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単純そうで、それでいて難解だったステージの終わりに、ジャンニ・メールスマンが今大会2度目の勝ち鬨を上げた。急坂と相次ぐアタック、そして予想されていた落車の波を見事にかいくぐった。アクシデント続きで集団は細かく分断され、マイヨ・ロホ姿のダルウィン・アタプマは先頭集団でフィニッシュへ戻ってくることはできなかったけれど……、幸いにも、平坦ステージの「ラスト3㎞タイム救済ルール」が適応された。タイムも、大切な赤いジャージも、失うことなく1日を終えた。
嫌な雨が、コースの大半を濡らしていた。選手たちは無茶をしたがらなかった。1時間近くもアタック合戦を続け、ついには21人が駆け出して行った前日とは違って、本スタートの合図が切られると同時に、2選手をあっさりと前に送り出した。プロ一年生のチームメート、リリアン・カルメジャーヌの区間勝利に触発されたジュリアン・モリスと、祖国ポルトガルと国境を共にするガリシア州にいる間に、なんとか存在感を見せたいと願ったティアゴ・マシャドによる、孤独な2人の逃げだった。
しかも、ステージの折り返し地点で、マシャドはたった1人になった。後方のメイン集団は、ますます焦る必要がなくなった。濡れた路面で静かにペダルを回し、最大6分半のタイム差を与えた。ただ中間スプリントでは、メールスマンが1ptを取りに行き、この時点で1位アレクサンドル・ジェニエと同点で並んだ。その先の3級峠では、トーマス・デヘントが2ptをさらい取り、やはり1位のジェニエまで2pt差に迫った。
幸いにも、終盤には雨が上がった。乾いたアスファルトの上で、数少ないスプリンターチームたち——トレック、エティックス、ジャイアントetc.——は、心置きなく追走スピードを上げることができた。タイム差を大急ぎで縮め、フィニッシュまで残り13㎞、マシャドの敢闘賞モノの逃げにあっさりと終止符を打った。
そこからは神経質なほどに、集団密度が増していく。スプリンターチームに並んで、総合系チームたちもプロトン前方に陣取って、隊列を競い始めたからだ。なにしろゴール前10㎞以内には、無数の、難解なアップダウンが織り込まれていた。余計な落車やら、アクシデントによる分断やらを、できる限り避けなければならない。さらには、第3勢力の……パンチャーたちが、単騎で前線に殴り込みをかけてきた。
ゴール前2.7km、ルーゴのローマ城壁の外周に突入する直前だった。フィリップ・ジルベールが真っ先に仕掛けた。11のクラシックタイトルと1つの世界タイトルを誇るプロトン屈指のアップダウンハンターは、すでに第2ステージにチラリと垣間見せた野望を、全開にして飛び出した。すかさず2012年ブエルタ山岳賞のサイモン・クラークも、切れ味鋭いカウンターアタックを打った。
結局のところ、2人の猛スピードの企ては、ラスト1kmで潰されることになる。ただし、この動きが、とてつもないカオスを作り出した。誰もがなりふり構わず前方へと詰めかけて、いくつもの落車を産み落とされた。
たとえばチーム ロットNL・ユンボのチームリーダー、スティーヴン・クライスヴァイクが地面に叩きつけられた。昨5月のジロで、マリア・ローザ姿で雪の壁に突っ込んだ不幸な男は、8月のスペイン一周では、左鎖骨骨折で大会を去っていった。同じ場所ではヤン・バークランツも事故の犠牲になった。ちなみに、ステージ当夜、ブエルタ開催委員会が異例の謝罪文を発表した。それによるとコース内に障害物があり(道路左脇に背の低いポールが残されていた)、それに対する安全対策が予定通りに取られていなかったとのことだ。
さらにはフィニッシュ手前数百メートルで、将棋倒しが起こった。ここではアルベルト・コンタドールの山岳アシスト、ロベルト・キセロフスキーが、アスファルトに肩を打ち付ける番だった。そして、この大きな落車が、集団を完全に切り裂いた。あらゆる難事を潜り抜けて、希望に満ちたフィニッシュラインへと突っ込んでいけた選手は、20人にも満たなかった。その中でも、アシストと共に前に生き残れた幸いなるスプリンターは、エティクス・クイックステップのメールスマンだけだった。
そのアシスト役、ゼネック・スティバールは、実に効果的な発射台役を務めた。ただメールスマンは、第2ステージで生まれて初めてのグランツール区間勝利を手にした勢いそのままに、全速力でスプリントを切るだけでよかった。急速に追い上げてくるファビオ・フェリーネを、巧妙に退けて、2つ目の栄光を手に入れた。おかげでポイント賞でも単独首位に躍り出て、緑色のジャージも颯爽と肩に羽織った。
総合2位から4位まで、つまりアレハンドロ・バルベルデ(区間6位)、クリス・フルーム(14位)、ナイロ・キンタナ(13位)の3人も、見事に落車分断を避けて、ゴールスプリントに加わった。改めてスカイとモヴィスターのチーム力の高さが浮き彫りになり、また「マイヨ・ロホ候補」の3人の調子の良さが証明された。そのほかの優勝候補たちや、総合上位選手たちも、そろって「ゼロ秒差」で1日を終えた。
それにしても、あまりのカオスに、一時はバルベルデがマイヨ・ロホ……!なんていう情報も錯綜したほど。山頂フィニッシュを除く通常ステージでは、ゴール前3km以内に発生した落車・メカトラブル等でタイムを失った場合、事故発生時に所属していた集団のゴールタイムと同じ記録が与えられることになっている。当然、ほんの少々遅れて30番目にフィニッシュラインを越えたアタプマにも、メールスマンと同じゴールタイムが与えられ、ジャージは守られた。
<選手コメント>
■ジャンニ・メールスマン(エティックス・クイックステップ)
「正直言って、2勝目のことは考えていなかった。1勝したいという夢はあったけれど、その数日後に2つ目を勝てるなんて、信じられない。いい気分だよ。ぼくを信じてくれたチームにありがとうを言いたい。「いい仕事」を超えた働きで、あんなリードアウトをしてくれた。誰もに、とても感謝している。
これまでのブエルタでも、ぼくは強かった。けれど今年はブエルタに照準を合わせてきた。90%ではなくて、100%の力を出せるように。
残りのブエルタは、無理せず走るつもり。ステージの最後の方に登場する山岳では、グルペットで満足だ。自分に可能性のあるステージでは100%のつもりで、今のところ2つのうち2つとも勝つことができた。だから、もうストレスはない。(チームメートの)ジャンルーカ・ブランビッラやダヴィド・デラクルスも調子がいいし、ここまでですでに2勝していることに、モチベーションを感じているようだ」(出典:レース主催者の公式リリースより)
■ダルウィン・アタプマ(ビーエムシー レーシングチーム)
「今日は、夢だったマイヨ・ロホを身につけて走ることができた。うれしすぎて、強い感情が湧いてきて、どのくらいうれしいか、自分で感じることはできても、言葉で言い表すことができないよ。沿道のファン、特にコロンビア人たちの声援は信じられないほどだった。コロンビアではスポーツが人気で、特に自転車は大人気。だから、スペインに住むコロンビア人たちにとっては、この興奮をぼくと共有できる、というのが本当にスペシャルなことなんだろうと思う。
チームはマイヨ・ロホを着続けられるようにぼくを守り、すばらしい働きをしてくれた。幸運なことに、逃げに2人の選手を送り込むことができたから、先のステージのために少し力をセーブすることもできた。チームはとても強いし、ぼくも調子がいいし、明日ジャージをキープできる可能性は大きいと思う。自転車レースは何が起こるかわからないけれど、タフなステージになったとしても、自分のフォーム(調子)と、今もっているいい感覚に自信があるんだ」(出典:チームからの公式リリース)
■ティアゴ・マシャド(チーム カチューシャ)
「レース前のミーティングで、ホセ(・アセヴェド監督)が逃げを狙うように言ったんだ。雨の中でトライしてみたけれど、たった一人の選手しかついてきてくれなかった。進める限り前には進んだものの、山道のあとは強い向かい風だった。全力を尽くしつつも、自分のリミットは超えないようにしていた。これから3週間のレースだからね。雨の日にメイン集団で走るのが好きではないんだ。緊張感があって、クラッシュが起こりがちだから、逃げで走っているほうが穏やかなんだ。もしチームがOKなら、またトライしてみたいと思う。長いシーズンを走ってきたけれど、ここでまた自分をベストの状態に持っていくことが目標だよ」(出典:レース主催者の公式リリースより)
コメント翻訳:寺尾真紀
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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