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【パリ〜ニース/プレビュー】本格的なサイクルロードレースが開幕!マイヨ・ジョーヌに向け、コンタドールらが参戦する!
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか自転車界に本物の春がやってくる。すでに地球のあちらこちらで脚試しを繰り返していたプロトンが、いよいよ本格的なサイクルロードレースシーズンへと走り出す。いまだ灰色の雲が垂れ込めるヨーロッパの大地に、色とりどりのジャージがぱあっと散らばって行って……。もちろん欧州ワールドツアーレース第1戦目パリ〜ニースがたどり着く先には、南フランスの太陽が待っている!J SPORTSではパリ〜ニースを生中継する。
今年で創設83年目を迎え、伝統的に「ミニツール」と呼ばれるパリ〜ニースは、かつて数多くの「7月の王者」を輩出してきた。たとえばアルベルト・コンタドールは、2007年大会を勇敢なアタックで勝ち取ると、そこからまっすぐにグランツール王者への山道をかけあがった。2012年のブラドレー・ウィギンスはニースで黄色い衣装を身にまとい、数ヵ月後にはパリのシャンゼリゼでマイヨ・ジョーヌを身にまとった。
ところが昨大会は、少々様相が違った。8日間のレースのうち、難関山岳はわずか1日だけ。クラシック風の起伏ばかりが連日続き、むしろワンデー巧者たちが輝いた。ミラノ〜サンレモ(表彰台3人全員がパリ〜ニース出走組)やアルデンヌ(3レース表彰台の5/9がパリ〜ニース出走組)への準備には、つまり最高だった。しかし昨ツール・ド・フランスの主役「ファンタスティックフォー」は、誰1人としてフランスへやってこなかった。フルームはトレーニングを選び、その他の3人はイタリアでのバトルを選んだ。最終的にはツールではなく、2ヵ月後のジロ・デ・イタリアの総合優勝を狙うリッチー・ポートが総合をもぎ取った。
本来の威光を取り戻すため、2016年、パリ〜ニースは古き良き伝統と立ち返る。3月6日(日)に、6.1kmのプロローグで幕を開ける第74回大会を、開催委員会は「来たるべきツールの予告編」と自信を持って送り出す。
山の割合は大幅に増えた。最初の試練は第3ステージ。クリュ・ボジョレーワインで有名なブルイィの急坂フィニッシュだ(全長3km、平均勾配7.7%、最高8.3%)。「ぶどう畑を雹や霜、うどん粉病から守る」聖母がまつられた教会へと続く坂道は、細く曲がりくねり、パンチャー・クライマーの爆発力が試される。
金曜日からの3日間は、総合争いも地形も、文字通り山場となる。第5ステージはあのモン・ヴァントゥのありがたい姿を拝む。残念なのは、本格的な禿山部分に足を踏み込んだ直後に、山を降りること。しかもステージ前半に登場するため、もしかしたら、「プロヴァンスの巨人」はほとんどレースに影響を及ばさないかもしれない。もちろん、総合下克上を企てる者たちによる、早めの特攻が巻き起こる可能性だってある。昨大会の終盤にミカル・クヴィアトコウスキーが試みたような!
最終日前日の土曜日第6ステージには、今大会の女王ステージが待ち受ける。全長177kmのコース上に立ちはだかる難関山岳は7つ。全長15.3km、平均勾配5.7%(ラスト300mは11%)の山道を登り切ると、大会初登場ラ・マドーヌ・ドゥテルのてっぺんにてフィニッシュを迎える。見渡しのよい頂には、「難破船を救った」聖母がまつられた小さな教会が建てられている。ちなみにトレックの自転車「マドン」の由来の山ではないらしい。地理的には近いけれど、かつてランス・アームストロングの練習ルートだったのは、別のコル・ド・マドーヌとのこと。
フィナーレは2年ぶりに、地中海岸のプロムナード・デ・ザングレにて。鷲巣村エズへの登坂タイムトライアルの代わりに、6つの山岳ポイントを乗り越えた果てに、エズからのスリリングな高速ダウンヒルでパリ〜ニースは幕を閉じる。
……ところで、山もいいけれど、実は今大会にはもうひとつ「目玉商品」がある。それが平坦に区分される第1ステージの、最終周回×2周に登場する、石灰の道のこと。開催委員会に言わせるとトロ・ブロ・レオン風、もしくはストラーデ・ビアンケ風。つまりひどくでこぼこで、晴れ続きなら埃が舞い上がり、雨が降ればどろどろに……。しかも道の名前がシュマン・デ・モール(死者たちの道、1.3km)に、ル・テルトル・ド・ラ・グラシエール(氷河の丘、800m、文字通り上り坂)。なにやら物騒でもある。もしかしたらこの未舗装路たちが、いわゆる「ツール1週目に登場する石畳」のような役割を果たしてくれるのかもしれない。少なくとも開催委員会の狙いは、ずばりそこにある。
こんな2016年パリ〜ニースの優勝候補筆頭に上げられるのが、今年限りでの引退を口にしているコンタドールだ。かつて2007年初優勝、2009年総合2位、2010年総合優勝と、3月のフレンチレースで好成績を並べた年には、必ず7月のツールを勝ち取ってきた(2010年ツール優勝は後に剥奪)。そしてこの春、5年間の空白を経て、「エル・ピストレロ」が――昨11月のパリのテロ襲撃事件の直後に、2度とピストルポーズは取らない、と語っていたが――パリ〜ニースに帰ってくる。人生最後のマイヨ・ジョーヌ獲りに向けて、初心に戻る。
コンタドールの最大のライバルに目されるのが、ディフェンディングチャンピオンのリッチー・ポート。2010年大会はコンタのアシストとして、2012年大会はウィギンスのアシストとして、それぞれにリーダーを総合優勝に導いた。2013年・2015年は自らパリ〜ニース総合優勝をもぎ取りながらも、ツールではフルームのマイヨ・ジョーヌ獲りを助けた。そんな働き者が、今季はBMCのリーダーになった。いよいよポート自身が、ツール・ド・フランス制覇を目指す足がかりとして、南仏での3度目の栄光を目指す。ただ過去2回の総合優勝は、最終日エズへの登坂タイムトライアルで築き上げられてきた。今大会は少々状況が違う。
昨春はそのポートのために見事な山岳アシスト役を務め、夏にはグランツールライダーとしてついに覚醒したゲラント・トーマスが、今回はスカイでリーダー役を張る。ツアー・オブ・オマーンの最難関ステージで、ヴィンチェンツォ・ニーバリ相手に対等に戦い、いよいよ選手として成熟してきたロメン・バルデにとっては、19年ぶりのフランス人総合優勝も夢ではない。やはりオマーンの山で、昨ブエルタの活躍が偶然ではなかったことを証明したトム・ドゥムランも、パリ〜ニースで新たな実績を積み上げる。ピエール・ローランやアンドリュー・タランスキー、ルイ・コスタ、サイモン・イェーツ等々の実力者たちも、きっと総合争いを大きく盛り上げてくれるに違いない。
もちろん直後のサンレモ対策にやってくるスプリンターたち(アレクサンドル・クリストフ、マルセル・キッテル、アンドレ・グライペル、ナセル・ブアニ、アルノー・デマール等々)や、サンレモ〜アルデンヌと盛り立ててくれるだろうパンチャーたち(マイケル・マシューズ、フィリップ・ジルベール、ミカル・クヴィアトコウスキー等々)の仕上がり具合も、来るクラシックシーズンに向けてしっかりチェックしておくべし。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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