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【フレッシュ・ワロンヌ / レビュー】ユイの壁完全攻略!アラフィリップ「今日は脚ではなく、『ここ』の勝利だよ」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかジュリアン・アラフィリップは、ユイの壁を、まさしく完璧に攻略してしまったようだ。
2015年初出場時に、衝撃的な2位に飛び込んだ直後には、「初めてのフレッシュ・ワロンヌは発見ばかり。それにしてもユイの壁とは、なんて恐ろしいんだろう!」なんて初々しいコメントを残したものだ。あれからわずか4年。2年連続2度目の優勝をさらい取り、アラフィリップはこう語った。
「この上りについて、少しずつ理解を深めている」
一般的にクラシックレースとは、毎年のように同じフィニッシュ地を使用するからこそ、経験が勝負を大きく左右する。単純なる実力や、その時の調子だけでは、簡単に覇者になることはできない。
特にユイの壁の一発勝負で決まることが多いフレッシュ・ワロンヌは、これが顕著に現れるように思う。例えば2010年大会で、アルベルト・コンタドールは鮮やかな加速を切った。当時すでにグランツール総合4勝を誇る大チャンピオンが、この大会に参戦するのは3度目だったが、優勝目指してユイの壁に乗り込んだのは初めて。そしてフィニッシュまで230mを残してのスピードアップは、さすがのエル・ピストレロにとっても、少々遠すぎた。ラスト100mで脚が止まり、まさかの3位に終わっている。
アレハンドロ・バルベルデが2014年から4連覇という偉業を成し遂げたのは、もちろん天性のパンチ力を有しているからに違いない。しかし2015年大会3位のアルバジーニや、2018年大会3位ヴァネンデールが異口同音で語るように、やはり「壁のどの部分で加速をすればいいのか、正確に把握している」ことが最大の勝因なのだ。ちなみにバルベルデ風の勝利の方程式は、おそらくラスト500mほどから最前列をキープすること。残り200mほどでライバルが早めに仕掛けても慌てず、ラスト150〜130mの間で目の覚めるような加速に転じる。残念ながら2019年大会のバルベルデは、肝心の500mで8番手を走っていた。
アラフィリップはいずれの優勝時にも、やはりフィニッシュライン手前150〜130mで先頭に立っている。つまりは1985年と1988年にフレッシュ・ワロンヌを制し、2015年に急逝したクロード・クリケリオンを記念するオブジェの建つ付近――関係者はクリケリオン・カーブなどと呼ぶ――こそが、重要なユイの勝利ポイントであるらしい。
しかし2018年のアラフィリップが軽々とてっぺんまでたどり着いたのに対して、今年2019年は、ひどく苦しめられた。
「正直に言って、ラスト100mは、脚はほぼ止まりかけていた」
上りについて理解を深めていたからこそ、「シケイン」と呼ばれる最大勾配ゾーンでヤコブ・フグルサングが飛び出した時、アラフィリップはひどく困惑したそうだ。なにしろフィニッシュまでは、いまだ400m近くも残っていた。しかも今季すでにストラーデ・ビアンケとアムステル・ゴールドレースの2度、一騎打ちを繰り広げた好敵手は、脚を緩めるどころかパワフルにどんどん突き進んでいく。慌ててラスト250mで追いついた。
「このままの上まで行こうと思ったらひどくきついことになるぞ、って自分に言い聞かせた。だから常に後方の選手たちとの距離をはかり続けた。そして、もはや後ろの状況や脚の痛みなんて気にしてなんていられない、そんなギリギリの距離まで耐えたんだ」
そのギリギリの距離を正確にはじき出せたのも、やはり壁と自分の相性を深く理解していたから。アラフィリップは人差し指を頭に向けながら、こう語った。
「今日は脚ではなく、『ここ』の勝利だよ」
すると日曜日のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュは、「今までの経験」や「コースへの理解度」が、もはやこれまでのようには通用しなくなる。27年ぶりにフィニッシュ地が移転するからだ。コース最終盤に点在する伝統峠でも、新しい終わりを目指して、新しい展開が生まれるのかもしれない。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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