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冷たい雨が降り続いた休養日の翌日、132kmという短距離コースで、極限まで加熱した戦いが繰り広げられた。最後に抜けだした勝ち組は3人。36歳アレハンドロ・バルベルデは初めてのジロ出場で初の区間勝利をさらい獲り、猛烈にペダルを回したイルヌール・ザッカリンは総合トップ5に滑り込んだ。なによりステフェン・クルイスウィクが、総合首位マリア・ローザに相応しい実力者であることを、改めて証明した。一方でヴィンチェンツォ・ニーバリは戦いを積極的にリードしながらも、最後に力尽きた。総合優勝の可能性も、ほぼ完全に失った。
「ドロミテを抜け出す最後のステージで、大乱闘が繰り広げられるに違いない」と、多くの選手たちは慄いた。「中でも大会前の大本命に上げられていた2人、ニーバリ(総合3位、2分51秒遅れ)とバルベルデ(総合4位、3分29秒遅れ)が、必ずや何か仕掛けてくる」と、メディアは煽り立てた。そして、予想は、的中する。なにしろ大会も3週目に入り、トリノ到着まであと6日。つまり、マリア・ローザや表彰台を巡る戦いは、実質5日しか残っていない。もはや1日たりとも無駄にはできないのだ。しかも総合争いの本命たちは、ステージの最終盤まで待たなかった。コースの真ん中に立ちはだかる、2級峠パッソ・デッラ・メンドーラの中腹で、文字通りの取っ組み合いを始めた。
モヴィスターは恐ろしいテンポを刻んだ。序盤の激しいアタック合戦を勝ち抜いて、ようやく抜け出していた9選手に、遠くへ逃げる余地を決して与えなかった。ゴール前75km、導火線に火をつけたのは、総合6位ザッカリンだった。そこから数限りない揺さぶりが繰り返された。アスタナは前方に山岳アシスト役タネル・カンゲルトを送り出すことに成功した。カチューシャとキャノンデールは、手を変え品を変え、リーダー本人を前方へ送り出そうと試みた。
総合争いに決して慣れていないロットNL・ユンボのアシストたちは、すぐにまとめて後方へと吹っ飛ばされた。すなわちマリア・ローザ自身が、ラスト75kmを、たった1人で対応する必要に迫られた。
「もしかしたら、僕は上手く制御しているように見えたかもしれない。でも、とにかく、とてつもない数のアタックだった」(クルイスウィク、公式記者会見)
カンゲルトとダビ・ロペスガルシア、ディエゴ・ウリッシ、セルゲイ・フィルサノフの飛び出しは、あっさりと見逃した。総合8位ボブ・ユンゲルスの強烈なアタックを、数回は引き止めたが、最後には目をつぶった。総合12位リゴベルト・ウランのアタックは許せなかったが、総合34位ジョセフ・ドンブロウスキーには好きに先へと行かせた。
「1人になってからは、ひたすら、警戒すべき相手だけに注意した。だからニーバリのアタックには、すばやく対応した」(クルイスウィク、公式記者会見)
ゴール前68km、つまり山頂の直前で、ニーバリが大きな一撃を振り下ろした。強烈で、しかも長い加速だった。クルイスウィクとバルベルデは引き剥がされぬよう後輪にしがみついた。一瞬反応が遅れたが、ザッカリンもほどなく追いついた。しかし、総合2位エステバン・チャベスと5位ラファル・マイカ、7位アンドレイ・アマドールは、流れに乗り遅れた。
「なかなか集団は割れなかったけれど、ついに最終盤で、差を作り出すことに成功した。クルイスウィクは一緒だったけど、チャベスは一緒ではなかった。そのまま僕らは前に突き進み、次の2級ファイ・デッラ・パガネッラの麓までまで協力し合った。みんな良く働いた」(バルベルデ、公式記者会見)
登りではあれほど激しくいがみ合った者たちが、下りでは一旦、休戦を決め込んだ。山頂を揃って越えた首位クルイスウィク、3位ニーバリ、4位バルベルデ、6位ザッカリンは、「後方の邪魔者からタイムを奪う」という共通の利益のために手を組んだ。先に逃げていた6人に合流すると、前方に残る唯一のアシスト、カンゲルトが仕事を引き受けた。マリア・ロッサ用の中間&ゴールポイント収集のために、ウリッシもスピードを緩めなかった。
なにより、ほんの5日前にマリア・ローザは失ったけれど、「マリア・ビアンカだけは絶対に守りたい」と力強く宣言していたユンゲルスが、猛烈なる牽引役を買って出た。26歳以上の強豪たちがチャベスやマイカを突き放したいように、23歳の若者は、新人賞2位のセバスティアン・エナオゴメス(新人賞11分34秒差)との差をできる限り広げたかったのだ。
はるか後方では、オリカ・グリーンエッジとティンコフ、キャノンデールが必死の追走を続けていた。しかし逃げ出した10選手との差は、じわじわと開いていくばかり。ゴール前20km、2級ファイ・デッラ・パガネッラの麓で、遅れは48秒にまで開いた。もうこれ以上、悠長に待っているわけには行かなかった。チャベス、マイカ、さらに総合11位ドメニコ・ポッツォヴィーボとウランは、アシストたちに別れを告げると、自らの脚でタイム差を縮めに行くことに決めた。
ファイ・デッラ・パガネッラの山道では、そこまで協力し合っていた前方の選手たちも、弱者を切り捨てる必要に迫られた。なにしろ後方のチャベスたちは、とんでもない勢いで差を詰めてくる。ゴール前16km、バルベルデが鋭い加速を打った。クルイシュウィクとザッカリン以外は、全員まとめて弾き飛ばされた。もちろん、ニーバリも含めて。
「今日は総合のタイム差を考える前に、なにより、区間勝利が欲しかった。チーム全体でひたすら区間勝利のために働いてきたから。だからチャベスには絶対に追いつかれたくなかった。それから、ステフェンとザッカリン、僕自身の3人になってからは、また再び協力して努力を続けた。とにかく、最後のギリギリまで、タイム差を開くために働いた」(バルベルデ、公式記者会見)
……そんな3人に置いていかれたニーバリは、しばらくするとチャベスやマイカに合流されてしまう。それどころか、パガネッラ山頂手前の、まるで壁のような勾配15%ゾーンで、逆に置き去りにされてしまった!
「なんだか自分ではないみたいだった。序盤は調子が良かったのに、それから、どうなってしまったのか分からない。上手く説明ができない。調子はいいと感じていたのに、他の選手たちのアタックに、なぜか反応できなかったんだ」(ニーバリ、ゴール後TVインタビュー)
不可解な苦しみに悩まされながら最終10kmを必死に追いかけたニーバリや、猛烈に追いかけてくるチャベスを尻目に、クルイシュウィクとバルベルデ、そしてザッカリンは力強くフィニッシュへ向けて突進した。「ハンガー」や「無敵男」はもちろん力を惜しまなかったが、最終盤は特に、「タタールスタンのコウノトリ」がとかく先頭を引っ張った。ラスト300mまであまりに夢中でペダルを回し続けたせいで、スプリントを打つ体力は残っておらず、ゴールラインでは他の2人から8秒も遅れてしまった。それでもザッカリンは、念願のトップ5返り咲きを果たした。またマリア・ローザは必死でスプリントを試みるも、結局は3ステージ連続で区間2位に甘んじた。フィニッシュラインを一等賞で駆け抜けたのは、至極当然ではあるが、現プロトン屈指の上りスプリント強者だった。ひときわ大きなガッツポーズを、天に突き上げながら。
「そりゃあとてつもなく嬉しいよ。信じられないような気分さ。だって生まれて初めてのジロの区間勝利なんだから!今大会には2つの目標を抱いて乗り込んできた。1つめの目標である区間勝利は、今日無事に達成できた。もう1つの目標は、表彰台乗り。これも今日は3位に浮上できたから、予想以上の出来だったね」(バルベルデ、公式記者会見)
区間勝者から遅れることわずか37秒、ウリッシとユンゲルスがフィニッシュラインを越えた。彼ら2人もまた、この日の勝ち組であった。前者は中間ポイント10pt+ゴールポイント8ptを手に入れ、ポイント賞首位までわずか8pt差に迫った。後者は新人賞2位との差を、14分17秒へと開くことに成功した。総合でも7位に浮上している。
チャベスは被害を42秒で食い止め、総合2位の座はなんとか守った。ニーバリは1分47秒ものタイムを失い、総合3位の座も失った。休養日前日までは「ニーバリの逆転優勝はまだある」と健気に連呼していたイタリアメディアは、「もはや彼のマリア・ローザはない」と断定口調で語り始めた。
なにより、クルイシュウィックが堂々と総合首位の座を守り、それどころかバルベルデ以外のあらゆる総合ライバルから大量の時間を稼ぎ取った。すでに総合2位チャベスに対するリードはきっかり3分に開き、さらに3位バルベルデ3分23秒、4位ニーバリ4分43秒、5位ザッカリン4分50秒、6位マイカ5分34秒と続く。
「まだジロは終わっていない。難しいステージが2つ残っている」
クルイシュウィックもバルベルデも、まったく同じように、公式記者会見でこう強調した。ただオランダのヒルクライマーは、自己申告によれば長い上りを得意としているから、フレンチアルプスを舞台に繰り広げられる難関2ステージには自信を持っている。
「むしろ明日やあさってのような平坦気味のステージで、気を緩めず、集中を切らさず、走り続けなければならない。トリノまでの5日間は、毎日が、僕にとっては難しいステージなんだ」(クルイシュウィック、ゴール後インタビュー)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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