人気ランキング

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

メルマガ

お好きなジャンルのコラムや
ニュース、番組情報をお届け!

メルマガ一覧へ

コラム&ブログ一覧

サイクル ロードレース コラム 2015年9月7日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2015】第15ステージレースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
  • Line

ついにヒルクライマーたちが、違いを見せ付けた。激勾配が大好物のホアキン・ロドリゲスは、まさしく力技でライバルたちをねじ伏せた。2014年ツール山岳賞のラファル・マイカは、賢い走りで総合3位へと前進した。マイヨ・ロホをぎりぎり1秒差で守ったファビオ・アルと、総合首位とのタイム差を1秒たりとも縮められなかったナイロ・キンタナにとっては、成功半分、失敗半分だったかもしれない。それでも、徐々に大きくなりつつある「目の上のたんこぶ」的存在だったトム・デュムランを、突き放すことはできた。もちろん、まだまだ、山男たちが安心できる状況では決してないのだけれど。

海の青と、丘陵の緑のコントラストが美しいアストゥリアスの大地で、逃げ出したのは9人。いつも通りにスタートから始まった高速アタック合戦を勝ち抜いて、37km地点で、ついにエスケープへの扉が開かれた。

ただし、マイヨ・ロホ擁するアスタナがほぼ終日メイン集団の最前列に居座り、逃げ切りを許容したこの2日間とは、なにやら状況は違った。水色列車の代わりに、濃紺のモヴィスター隊列がプロトン制御に乗り出した。逃げ集団内には、総合争いを脅かす選手など1人も存在しなかったというのに(総合最高は33分30秒差のアイマル・スベルディア)、最大で5分のリードしか与えなかった。

「チーム全体に感謝したい。僕を支え、僕のチャンスを信じてくれた。区間勝利を追い求めるために、そして総合タイムをほんの少し稼ぐために、彼らは出来る限りの仕事をしてくれた」(キンタナ、チーム公式HPより)

力を合わせて、区間勝利を夢見て、モヴィスターは追走に精を出した。全長12.7kmの最終峠の入り口では、9人のエスケープ衆は、すでに1分10秒程度の余裕しか持ち合わせていなかった。7月のフランスで山頂フィニッシュを手にしたブレル・カドリが、栄光の再現を夢見て加速を切った。初めてのグランツールを戦うブラヤン・ラミレスも、自らの山の脚を試しにいった。この夏のツールを総合10位で終えたピエール・ローランはあっさりと後退していった一方で、スベルディアだけは、最後まで粘り続けた。

38歳の大ベテランは、グランツールの総合10位以内なら、すでに6度も度経験している(ツール・ド・フランス5位が2度)。ところが、プロ生活も18年目となり、ジロ・ツール・ブエルタ合わせて25回も戦ってきたけれど、いまだに区間勝利だけが手に入らずにいた。この日も望みは打ち砕かれた。ゴールまであと2kmだった。

「あと2分余計にリードをもらえていたら、やり遂げられたはずなのに。捕らえられるまで、僕は全力で走った。しばらくタイム差は1分前後で続き、それ以下には詰まらなかった。それから突然、急速に差は縮んでいった」(スベルディア、チーム公式HPより)

タイム差があっという間に縮んだ理由は、デュムランの脱落だった。きっかけを作ったのは、モヴィスターだ。ラスト10kmで、まずキンタナが早めのアタックを仕掛けた。体調不良から復活し、前日にアルから7秒掠め取った張本人の不穏な動きに、当然アスタナが素早く対応に回った。アシスト1人は後輪にさっと張り付き、また別のアシストは集団牽引に回った。コロンビア山岳巧者の企ては、あっさりと潰された。

残り7.5kmに、もう一度だけ、モヴィスターは加速を仕掛ける。今度はジョヴァンニ・ヴィスコンティが、がむしゃらな全力牽引に打って出た。しかし、しばらく先で、やはりアスタナに主導権を奪われてしまう。

「僕にとっては、これほど早く体調を回復できたということだけで、もう大きなご褒美なんだ。ステージ勝利のために努力はしたけど、僕よりもっと強い選手がいた。それに、少なくとも、デュムランからタイムを少し奪えたじゃないか」(キンタナ、ゴール後TVインタビューより)

そう、モヴィスターの畳み掛けるような加速が、二次的効果を引き起こした。ここまでの2週間、どんな山だろうが、最終盤までメイン集団前線にどっしりと居座ってきたデュムランが、最後尾で苦しみはじめたのだ!

そのことに気がついたアスタナ勢は、猛烈に前進を始めた。アシスト4枚を一気に使い切る勢いで、邪魔者を千切りかかった。ティンコフ・サクソも、総合5位につけていたラファル・マイカのために、ためらわず速度を上げた。なにしろ第17ステージ、全長39kmの平坦タイムトライアルの前に、現役屈指の独走スペシャリストから出来る限りのタイムを奪っておかねばならなかったから……。

ラスト2.5km、ついにデュムランは、マイヨ・ロホ集団から脱落した。アシストも、協力してくれる選手もいない中、ピュアクライマーに比べたら重い肉体を、たった1人で山頂へと引き上げるしかなかった。最終的には区間勝者から51秒遅れ、総合首位アルからは36秒遅れで苦しい1日を終えた。

最前線では、小型葉巻が、大きなアタックを決めた。さんざん攻め続け、働き続けたモヴィスター、アスタナ、ティンコフをあざ笑うかのように、勾配のひときわ厳しいゾーンで、すべてのライバルを突き放した。後方ではアルだけが必死に努力し、プリトは鬼気迫るほど力強くペダルを回し続けた。幾度も、幾度も、加速を畳み掛けた。山の上では、36歳大ベテランが待ち望んだ、歓喜の時が訪れた。

「信じられないよ。とてつもなく厳しい上りだった。でも、素晴らしい勝利でもあった。今ブエルタはここまで、ずっと、この区間勝利を追い求めてきた。そして今日ついに手に入れた。しかも僕らは、総合争いまでしている。今現在のところ、僕にとって、状況はパーフェクトだ」(ロドリゲス、チーム公式HPより)

ロドリゲスは自身9つ目のブエルタ区間勝利を手に入れた。2位以下に12秒以上のタイム差をつけ、もちろんボーナスタイム10秒も獲得した。しかも区間2位にマイカが飛び込み、さらには信頼できる右腕ダニエル・モレノが「ボーナスタイム潰し」のために3位に滑り込んでくれた。おかげで15秒遅れの5位でゴールしたアルを……、総合では1秒差にまで追い詰めた!

「総合リーダーの座には1秒足りなかったけれど、そんなことは重要じゃない。最後には、最強の選手がブエルタで勝つんだから。僕が今現在調子の良さを感じていることのほうが、マイヨ・ロホよりも大切だ」(ロドリゲス、チーム公式HPより)

それに、マイヨ・ロホなら、すでに3大会、通算16日間着たことがある。ちなみに2010年大会はタイムトライアル後に、ついでに言うと2012年ジロもタイムトライアル後に、大切なリーダージャージを失った。またアルも同じ失敗を味わっている。2015年ジロのタイムトライアル前日にマリア・ローザを手に入れ、リーダージャージ姿で最終走者として走り、フィニッシュラインに到着した時点ではすでに首位の座を失っているという屈辱……(2分28秒遅れの総合2位へと陥落した)。

最新の不安材料は、2015年ツール・ド・フランス初日の個人タイムトライアル13.8kmで、4位デュムランからロドリゲスは1分18秒も遅れたこと。対するブエルタの現状は総合3位にマイカが浮上し(1分24秒差)、4位には1分25秒差で相変わらずデュムランが控えている。

つまりタイムトライアルの前、ではなく、タイムトライアルの後、にジャージを着ていることが一番大切だ。だからなおのこと、ヒルクライマーたちは、デュムランを大きく追い落とすために、再び第16ステージで総攻撃をかけねばならない。7つの峠が控える、相変わらずクレイジーな山岳ステージが、タイムトライアル前最後のチャンスとなる。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

  • Line

あわせて読みたい

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

ジャンル一覧

J SPORTSで
サイクル ロードレースを応援しよう!

サイクル ロードレースの放送・配信ページへ