人気ランキング
J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題
コラム&ブログ一覧
【リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ/プレビュー】
今年で102回大会を迎える格式高い名誉あるレース。寒波到来の予報、悪条件を突き破る真の強者が決まる!
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
春のクラシックシーズンが、アルデンヌ3部作が、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュで幕を閉じる。1892年に走りだした史上最古のクラシック「ラ・ドワイエンヌ=最古参」は、若草の萌える美しき丘陵地帯を舞台に繰り広げられる。……はずなのだけれど、2016年大会は、もしかしたら白い風景がお目にかかれるかもしれない。
週の大半は暖かな晴天に恵まれたベルギーだが、王立気象台の予報によると、週末に季節外れの寒波が欧州北部に襲いかかる。リエージュ一帯も悪天候や低温から逃れることはできない。それどころか、週の真ん中の時点では、「日曜日は大雪になるでしょう」との警報が出された。つまり1980年春、激しく降り続く雪の中でベルナール・イノーが大会を制して以来の、「ネージュ〜バストーニュ〜ネージュ」(ネージュとはフランス語で雪の意)が繰り広げられるのかもしれない。あの年のイノーは、ゴールまで80kmで単独アタックを打ち、2位以下に9分以上ものタイム差をつけて勝利をつかみとった。栄光の代償として、手指数本の感覚を永遠に失ったと言われている。出走者は174名、完走は21名だった。
ただし今シーズン、UCI国際自転車競技連合は、「極度の気象条件に関する要項」を定めた。それによると「車道に積もった雪」や(降雪による)「視界の悪さ」などは、もちろん「極度の気象条件」に該当する。週末の天候・道路状況によっては、スタート&ゴール地変更から、コース変更、さらにはレース自体の中止まで、なんらかの決定が下される可能性がある。
もしも無事にレースが開催された場合、大筋はクラシカルなコースをたどる。全25チーム・最大200選手で構成されたプロトンは、リエージュの君主司教宮殿前でスタートを切ると、一路南へ。バストーニュまでたどり着いたら、折り返して、北へ方向転換。後半戦で数々の難坂を乗り越えて、リエージュ郊外のアンスでフィニッシュする。全長253kmのコース上に待ち構える坂道は全部で10カ所。つまり昨大会と難所の数は同じ。ところが、坂道リストをよくよくチェックしてみると、コル・ド・ストクーの名前がない!上りは最大勾配17%と難しく、てっぺんには「史上最強の自転車選手」エディ・メルクスの記念碑が待ち構え、しかも下りが細すぎて怖い……というリエージュ屈指の伝統坂である。残念ながら現在は道路工事のため、通行止め。一回お休みだ。
それでも前後のワンヌ(168km地点)とオート・ルヴェ(179km)はルートにきっちり組み込まれているから、この辺りから戦いは激化していくはずだ。優勝へ向けた攻撃合戦が本格派するのは、やはりラ・ルドゥット(216.5地点、登坂距離2km、平均勾配8.9%、最大22%)だろうか。続くラ・ロシュ・オ・フォーコン(232.5km地点、距離1.3km、平均11%、最大16%)が、近頃は最大の勝負どころ。2008年にコースに新たに組み込まれるようになって以来、2009年にアンディ・シュレクが、2011年にはフィリップ・ジルベールが勝利へつながる飛び出しを決めた。2012年にはヴィンチェンツォ・ニバリが果敢なる独走を始めたことも(ゴール前1kmで追い越されたが)。
一方で過去2年は、アタック不作の年であった。2014年は25人近く、昨年も20人近くがラスト1kmまで混在し、勝負はスプリントにもつれ込んだ。ゴール直前のサン・ニコラ(246.5km地点、距離1.2km、平均8.6%、最大13%)も、そしてフィニッシュラインへと続く上り坂も、集団を小さくはしてくれなかった。
だから2016年4月、そんな嘆かわしい状況を打破すべく、開催委員会はゴール前2.5kmに新たな坂を組み込んだ。「マンネリから抜け出すために、ちょっとした『手術』が必要だと考えた。ファイナルにスパイスを、ね」とコース作成を手がけたジャンミシェル・モナンが語ったように、サン・ニコラから下りきった直後、選手たちはコート・ド・ラ・リュ・ナニオ(ナニオ通り坂)へと駆け上がる。600mの短い上りだけれど、平均勾配は10.5%。なによりオール石畳!
そのパヴェを大急ぎで駆け上がり、いち早くフィニッシュへ滑り込もう意気込むのは、ジルベール(2011年覇者)やダニエル・マーティン(2013年覇者)、サイモン・ゲランス(2014年覇者)といった、いわゆるクラシックスペシャリストだけではない。昨春フレーシュ2位→リエージュ2位で驚異的なデビューを飾り、今年改めてフレーシュ2位で確かな才能を証明した23歳ジュリアン・アラフィリップや、昨フレーシュ→今アムステル→今フレーシュと単独アタックに挑戦し続けるワロニーハーフ(父親がフランドル人、母親がワロニー人、ついでに恋人もワロニー人)の24歳ティム・ウェレンスだけが、なにも注目すべきライダーではないのだ。
なぜならリエージュのスタート地には、多くのグランツールライダーが集結する。たとえばヒルクライマー向けのステージレース、ジロ・デル・トレンティーノを金曜日まで戦ったヴィンチェンツォ・ニバリ、ロマン・バルデ、ジャンクリストフ・ペロー、ドメニコ・ポッツォヴィーヴォは、大急ぎでリエージュに飛んで来る。ステージレーサーとしてますます進化が期待されるラファル・マイカやイヌール・ザカリン、イエーツ兄弟、ワレン・バルギルはもちろん、2016年ツール・ド・フランスでマイヨ・ジョーヌを狙う予定のリッチー・ポート、ナイロ・キンタナ、さらにはクリス・フルームまで!
ただしフルームにはあまり成績は期待しないほうが良い。あくまで目標は直後のツール・ド・ロマンディということで、ちょっとでも調子が悪ければスタートをドタキャンするし(2014年)、ロマンディに日程が近すぎるからやっぱり止めよう(2015年)ということも十分にありえるから。
クラシックもグランツールも上位常連、という優秀な選手もたくさん存在する。ホアキン・ロドリゲスはご存知のとおりだし、バウケ・モレマやロベルト・ヘーシンクも有力候補には違いない。しかし、やっぱり、スーパーオールラウンダーな優勝大本命と言えば、グランツール総合優勝1回(2009年ブエルタ)、表彰台6回、クラシックタイトル9個、UCI年間ランキング1位4回のアレハンドロ・バルベルデをおいて他には存在しないだろう。それにしても石畳クラシックでは、35歳のファビアン・カンチェッラーラとトム・ボーネンの10年越しのライバル最終決戦に大いに注目が集まったものだった。同じく35歳のバルベルデは、先の水曜日にフレーシュ・ワロンヌで4度目=大会史上最多の優勝を軽々とさらってしまった。しかも初めて優勝したのは10年前だ。
リエージュで初めて勝利を手に入れたのも、やはり10年前の2006年だった。それから2008年、2015年とバルベルデは3度の栄光に輝いてきた。もしも今年4度目の優勝を仕留めることができれば、モレーノ・アルジェンティンと並ぶ史上2位タイの記録となる(1位はメルクスの5勝)。大会翌日には36歳の誕生日を迎える。12日後に開幕するジロ・デ・イタリアでは、初出場・初優勝の挑戦へも漕ぎだす予定だ。
ところでバルベルデは、「極度の気象条件」に見舞われたとしても、問題ないだろうか?
「雨が降るかどうかはまだわからないし、天気予報が変わるかもしれない。もしも変わってくれたら、嬉しいよね。雨が降らずに気温が低いだけなら、戦いはずっと楽になるから」とチーム公式HPに本人はコメントしている。そうそう、大雪が降ったら、もしかしたら、むしろチームメートのキンタナ(2014年ジロや2015年ティレーノ)やジョヴァニ・ヴィスコンティ(2013年ジロ)にとっての勝ちパターンなのかもしれない。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
あわせて読みたい
J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題
ジャンル一覧
人気ランキング(オンデマンド番組)
-
Cycle*2024 UCI世界選手権大会 男子エリート ロードレース
9月29日 午後5:25〜
-
Cycle* J:COM presents 2024 ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム
11月2日 午後2:30〜
-
10月12日 午後9:00〜
-
11月11日 午後7:00〜
-
【先行】Cycle*2024 宇都宮ジャパンカップ サイクルロードレース
10月20日 午前8:55〜
-
10月10日 午後9:15〜
-
Cycle* UCIシクロクロス ワールドカップ 2024/25 第1戦 アントウェルペン(ベルギー)
11月24日 午後11:00〜
-
【限定】Cycle* ツール・ド・フランス2025 ルートプレゼンテーション
10月29日 午後6:55〜
J SPORTSで
サイクル ロードレースを応援しよう!