「自転車界最難関」との呼び声高いアングリルを逃げ切りで制した。一方で、背後から追いかけてきたジャンルーカ・ブランビッラにとっては、もしかしたら、ブエルタは少し苦い思い出かもしれない。2014年大会の第16ステージ、エスケープ中に、共に逃げていたイヴァン・ロヴニーと殴り合いの喧嘩をして、大会を追放処分になってしまったのだから!
残念ながら、この日のスペインは、エスケープの努力に報いてはくれなかった。また1度目の逃げにカルロス・ベロナを(敢闘賞受賞)、2度目の逃げにはテルプストラを送り込み、なんとか勝機を引き寄せようと画策したエティクス・クイックステップの意欲も、まるで実を結ばなかった。
上りでは赤ジャージ姿のデュムラン自らが牽引作業を行い、下りではルカ・メツゲッツとクーン・デコルトが、スプリントリーダーのために距離を縮めにかかった。ジャイアント隊列の手によって、ラスト4.5km、あらゆる逃げに終止符が打たれた。その後の小さな謀反も、マイヨ・ロホが睨みを効かせたおかげで、ことごとく鎮められた。休養日前日のフィニッシュは、ジャイアントの望み通りに、集団スプリントへと雪崩れ込んだ。
ゴールラインで勝利の雄叫びを上げたのは、しかし、デゲンコルブではなかった。混乱の中で、クリスティアン・ズバラーリが勝利をさらい取った。後方で出遅れたドイツ人は、ライバルたちの間をすり抜け、驚異的な伸びを見せるも……、わずかに足りなかった。
「デゲンコルブよりも先に仕掛けようと思ったんだ。だって、普通に争ったら、彼が間違いなく最速だから。こんな風にトライしたのは、今回が初めてじゃなかった。でも、今日は『今日勝つか、さもなければ、この先も絶対に勝てないぞ』と自分に言い聞かせて、力いっぱい飛び出した。ついに、ついに成功したね」(ズバラーリ、公式記者会見より)
プロ3年目のズバラーリにとっては、2013年ツール・ド・コリアの区間1勝に続く、キャリア2勝目。所属チームのMTNクベカにとっては、2015年ツール・ド・フランス第14ステージでスティーブ・カミングスがつかんだ大金星に続く、チーム史上2つ目のグランツール区間勝利となった。
「僕にとって大きな勝利だ。チームにとっても、そしてアフリカ全体にとっても、素晴らしい成功だよ」(ズバラーリ、公式記者会見より)
1990年生まれの区間勝者に続いて、トム・デュムラン(マイヨ・ロホ&複合賞)、エステバン・チャベス(ポイント賞)、オマール・フライレ(山岳賞)と、やはり1990年生まれの3人がジャージ表彰式に臨んだ。敢闘賞のベロナは1992年生まれだし、後半に区間を賑わせたエリッソンドは1991年生まれ。また総合5位につけるファビオ・アルや7位ナイロ・キンタナもやはり1990年生まれ。さらにはここまで終了した全10ステージのうち、計7ステージを1990年以降に生まれた若手が勝利……と、フレッシュな風がブエルタの前半戦に吹きつけた。一方では第3ステージ勝者ペーター・サガン(1990年生まれ)、第5ステージ覇者カレブ・ユワン(1994年生まれ)、第8ステージ勝者ジャスパー・ストゥイヴェン(1992年生まれ)の3人が、すでに戦いを去っている。
果たしてブエルタの後半戦も、1990年代生まれたちは快進撃を続けるのか。それとも30を越えた大物たち——フルーム30歳、バルベルデ35歳、ロドリゲス36歳——が、豊かな経験を利用して戦いをリードするのか。短い休息を終えると、「プリト」のお膝元アンドラの山地で、戦いの第2章が幕を開ける。138kmという極めて短いコースに、6つの難峠が牙を向く。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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