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わずか10.85kmの山道が、明暗を分けた。最後に走り出したステフェン・クルイスウィクは、全167選手中トップ……からほんのわずか0.16秒遅れという素晴らしい記録で、生まれて初めて身にまとったマリア・ローザをますます輝かせた。ほんの3分前に走り出したヴィンチェンツォ・ニーバリは、メカトラブルによる自転車交換を余儀なくされ、この日だけで2分10秒ものタイムを失った。総合でも2位から3位へと一歩後退した。そして28分39秒のベストタイムをたたき出したのは、登坂タイムトライアルの「スペシャリスト」を自称するアレクサンドル・フォリフォロフ。総合争いの強豪も、名うてのヒルクライマーも全てまとめて押しのけて、またしても無名の若手が初めてのグランツール区間勝利をつかみとった。
約2週間前のオランダの、真っ平な大地で行われた9.8kmの個人タイムトライアルでは、無名のプリモシュ・ログリッチェが、優勝候補のトム・デュムランにコンマ差の敗北を喫した。元スキージャンパーの26歳は、第9ステージの起伏個人TTで優勝を勝ち取り、見事なるリベンジを果たしている。一方でロシアの24歳は、初日153位、第9ステージ59位と、ひどく控えめな成績で終えていた。第5ステージに逃げを打った以外は、人々の記憶に残るような、強烈な何かをしでかすこともなかった。
フォリフォロフはこの日、110番目にスタートを切った。4.4km地点の第一タイム計測地点では、暫定1位のタイムを叩き出した。ただ、最終盤にスタートを切った強豪に次々と記録は塗り替えられていったし、首位通過=マリア・ローザのクルイスウィクからは39秒も遅れていた。
しかし、本物の山は、第一計測地点を過ぎてから始まる。前半は約4.7%となだらかだった勾配が、いきなり平均8.6%に跳ね上がる。後半の6kmで本領を発揮できるのは、つまり真のヒルクライマーだけ。
「僕にとっては最適の距離だったし、登坂タイムトライアルは僕の得意分野なんだ」(フォリフォロフ、公式記者会見)
2015年3月にロシアで開催されたGPソチ第4ステージでは、10.3kmの登坂TTを勝ち取った。U23大会として長い歴史と高い実績を誇るアオスタ渓谷一周では、2014年に12.4kmの登坂TTで、区間3位に入った。その時2位だったのが昨ブエルタ覇者のファビオ・アルで、9位が昨年すでにジロで区間勝利を手にしたダヴィデ・フォルモロだった。そもそも若手オールラウンダーの登竜門、ツール・ド・ラヴニールで2014年総合4位に入っている。フォリフォロフは、どこからともなく偶然にやって来た勝者ではないのだ。
「テレビ画面を見ながら待っている間、ひどくイライラしていた。きっとクルイスウィクが勝つに違いないと考えていた。まさか自分が優勝できるとは、信じられないよ!」(フォリフォロフ、公式記者会見)
後半でフォリフォロフがぴったりクルイスウィクを39秒上回るタイムを記録し、衝撃の優勝をさらい取ったのだとしたら、マリア・ローザは前半1位・後半3位と安定したペースを刻んで同タイム区間2位の座を射止めた。
圧倒的な強さを見せ、ほんの僅差で勝敗が喫した2人の後方では、アレハンドロ・バルベルデが23秒差、エステバン・チャベスが36秒差、イヌール・ザッカリンが47秒差、ラファル・マイカが1分09秒差、そしてヴィンチェンツォ・ニーバリが2分10秒差と大きな距離が開いた。つまりクルイスウィクは、総合争いのあらゆるライバルから、改めて大きなリードを奪うことに成功したことになる。
「勝利まであとほんのちょっとの差だった。もちろん勝ちたいと思っていたけれど……、でも、むしろ、ニーバリやチャベスからこれほどのタイム差を稼げるとは考えてはいなかったんだ。だから僕にとっては、すごく良い一日だった、こう断言してもいい」(クルイスウィク、ゴール後インタビュー)
それでも、大部分の強豪たちは自らの全力を尽くし、結果にもそれぞれに納得している。前日は「空白の1日」ではなく、「標高差に体が慣れなかっただけ」というバルベルデは、「今日は満足だ。自分の真のレベルを取り戻すことができたのだから」(チーム公式)と続く戦いへと希望をつなげた。第一計測地点では首位から43秒もの遅れを喫していながら、後半だけなら総合候補の中ではトップタイムを叩き出したチャベスは、「もうちょっと勾配が厳しかったらありがたかったけど……、でも、全体的には悪くない出来だった」(ゴール後インタビュー)と語っている。
ただニーバリだけは、どうあがいても、溜飲を下げることなどできないはずだ。2015年ツールは第2ステージの暴風雨で分断にはまり、あっさり1分半近く失った。2015年ブエルタは第2ステージに落車に巻き込まれた後、「集団復帰のためにチームカーに長時間つかまった」ことを審判団に見咎められ、ステージ終了後に大会除外処分を下された。そして2016年ジロの第15ステージでは、第一計測地点ではすでに30秒も遅れ、しかも山道ではしばしば熱狂的過ぎるティフォジに集中力を妨げられ、さらに……。
「チェーンが脱落してしまった。自分でなんとかはめようとしたけれど、そしたら逆にチェーンが切れてしまった。こういうハプニングは誰にでも起こりうること。今日は僕の番だっただけ」(ニーバリ、ゴール後インタビュー)
ほんの2日前まで秒単位の争いを繰り広げていたのが、まるで幻だったかのように、ドロミテの2日間で大きなタイム差が出来上がった。総合首位クルイスウィクの後ろには、2位チャベス2分12秒差、3位ニバリ2分51秒、4位バルベルデ3分29秒、5位マイカ4分38秒、6位ザカリン4分40秒と続く。
「まだジロを勝ったわけではない。もちろんマリア・ローザを最後まで守りたいけれど、この先もビッグステージが残っている。それにここはジロだから、決して油断してはならないんだ。チャベスとニーバリ、バルベルデは、いまだ危険人物だと考えている。この先どう走っていくかはまだ決めていないんだけど、休養日に監督たちとプランを練って、ライバルたちから目を離さず、しっかり橋って行きたいと思っている」(クルイスウィク、ゴール後インタビュー)
翌日に3度目の休養日を終えると、最終日トリノまでは残り6ステージ。いまだジロ一行の前には、休養日明け第16ステージに山頂フィニッシュが、さらに大会最後の週末には、フランスをまたにかけた巨大峠バトル2連戦が待ち受けているのだ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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