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1つ目のステージ優勝は、驚きだった。得意ではないと思われていたはずの激坂フィニッシュで、クリス・フルームを追い抜いて栄光をもぎ取った。2つ目のステージ優勝は、至って当然の産物だった。1年前の世界選手権個人タイムトライアルで銅メダルを手にしたスペシャリストは、区間のライバルも、総合のライバルも、まとめて蹴散らした。誇らしげに、トム・デュムランが気品ある真紅の上着を身にまとった。ただし、総合2位ファビオ・アルに対するリードは、わずか3秒しかない。
ど平坦のタイムトライアル……という前評判は、どうやら間違いだった。39kmのコース前半には、緩やかながら上りや下りが織り交ぜられていた。最終盤にはかなりの急坂と、ヘアピンカーブを含む下りが待ち受けていた。風も強く、メインの選手のスタート時には、小さな雨粒も空から落ちてきた。幸いにも、ほんの数滴がアスファルトを濡らしただけで、レースには微塵の影響もなかった。
2度目の休養日が終わり、マドリードのフィニッシュラインまで残り5日。198人で走り出したブエルタ一行も、167人にまで人数を減らしていた。18番スタートを切ったマチェイ・ボドナールが47分05秒という好タイムを記録すると、そこから約2時間51分もの間、暫定首位の座を守り続けることになる。総合本命の一角に上げられていたヴァシル・キリエンカも、今ブエルタで区間勝利を上げ好調なスペシャリストのネルソン・オリヴェイラも、ポーランドのTT巧者にはほんのわずかに及ばなかった。
しかし、大本命は、最後から4番目にやってきた。デュムランが2つの中間計測地点で、あっさりと通過タイムを塗り替えた。ゆるやかな上りの頂点に位置した13.5km地点では、2位以下に9秒のリードをつけた。2分前にスタートしたはずのミケル・ニエベを、まるで疾風のように追い抜いた。横風から追い風へと変わる平地パートの直後の、27.5km地点では、リードは38秒に広がっていた。ラスト7kmから始まる急坂も、軽いダンシングでリズミカルにこなした。そしてゴールラインでは、2位のボドナールに、1分04秒ものリードをつけていた。ゴールタイム46分01秒で、あらゆる出走選手たちの、頂点に立った。
「コースは下見を2回行ったし、2回目の下見時には、監督に、僕がレース時に必要となるであろうあらゆる情報をメモするようお願いした。すごく集中していたし、脚の調子はすごくよかった。ただ、タイムトライアルの前は、普段でも、あまり多くのことを考えすぎないようにしている。だから今回も、勝利のことも、タイムのことも、考えなかった。単純に自分のベストパフォーマンスを出そうと思って、走り出しただけ」(デュムラン、公式記者会見より)
デュムランの好走が予想通りだったのだとしたら、本日の最終走者ホアキン・ロドリゲスの失速もまた、残念ながら予想通りだった。激坂は大好きだけれど、タイムトライアルが大の苦手の「プリト」は、第1中間で1分11秒、第2中間ではすでに2分38秒の遅れを喫していた。最終的には3分06秒遅れで短い勝負ステージを終えた。……つまり総合で1分51秒の虎の子を守るどころか、1分15秒遅れの総合3位へと突き落とされた。2010年ブエルタ第17ステージ(最終総合順位3位)2011年バスク一周第6ステージ(11位)、2012年バスク一周第6ステージ(2位)、2012年ジロ第21ステージ(2位)等々の忌まわしい失敗のスパイラルから、またしても抜け出すことはできなかった。
「もちろん、僕にとっては、完璧なレースとはならなかった。自分ではいいタイムがだせると思っていたけど、最終的には総合で2つ順位を落とした。でも、いまだに表彰台圏内だし、1位からもそれほど遠くはない。まだ3日間残っている。失うものなど何もない。戦い続けるだけ。あらゆる力を尽くすだけ。そしてブエルタを勝ちに行くだけ。ここで終わりじゃないんだ!」(ロドリゲス、チーム公式HPより)
また総合表彰台争いに踏みとどまっていたラファル・マイカが2分38秒、ニエベが3分29秒、エステバン・チャベスが2分43秒を、区間首位のデュムランから失った。揃って総合順位も後退し、マイカ3→4位(総合タイム差2分22秒)、ニエベ5→9位(4分10秒)、チャベス6→7位(3分30秒差)と移行した。一方でモヴィスターコンビは悪くないタイムで走りきった。ナイロ・キンタナは1分33秒遅れ、アレハンドロ・バルベルデは1分08秒遅れで駆け抜け、それぞれ8→5位、9→6位へと総合順位も浮上した。
ほんの1秒差の総合2位でTTコースに走り出したファビオ・アルは、3秒差のやはり総合2位で1日を締めくくった。
前日までのデュムランに対するリードは、1分50秒だった。スタート前、アスタナ監督のジュゼッペ・マルティネッリは、まじめな顔で断言していた。「アルが失ってもいいタイム?もちろん1分50秒。確かに、この数字は願望に過ぎない。だけど……、これ以上の数字を想定しては絶対にだめなんだ。最初から負けを考えたらダメ」と。だから、目標値に向かって、アスタナのパフォーマンストレーナーのパオロ・スロンゴが、出すべきワット数やケイデンス数をはじき出した。そして、ヒルクライマーのアルは、計画通りの走りを実現させた。
第1中間地点では44秒遅れだった。第2地点では遅れは1分44秒にまで広がった。しかし、「急坂」という得意の地形を存分に利用して、フィニッシュ地点では被害を1分53秒に食い止めてみせた。願望的目標値には3秒及ばなかったけれど、現実的に見れば、思わずニンマリするほどの好タイムだ!
「まだ戦いは3ステージ残っているし、たくさんのチームが勝負に打ってくるだろう。このブエルタは……、いや、まだまだ、終わりじゃない。まだまだだ」(アル、チーム公式HPより)」
2015年ブエルタも残る勝負ステージは3日。マイヨ・ロホにみたび返り咲いたデュムランは、アルとの3秒差をどう死守していくのか。あのフエンテ・デ(アルベルト・コンタドールが大逆転劇を成功させた)の犠牲者ロドリゲスは、今回は自らが1分15秒をひっくり返す大アタックに打って出るか。首位から2分22秒遅れ、総合3位から1分07秒遅れの総合4位マイカは、生まれて初めてのグランツール表彰台に手が届くだろうか。モヴィスターコンビは、ビッグライダーとしてのプライドにかけて、最後の攻撃に転じるのか……。
「確かに、アルとの3秒差は、ほんのわずかの差でしかない。マドリードまで激しい戦いが繰り広げられるだろうことは分かっている。観客にとっては見ごたえある戦いになると思うけれど、僕にとってはひどく難しい1日となるだろうね」(デュムラン、公式記者会見より)
上記の総合勢たちがとてつもない攻撃的レースを繰り広げない限り、翌日からの2日間は、ずばりエスケープが逃げ切るステージ。そして我らが新城幸也が、「狙っていく」と断言する2日間である。
「今日はお休み……ではなく、心拍数をある程度上げ、体全体に血液を巡らせるために、しっかりと走りました。チームの中でもかなりの好タイムが出たはずです(チーム3位のタイム)。明日、あさってに向けて、調子は万全です!」(新城幸也、ゴール後インタビューより)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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