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5月のイタリアを大いにかき回したアスタナが、スペインでも最前線で猛威をふるった。ジロ総合3位のミケル・ランダが「近年のグランツール最難関」との呼び声高いステージを勝ち取り、ジロ総合2位のファビオ・アルが、鮮やかに総合首位に踊りでた。一方で7月のフランスを彩った者たちは、大会1度目の休養日の翌日、それぞれに失望を味わった。マイヨ・ジョーヌのクリス・フルームは、スタート直後の落車の影響で、タイムを大幅に失った。シャンゼリゼの表彰台で両脇に立ったモヴィスターの2人も、最終峠で大いに苦しんだ。
怪物ようなステージだった。138kmという短距離に、難関峠が6つ、ぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。しかも獲得標高は約5000mにも達した!アンドラに住むホアキン・ロドリゲスが、開催委員会の依頼によって、この日のコースを特別に描き上げたという。大好きなトレーニングルートで、しかし、「プリト」は真価を十分に発揮できなかった。フルームは「自分がこれまで走ってきたグランツールのステージの中で、きっと、最も難しいものになるだろう」と、休養日に語っていた。予言は、ある意味、的中した。
スタートからほんの2.5kmほど走った地点だった。ツール覇者が地面に転がり落ちた。激しい飛び出し合戦の最中だったから、プロトンは決して脱落者を待ってなどくれなかった。アシストたちが懸命にリーダーを引き上げた。1つ目の山(1級)は、上りも下りも、必死の追走を続けた。2つ目の山の中腹まできて、ようやく、フルームはメイン集団へと復帰を果たした。
19人の逃げ集団も、やはり2つ目の山の上りで出来上がった。エスケープに滑り込んだ目的は各々違った。たとえばロメン・シカールは区間勝利を狙いつつ、総合順位を上げるために。たとえば青玉ジャージをまとうオマール・フライレは、6つの峠を利用して山岳ポイントを大量収集するために。ちなみに、シカールは最終盤まで奮闘を続けたおかげで、総合順位を18位から12位へとジャンプアップさせた。またフライレは先頭通過2峠+2位通過2峠を成功させ、山岳ポイントを計37ptかき集めた。堂々と山岳賞首位を守りきり、2位以下に30pt差をつけたから、少なくともあと3日間(第14ステージのゴール地まで)はジャージを満喫できることになった。
またモヴィスターの2人やカチューシャ、スカイ、ティンコフ・サクソ、AG2R等の総合上位のリーダーを抱えるチームは、「何かあった時のために」、選手を前方へと送り込んでいた。(ステージ開始時点で)総合5位のアルを有するアスタナからも、ランダが飛び出していた。ただし序盤10日間でタイムを26分以上も失い、総合争いの望みをすでに失っていたスペイン人ヒルクライマーは、チームメートのためではなく、自らのために走っていた。
「今日は自由に行こう、飛び出そう、と決めていた。僕にはこんな勝利が必要だったし、今日は自分にチャンスがあると分かっていた」(ランダ、ゴール後TVインタビューより)
「今朝のミーティングで、ランダは勝ちに行きたいと話していた。後方では出来る限り、厳しいレースを展開するつもりだった」(アル、公式記者会見より)
前でも、後ろでも、アスタナは威力を発揮した。3つ目の上りに入ると、後方のメイン集団では、一旦はスカイが制御権をつかみとる。体を痛めたフルームのために、速すぎもせず、遅すぎもしない、適度なリズムを刻み続けた。ランダにとっては、幸いだった。おかげで逃げ集団は、5分半ものリードを許されることになったから。一方でのこぎりの歯のように連なる峠群も、4つ目の上りに差し掛かると、いよいよアスタナがプロトンの主導権を奪い去った。ブエルタに乗り込んできた9人中、2人がすでに大会を去り——ヴィンチェンツォ・ニーバリは失格で、パオロ・ティラロンゴは負傷リタイア——、エスケープにも1人送り込んでいたというのに……、4人で猛烈な列車を走らせた!
水色の猛攻に、傷ついたフルームは、すぐに耐えられなくなった。前線からずるずると後退していった。休養日前日の段階で総合8位・1分18秒につけていたフルームだけでなく、総合4位・1分07秒差のニコラス・ロッシュさえも、高速テンポについていけなくなった。
ライバルたちは、もちろん、黙ってアスタナの好きなようにやらせていたわけではない。前方では、シカールやネルソン・オリヴェイラが、何度も先制攻撃を仕掛けた。後方ではロドリゲス&バルベルデが、超級下りでアタックに転じた。それぞれのリーダーのために、アルベルト・ロサダとイマノル・エルビーティが逃げ集団から降りてきたし、プリトの右腕ダニエル・モレノも追い付いてきた。スペイン人リーダーを支える2つのチームが協力しあって、先を急いだ。一時はアスタナ隊列を完全に振り払った。
しかしゴール前8.5km、6つ目の、そしてこの日最後の峠に差し掛かると同時に、ランダは勝利へのアタックを決めた。ジロ・デ・イタリアで山頂フィニッシュを2つ制したバスク人が、祖国のグランツールで初めての区間勝利へと突き進んだ。
「ゴール前5kmまできたところで、勝てるぞ、と思った。でもラスト3kmがひどく辛かった。今までのキャリアで最も難しい3kmだった」(ランダ、ゴール後TVインタビューより)
アルもまた、ベテランのスペイン人コンビに、抑えこまれたりはしなかった。アシストたちの懸命の努力の甲斐あり、ロドリゲスとバルベルデに追い付くと、逆にラスト8km、自ら攻めに転じた。
「他の選手たちが、ちょっと、互いに様子を見合っていたように感じた。だけど、僕は、思い切り自分の走りをしたかった。全てを尽くしたかった。だからアタックを打ったんだ」(アル、公式記者会見より)
今年のジロで、アルベルト・コンタドールと渡り合ったアルは、まずは大会前半の立役者、マイヨ・ロホ姿のトム・デュムランとポイント賞ジャージのエステバン・チャベスを振り払った。2度目の加速では、モヴィスターの2人、バルベルデとナイロ・キンタナを切り捨てた。そして、一緒にくっついてきたプリト&モレノさえも、残り6kmで突き放した。完全に1人になると、マイヨ・ロホ目掛けてスピードを上げ続けた。
アンドラの山のてっぺんで、アスタナが二重の喜びを噛み締めた。ランダは区間勝利をつかみ取った。チャベス、デュムランに続いて、同じく1990年生まれのアルがマイヨ・ロホを引き継いだ。この春のジロでは、コンタドールの落車というハプニングのおかげで、25歳の若者は、1日だけマリア・ローザを身にまとっている。今回は、自らの優れた登坂能力で、最も美しいジャージを手に入れた。
「僕が今大会の『ボス』になったかって?いやいや、まだ10日間も戦いは残っている。それに今大会には、本当に強い選手たちが揃っているからね。僕は1日1日を戦っていくだけだよ」(アル、公式記者会見より)
地元アンドラで区間勝利とマイヨ・ロホこそ逃したロドリゲスは、アルから37秒遅れで1日を終えた。総合では27秒差で追いかける。またラファル・マイカが、1分28秒差で総合4位に食い込んでいる。なにより序盤10日間を盛り上げたデュムランとチャベスが、この日も最後までしっかりとしがみついた。いや、むしろ追走のイニシアチヴを取り続けるほどの驚異的な意欲と脚力を証明して……、総合ではそれぞれ3位・30秒差と5位・1分29秒差に堂々居座っている。
一方で「強い選手」の代表格であるはずのツール表彰台3人は、苦しい状況へと追い込まれた。フルームは総合で7分30秒遅れの15位に沈み、ツール→ブエルタの変則ダブルツール制覇はほぼ絶望的になった。休養日に高熱が出たというキンタナも、この日の最終峠で大きく崩れ、総合では3分07秒遅れに後退した。バルベルデはいまだ総合6位・1分52秒差につけているが、「ツールの代償を払うことになってしまった」(チーム公式HPより)と、どうやらいよいよ連戦続きの疲労を感じ始めているようだ。
「グランツールでこんなに難しいステージは戦ったことがない」と、多くの選手が改めて口を揃えた。138kmの短いステージを、首位選手は4時間34分54秒(時速30.120km)、最下位175位の選手は5時間10分01秒かけて走りきった。4人がステージ中に大会を去った。中でもセルジオ・パウリーニョがTV撮影オートバイとの接触で脚を負傷し、レース続行を断念せざるを得なかった。所属チームのティンコフ・サクソは、すでにペーター・サガンがニュートラルサービスのオートバイに跳ねられて、負傷リタイアしている。この日チームは、公開書簡にて、開催委員会ユニパブリックと国際自転車競技連合UCIに対して謝罪と状況改善を求めたばかりだった。パウリーニョの事故直後には、チームオーナーのオレグ・ティンコフ氏がSNSで「大会ボイコットさえ考えている」と発言している。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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