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サイクル ロードレース コラム 2016年4月18日

【フレッシュ・ワロンヌ/プレビュー】立ちはだかる全長1.3km、平均勾配9.6%、最大26%の激坂。「ユイの壁」攻略が勝敗を決める!

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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「クラシック」と呼ばれるレースの中では最も距離が短く(196km)、週末の開催でもない(水曜日)。しかし、自転車界でも指折りの難関フィニッシュが、このレースを特別なものにしている。ミュール・ド・ユイ、つまりユイの壁。HUY、HUY、HUYと無限にペイントが施された、全長1.3km、平均勾配9.6%、最大26%のとてつもない激坂。今年もまた、見る側さえ思わず歯を食いしばってしまうような、熾烈なバトルの戦場となる。

そうは言っても、大昔はリエージュ〜バストーニュ〜リエージュとセットで「アルデンヌの週末」と呼ばれ、すなわちフレッシュは週末に行われていた。しかし1965年に「最古参」リエージュからの独立を決意。代わりにベルギーのワロニー地方で伝統的に「半ドンの日」である水曜日に、レース日程は移行された。さらに1983年にユイがフィニッシュ地に選ばれ、あのベルナール・イノーが真っ先に駆け上がると……、一気にクラシック屈指の名物となった!

ミュール・ド・ユイが毎年、とてつもなく面白い勝負を演出してくれるのは間違いない。その一方で、勝負地がぶれることも絶対にない。なにがあろうとも、フレッシュ・ワロンヌとは、全部で3度通過するユイの壁の、3度目で全てが決まるのだ。大逃げ勝利という「事故」が最後に起きたのは2003年。その後の12年間は、いわゆる偉大なるマンネリ状態が続いている。しかも昨大会などは、ゴール前ギリギリ150mまで横一線……というまさかの超激坂スプリントフィニッシュで幕を閉じた。

レースにもっと動きを出そうと、開催委員会だってコース作りに工夫をこらしている。2013年はレース前半にも起伏を組み込んだし、2014年には全部で3回通るユイの通過距離に少し手を入れてみた。昨大会は最終ユイの手前5.5kmに、新たな死客コート・ド・シュラヴを送り込んだ。登坂距離1.3km、平均勾配8.6%、最大勾配15%の激坂では、たしかにティム・ウェレンスが――今年のアムステル・ゴールドレースと同じように――思い切って飛び出した。しかし有力選手達はまるで動かず、様子見に終始するだけ。勝者アレハンドロ・バルベルデに言わせると、「あの坂が集団を小さく絞り込んでくれたおかげで、ユイ突入時の場所取りが楽になった」そうだけれど。

2016年大会に関しては、コースの後半3分の2に、全部で12の坂道が散りばめられた。前述したように、ユイ登坂は全部で3回。そして新たな試みとして、1度目と2度目のユイ通過の直前に、コート・ド・ソリエールが投入された。平均勾配こそ4%と凡庸だけれど、登坂距離が4.3km。それを2回。他の坂の平均距離が1.4kmだから、フレーシュの坂としてはかなり長い。クライマー向けと呼ばれるリエージュでさえ、最長の上りは4.4km(ロジエ)で、しかも登場は1回のみ。するとおそらく、このソリエール坂で、プロトンの後ろ側からじりじりと脱落していく者たちがあらわれるのだろう(というのを開催委員会は期待しているのだろう)。

日曜日のアムステル・ゴールドレースですでに苦しんだ選手たちにとって、長い坂道は、特に厳しい試練となりそうだ。たとえば左手指の骨折のせいで「普段と違うポジションを取る必要に迫られ、首と背中を痛めた」フィリップ・ジルベールや、「氷雨のせいで手足も脚も背中も冷えきって」ゴールにさえ辿りつけなかったミハウ・クフィアトコフスキー、落車して集団復帰を果たすも結局は途中リタイアしたホアキン・ロドリゲスは、絶好調ならば優勝候補筆頭に上げられるのだが……。また昨大会6位、ツール通過時のユイ3位で、今年こそと意欲を燃やしていた「新世代激坂ハンター」アレクシー・ヴュイエルモズは、アムステルの落車で左掌を痛め(骨折はないそうだが)、残念ながら水曜日はテレビ観戦組に。アルデンヌ3連戦初挑戦予定だったファビオ・アルも、「バスク一周の落車の影響」で背中の痛みを訴えアムステル途中で自転車を降り、そのままフレッシュ&リエージュ行きさえ取りやめた。

もちろんアムステルで好調さを証明し、しかもアムステルよりも勾配のきつい上りに適性を持つパンチャー&クライマーたちは、ユイという大きな獲物を仕留めようと息巻いている。病み上がりの復活途中、しかも落車して背中を痛めながらもアムステル6位に食い込んだジュリアン・アラフィリップは、「調子が良かったし、すごく楽しんで走れた」とフレッシュに向けて好感触を抱く。「ユイは僕には少々きつすぎる」とかつてのジルベールのようなことを言っていたウェレンスだって、アムステルでの単独攻撃で「脚の好調さが確認できた。次戦が楽しみ」と自信を膨らませる。なにより所属チームのロット・ソウダルは、トニー・ガロパンやイェール・ヴァネンデールも非常に調子が良い。日曜日はマイケル・マシューズのために積極的にレース制御を行ったオリカ・グリーンエッジは、水曜日は昨大会3位ミヒャエル・アルバジーニのために働くのだろう。

ところが最大の優勝候補は、アムステルを迂回した選手の中にいる。先週末はブエルタ・ア・カスティーヤ・イ・レオンへと参戦していた、ディフェンディングチャンピオンのアレハンドロ・バルベルデである。3日間のステージレースでは、2日目と3日目(山頂フィニッシュ)と総合をまとめて勝ち取った。つまりとてつもなく絶好調のまま、フレッシュ・ワロンヌに乗り込んでくる!ただ少々気になる発言も。「今のメインゴールは、今季最大の目標であるジロに向けて、安全に、調子を保つこと」と語っているのだ……。ただし「無敵男」氏は、実際のレース本番では、どうも脚が勝手に動いてしまう傾向にある。きっとベルギーでも、思わず華麗なアタックを決めてくれるに違いない、そう信じよう。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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