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2016年春の石畳大戦も、いよいよ最終章を迎える。4月10日の日曜日、パリ〜ルーベが、史上114回目の地獄巡りへとプロトンを誘う。J SPORTSではその苛酷なレースの模様を生中継する。全長257.5kmのコース上に待ち構えるのは、全部で27のパヴェ区間。通算52.8kmのでこぼこ道!
早くもシーズンは3つ目のモニュメント、5つ目のクラシックレースへと走りだす。ミラノ〜サンレモは超がつくほどの長距離戦で、ツール・デ・フランドルは石畳の激坂が過酷な戦いを作り上げる。そしてパリ〜ルーベ、別名「北の地獄」は、恐ろしく整備の行き届いていないゴツゴツの農道が、選手たちの肉体と精神とを長時間にわたって苛み続ける。
パンクやメカトラは日常茶飯事。この日ばかりは各チームもスタッフや関係者、家族さえも総動員して、いたる所でホイールを手に選手通過を待ち構える。少しでも不確定要素を減らそうと、パヴェからパヴェへ、自動車を爆走させて先回りする。足場の安定しない凹凸路の上では、落車の危険も、いたるところに潜んでる。これが「パリ〜ルーベは実力だけでは勝てない」と言われるゆえんである。幸運の女神を味方につけることができなければ、決して「クラシックの女王」を勝ち取ることは出来ない。
気象条件が大きくレースコンディションを変えてしまうのも、ルーベの大きな特徴のひとつ。近年は地球温暖化のせいか、4月の北フランスは、温かな晴天続きが多い。農地の真ん中を突っ切る石畳路の上には、当然のように、いっぱいの土砂が積み重なっており……、乾燥した砂はもうもうと煙幕のように舞い上がる。一方でかつてのパリ〜ルーベは、泥んこレースとして名を馳せてきた。現スカイ監督のクナーフェンがもぎ取った2001年大会以来、久しくドロドロの勝者はお目にかかっていない。
ただし、ルーベの石畳路の全てが、完全に乾き切ることもない。たとえば鬱蒼とした森を突っ切るトゥルエ・ダランベール(162km地点、全長2400m)は、いつも湿ったまま。またトラクターの通る農道にはあちこちに巨大な穴があいているから、一旦出来た水たまりは、なかなか消えることがない。だから乾燥した石畳を超高速で突っ走って、その勢いのまま湿ったゾーンに差し掛かると、車輪が滑ったりコントロールを失ったりという惨事につながる。
ちなみに、大会前の月曜日に行われた恒例のルート下見会によると、第27セクター=最初の石畳ゾーンが、土にたっぷりと覆われているとのこと。湿った部分と乾いた部分が混在しており、レース委員長のグヴヌー氏によれば、「今日がレース当日なら、この道は絶対に迂回する」ほど危険な状態らしい。同ルートを使用するかどうかは、大会直前に最終判定が下される。大雨が降って土が全て流れだすか、はたまた完全に乾き切ってしまえば、使用が可能になるんだとか。気になる天気予報は大会前の木曜日は雨、金曜は曇り、土曜日と日曜日は小雨……。
石畳ゾーンが、つまり26に減らされる可能性もあるけれど、とりあえず全ての石畳の難度は5段階で評価される。泥んこの第27セクターは難度3。4年ぶりに復活した小さな坂道、第22セクター(127km地点、通算1700m、序盤400mは−7%の下り、その後400mが7%の上り)のカペル・リュヌもやはり難度3。最大難度の5つ星を頂戴しているのはアランベール(トゥルエ・ダランベール、第18セクター、162km地点、全長2400m)、モン・アン・ペヴェール(第10セクター、209km、3000m)、カルフール・ド・ラルブル(第4セクター、240.5km、2100m)の3ヶ所だ。アランベールで有力選手達が一気に加速し(重要な落車も発生し)、数度の鋭角カーブや微妙な上り下りが潜むモン・アン・ペヴェールで優勝候補が絞り込まれ、ファンが詰めかけすぎて道幅が極端に狭くなったカルフール・ド・ラルブルで勝利が決まる……、というのが定形だろうか。
スタート地コンピエーニュから、伝統的フィニッシュ地のルーベ自転車競技場まで駆け抜けるレースで、石畳が登場するのは98.5km地点から。つまりスタート後2時間ほどは、プロトンはアスファルトの道を走る。テレビ中継も、例年ならば石畳に入ってから開始してきた。2016年大会は史上初めて、スタートからフィニッシュまでTV生中継が敢行される。地獄の接近と共に、プロトン内に緊張感が増していく……、そんな様子をきっと我々は目にすることだろう。
それにしても、ファビアン・カンチェッラーラvsトム・ボーネンの最終バトルを、我々は目撃することはできるのだろうか。2005年から2014年にかけての10年間で、現在35歳の2人は、実に7つのタイトルを分けあってきた。ボーネンが史上最多タイの4つ、カンチェが3つ。2008年のトムクは、自転車競技場内のスプリントでスイス人を振り払った。2010年のスパルタクスは、フィニッシュまで50km地点の、まるで「ワープ」のような加速でフランドルの星を引き離した。カンチェッラーラが今季限りの引退を宣言しているから、両者の石畳対決は、泣いても笑ってもこのルーベが最後となるはずだ。
しかし今シーズンのボーネンには、もはや往年の輝きが見られない。平坦の石畳ならまだまだ行ける、なんてチームマネージャーのパトリック・ルフェヴェルは期待を抱き続けるが、そもそも所属チームのエティックス・クイックステップ自体が今季のクラシックは空振り続き。あいかわらず前線に大量の選手を送り込み、レースを積極的に作ろうと努力はしているけれど。一方のカンチェはE3ハーレルベーク4位、ヘント〜ウェヴェルヘム4位、ツール・デ・フランドル2位と、ここまでの石畳クラシック全てで勝負にきっちり絡んでいる。ロンドでは完成させられなかった「理想的なシナリオ」を、ルーベで書き上げる準備はできている。
だからむしろ、カンチェッラーラがキャリアの最後に制さねばならないのは、26歳ペテル・サガンとの新旧世代対決のほうだ。昨秋ついにアルカンシェルに袖を通したサガンは、2週前のヘント〜ウェヴェルヘムを勝ち取り、前週のフランドルでは待望のモニュメント1勝目を手に入れたばかり。つまり現役世界チャンピオンとしてフランドルを勝った史上5人目の選手となった。もしも今年のルーベも優勝することができれば、1962年のリック・ヴァンローイ以来史上2人目の、「世界チャンピオンジャージ姿でヘントとフランドルとルーベの同一年制覇」を達成することになる!
世界チャンピオン、と言えば、元世界王者のマーク・カヴェンディッシュが人生2度目のルーベに挑戦する。元シクロクロス世界チャンピオンのズデネック・シュティバルやラルス・ボームも優勝候補として名前が上げられるし、元個人追抜世界チャンピオンのテイラー・フィニーは、ケガから復帰し、2年ぶりに大好きなルーベに帰ってくる。
もちろん昨フランドル覇者アレクサンドル・クリストフ、フランドル5位で確かな手応えを感じたというルーク・ロウ、ハーレルベーク8位⇒ヘント2位⇒フランドル3位と相変わらず勝ちきれないセップ・ヴァンマルク等々の有力スペシャリストたちからも目を離すことは出来ない。地元ベルギーの期待を背負って立つエティックス・クイックステップ軍団(ボーネン、シュティバル、ニキ・テルプストラ、スティーン・ヴァンデンベルフ、トニー・マルティン、マッテーオ・トレンティン)は、クラシックスペシャリスト精鋭軍としての誇りを取り戻すために、これまで以上に入念な作を練ってくることだろう。
地獄を真っ先に抜けだした選手には、天国への扉が開かれている。たくさんのファンが詰めかけたルーベ自転車競技場で、歓喜のウィニングランを済ませたら、勝者は本物の石畳で作られたトロフィーを天へ高らかに突き上げる。そして、これを合図に、春クラシックの舞台は石畳から丘陵地帯へと移動するのだ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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