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サイクル ロードレース コラム 2016年7月7日

ツール・ド・フランス2016 第5ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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長い逃げの終わりには、新しい感動が待っていた。1年前に初めてのツール区間勝利を手に入れたフレフ・ヴァンアーヴェルマートが、この日、マイヨ・ジョーヌの特別な味わいを堪能した。ペーター・サガンは3日間の黄色の日々に幕を閉じ、おなじみの緑色に着替えた。のんきに「セ・ラ・ヴィ(これが人生さ)」と高笑いした。一方でチームメートのアルベルト・コンタドールは、序盤2日で2度落車した影響で、またしてもライバルたちからタイムを失った。それでも「僕はまだ終わっていないし、やる気もまるで失っていない」と、力強く断言した。

頭上には灼熱の太陽。そして足下には、溶けるアスファルト。序盤2日間の悪天候の後の、3日連続での200km超の長距離ステージ。

「今年のツールはまだ5日間しか終わっていないのに、まるで3週目のような気分だよ。今年は本当に、すごく、すごく、厳しいね」(サガン、ミックスゾーンインタビュー)

厳しいからこそ、大逃げの機会は早めにやってくるに違いない。そう察知した多くの選手が、2016年大会初の逃げ切り勝利を目指した。しかもステージの舞台となったのは、細かい起伏が繰り返し訪れる中央山塊である。5年前にトマ・ヴォクレールが大逃げに乗り、プロトンに3分59秒差をつけてフィニッシュした後、10日間マイヨ・ジョーヌを着用し続けた……その時とほぼ同じ道を通るのだ!

スタート直後からアタック合戦が繰り返された。多くの飛び出しが企てられては、力ずくで後方へと引き戻された。それでも30kmほど走ると、9人が前方にはっきりと姿を現した。

しかし、エスケープ集団内の協力体制は、どうも上手くいかなかった。このままでは吸収されてしまう……、そう考えて、新たな加速を切ったのは、プロトン屈指の逃げ巧者トーマス・デヘントだった。9人の逃げのきっかけを作ったアンドレー・グリブコと、総合ではわずか18秒遅れのフレフ・ヴァンアーヴェルマートも、大逃げで2012年ジロ総合3位をつかんだスペシャリストの動きに共謀した。

「改めて前に出たのが功を奏した。おかげで大きなタイム差を手に入れたし、早い段階で逃げ切りも決まった。それに僕のマイヨ・ジョーヌも、ほぼ確定したんだ」(ヴァンアーヴェルマート、公式記者会見)

残り60kmで、3人は、メイン集団から15分もの大差を許された。2級パ・ド・ペイロルのとびきり厳しい上りで、グリブコが脱落していったあとも、フランドル人の2人はせっせと先を急いだ。

「グリブコは先頭交代に協力しなかった。だから僕とヴァンアーヴェルマートは、自然と共闘関係を組んだんだよね。しかも彼から『山岳ジャージを狙ってる?』と聞いてきた。山頂手前では争う態度を見せずに、僕を先に行かせてくれた」(デヘント、ミックスゾーンインタビュー)

他人への配慮を欠かさなかったヴァンアーヴェルマートは、「スプリントなら僕の方が強い」(公式記者会見)から、特段デヘントを振り払う必要も感じてはいなかった。ただし、相手のスピードに合わせて、自分の走りにブレーキをかけたくもなかった。だから「山は嫌いだけど山岳ジャージは大好き」というデヘントの山岳賞が無事確定した後は、ひとりで先を急ぐことに決めた。ラスト17km。2級コル・ド・ペルテュスの上りで力強く加速を切ると、あっさりと独走態勢に入った!

「今日はすべての条件が整っていた。僕が勝つにはパーフェクトな1日だったんだ。脚の調子は良かったし、良いエスケープに乗ったし。コースもまさしく僕向きだった」(ヴァンアーヴェルマート、公式記者会見)

1年前の第13ステージでは、やはり中央山塊のステージで、上りスプリントを制した。この日は前方でひとり、苦しみに耐え、しがみついた。たどり着く先に、マイヨ・ジョーヌが待っていることを、知っていたから。

「僕のような脚質の選手にとって、マイヨ・ジョーヌを着るというのは、とても誇らしいこと。だって僕はピュアスプリンターでもなければ、タイムトライアル巧者でもない。もちろんパリの総合表彰台に上る喜びなんて、この先も絶対に味わえない。だからこそ、区間勝利以上に、マイヨ・ジョーヌには特別な感動を覚えるんだ」(ヴァンアーヴェルマート、公式記者会見)

ツール・デ・フランドルで鎖骨を骨折し、失意の春を過ごした31歳が、ル・リオランのスキー場で喜びを爆発させた。明日は1日マイヨ・ジョーヌを満喫したら、明後日のピレネーからは心置きなく総合リーダーのために尽くせるね……と、働き者としての横顔ものぞかせる。でも、総合2位以下とは5分以上の差をつけているから、「トマ・ヴォクレール風」のジャージ保守の日々に突入する可能性だってなくはないのだ。

総合本命にとっても、中央山塊で繰り広げられたステージは、極めて重要な1日だった。たしかにピレネーやアルプスのように、巨大峠は登場しない。ただし、「誰がツールを勝てないのか、それが判明する」、と言われることの多い大会初の山岳ステージで、失敗は絶対に許されない。ライバルたちから、ほんのわずかのディスアドバンテージさえ、負ってはならないのだ。物理的にも、精神的にも。

だから多くの総合本命が、アシストたちを、「もしも」のために前方集団へと滑り込ませた。もしかしたらヴァンアーヴェルマートだって、BMCのティージェイ・ヴァンガーデレンやリッチー・ポートの有事には、前方待機を指示されていたのだろうか?アスタナのグリブコは、まさしくファビオ・アルを待った。また3人を、ほんの数分差で追いかけ続けた6人の集団には、スカイやティンコフも1人ずつ紛れ込んでいた。

一方でモヴィスターは、9人全員がメイン集団に留まった。だからペイロルの登りに入ると、率先して集団制御にとりかかった。スカイも負けじと、残る8人で隊列を組んだ。おかげでスプリンターやらサガンは、当然のごとく、一気に脱落していった。さらには、5月末にジロを勝ちとったばかりのヴィンチェンツォ・ニーバリさえも、滑り落ちていって……!

3大ツール全制覇の大チャンピオンによれば、「至極当然のこと」だったらしい。最終的にニーバリは、優勝候補たちから8分半以上も遅れて、静かに1日を終えた。なんとも晴れやかな、さっぱりした表情だった。

「だってジロ以来、レースを走ってこなかったんだから。あたりまえだよ。このツールの目標は、あくまで、五輪に向けて調子を上げていくこと。だから3週目には本調子になっていれば、それで満足。総合争いはアルに任せて、僕はとても自由な気分で走っている」(ニーバリ、ゴール後TVインタビュー)

昨大会の「ファンタスティック・フォー」の1人があっさり総合争いから一抜けした後は、スカイが淡々とリズムを刻んだ。メイン集団内では、しばらく何も起こらなかった。そんな膠着状態をぶち破ったのが、ロメン・バルデだ。祖母が住む村の目と鼻の先であり、普段のトレーニングルートでもある山道で、どうしても何か試さずにはいられなかった。だから3級フォン・ド・セールの山頂間際で急加速を切ると、短い下りへと勢いよく打って出た。

「ものすごい声援だった。鳥肌が立った。どうにか自分の感情をコントロールしようと努めたよ。総合争いに生き残るためには、体力を無駄遣いすることは絶対に許されないからね。でも、この山は、道をよく知っていた。だから最後にトライした。あそこでのアタックなら、それほど損失はないと考えたから」(バルデ、ゴール後TVインタビューより)

バルデ本人に損失がなかったとしても、この加速が、コンタドールに損失を与えた。大部分の総合優勝候補が地元っ子の動きにすかさず反応したのに対して、もう1人の3大ツール全制覇チャンピオンは、流れに飛び乗ることができなかった。

「なんとかしがみついていたけれど、最後の最後に遅れてしまった。落車でのケガが、まだ痛むんだ。でも今の僕がやるべきことは、落ち込むことではない。無理に動かずに、体力を温存して、この後の戦いに向けて体を回復していくことだけ」(コンタドール、ゴール後インタビュー)

ヴァンアーヴェルマートから5分04秒遅れでホアキン・ロドリゲスとダニエル・マーティンが、5分07秒遅れでその他の有力候補は山の初戦を終えた。コンタドールは5分40秒遅れで、つまり大部分のライバルから33秒を失ったことになる。また総合ではクリス・フルーム、ナイロ・キンタナ、バルデ、アル等々はそろって5分17秒差で並んでいるが、コンタドールはすでに6分38秒差と、ピレネー突入を前に1分21秒のビハインドを背負ったことになる。

またランプレのルイ・メインチェスは、ステージ中盤で集団落車に巻き込まれたが、問題なくメイン集団(5分07秒遅れ)で1日を終えた。落車直後には、新城幸也がアシストとして傍に付き添う姿も、テレビ中継で映し出された。大会初日は単独落車で、右肩と左親指を痛めた新城だが、この日は後ろから突っ込まれて、再び左親指を大きく打ち付けた。

「いやー、今日はきつかった!死ぬかと思いましたよ。それに指も痛い。折れたんじゃないか、って思うくらい!!」

……と繰り返しながらも、新城は楽しげに笑っていた。2週目に向けて、気持ちも体調も、間違いなく上がっている。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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