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とてつもない速さで37kmを駆け抜けて、クリス・フルームが個人タイムトライアルを制した。今大会2つ目の区間優勝であり、なにより総合首位ナイロ・キンタナから、一気に2分16秒も奪いとった。今大会最後の難関山岳ステージを前に、総合での遅れは、わずか1分21秒でしかない。アルベルト・コンタドールは、エステバン・チャベスとの関係を5秒遅れから1分11秒リードへと好転させ、総合3番目の位置に滑り込んだ。
一見「ほぼ」平坦に見えながらも、難しいコースだった。海からは常に風が吹きつけ、アップダウンは予想以上にきつく、極めてテクニカルなカーブがいくつも潜んでいた。まずは今季のベルギー選手権個人タイムトライアルで上位2位を独占した2人、ヴィクター・カンペナールツとイヴ・ランパルトが、それぞれに独走能力と、なにより風に対する強い耐性を証明した。チームメートのロベルト・ヘーシンクの区間勝利に大いに尽くしたカンペナールツは48分20秒、ジャンニ・メールスマンの区間2勝に貢献したランパルトが47分59秒という好タイムを叩きだした。暫定首位の座はその後47分57秒フィニッシュのトビアス・ルドビグソンに移行し、さらにヨナタン・カストロビエホが47分17秒でトップタイムを塗り替える。
間違いなく素晴らしいタイムだった。スペイン国内選手権では個人TTですでに2勝を上げてきた。ブエルタでは過去2回、チームTTのおかげで、マイヨ・ロホを身にまとったこともある。そしてついに、バスク生まれのタイムトライアルスペシャリストが、生まれて初めてのグランツール区間勝利を手にするのかもしれない……と期待された。しかし、8月のリオで、惜しくも4位でメダルを逃したカストロビエホは、その時の3位にまたしても夢を砕かれた。161人中160番目に出走したクリス・フルームに、あっさりとタイムを更新された!
46分33秒。それまでの記録を44秒も大幅に上回り、クリス・フルームが区間勝利をさらい取った。2つある中間計測地点をトップで駆け抜けたのはもちろん、ほんの半分ほど走った段階で、2分前に出走したエステバン・チャベスを追い抜いたほどの猛スピードだった。
肝心の総合首位ナイロ・キンタナに対しては、12.5kmの第1計測地点ですでに46秒差をつけた。24.3kmの第2計測地点で、差は1分33秒に広がった。37kmのフィニッシュラインでは、2分16秒もの大きなリードを奪っていた。マイヨ・ロホ姿の最終走者も、区間11位と、決して遅かったわけではない。ただこの日のクリス・フルームが、速すぎたのだ。おかげで前夜の時点で3分37秒あった総合の遅れは、1分21秒にまで縮まった。
ちなみに「タイムトライアル前に少しでもフルームからタイムを稼いでおきたい」と連日加速を繰り返し、ついに第15ステージの奇襲を成功させたナイロ・キンタナが、あの日のクリス・フルームに押し付けたタイムは2分43秒(ボーナスタイム6秒含む)。あれさえなければ……、タイムトライアルの結果、クリス・フルームが1分22秒リードで逆転マイヨ・ロホに躍り出ていたはずだった。
前日まで総合3位と4位についていた2人も、クリス・フルームから新たに距離を開けられた。つまり2位クリス・フルームと3位エステバン・チャベスのタイム差はわずか20秒で、2位と4位アルベルト・コンタドールの差は25秒と、余裕で逆転圏内にいたのだが、タイムトライアルの終わりに、望みはほぼ断ち切られた。クリス・フルームからの遅れは、3位アルベルト・コンタドールが2分22秒、4位エステバン・チャベスが3分33秒と大きくなった。
ただアルベルト・コンタドールに関しては、総合4位から3位へとジャンプアップし、ついに表彰台圏内へ飛び込んだ。第7ステージで落車し、大会中盤は苦しめられた。しかしグランツール7冠の大チャンピオンは、たとえ「表彰台入りが望みではない」と口にしながらも、着実に総合順位を上げてきた。総合4位チャベスに対するリードも、きっちり1分11秒確保した。首位ナイロ・キンタナとの差に関しても、4分02秒から3分43秒へと、ほんのわずかながら縮めている。
またアンドリュー・タランスキーがひとつ順位を上げ、総合5位に食い込んだ。ただ、すでに総合首位まで7分12秒遅れ、表彰台圏内まで3分29秒遅れだから、上位4人の居場所を脅かすことはなさそうだ。また前日の時点で総合7位につけていたサムエル・サンチェスは、この日フィニッシュ7km手前で落車し、大きくタイムを失った。総合では一気に12位に陥落した。
かつてないほど熾烈な戦いが繰り広げた2016年ブエルタは、5つの峠が待ち受ける第20ステージで、クライマックスを迎える。総合は首位ナイロ・キンタナ、2位クリス・フルーム1分21秒遅れ、3位アルベルト・コンタドール3分43秒遅れ、4位エステバン・チャベス4分54秒遅れと並ぶ。果たして今大会最後の難関山岳ステージで、クリス・フルームは1分21秒差を逆転できるだろうか?エステバン・チャベスは再逆転で、今年2度目の表彰台に飛び乗れる?
同じく最終盤にサプライズが待ち受けていた2016年ジロでは、大会最終盤の2日間で、ヴィンチェンツォ・ニーバリが4分43秒もの遅れをひっくり返した。第19ステージの時点ではエステバン・チャベスに対して44秒遅れで、第20ステージの終わりには同じ人物に対して52秒リードだったから、1日で1分36秒をむしり取ったことになる。
またクリス・フルームがツール・ド・フランスで初めて覇権を握った日、すなわち2013年第8ステージは、区間2位以下に51秒もの大差をつけてステージを制した。肝心の2位はチームメート(リッチー・ポート)だったから……、3位アレハンドロ・バルベルデ以下のライバルには、1分08秒以上もの差を押し付けている。また2015年の第10ステージで区間勝利+マイヨ・ジョーヌを成し遂げた時には、やはり区間2位がチームメートのポートで、3位ナイロ・キンタナには1分04秒差をつけた。また2015年ツールは、今大会と同様に、区間上位3人にはボーナスタイムが配分された(10秒、6秒、4秒)。
つまり逆転は不可能ではない。もちろんフルームの周りを固めるアシストの顔ぶれは、ツールと同じではない。
<選手コメント>
■クリス・フルーム(チーム スカイ)
ぼくは昔のことをくどくど振り返って、「もしもあのときこうしていたら」と考えるタイプの人間ではないんだ。とにかく今日の結果には満足している。物事はただ、進むべくように進んでいっただけ。ぼくは前を向き続けるし、マドリードまでひたすら戦い続ける。
明日のステージに向けて、チームは本当に高いモチベーションを抱いている。タイムトライアルだったから、チームメートの大部分が緩めの1日を過ごした。みんなそれほど力は尽くさなかった。このブエルタは驚きにあふれているから、もしかしたら、明日はまた新たなサプライズがあるかもしれない。特にティンコフやオリカ・バイクエクスチェンジのようなチームには注意だ。彼らもまた、タイムを奪いたいと狙っているからね。きっと爆発的な戦いが繰り広げられるだろう。
まだ戦いは終わっていない。明日は最終峠だけじゃないと思う。だって4500m以上もの上りが待ち受けているんだから、スタート直後から戦いが勃発するだろう。たくさんの筋書きが想定できる。どの動きに反応し、どの選手に付いていくのか、ぼくらは正しい決定を下していかなければならない。(レース公式リリースより)
■ナイロ・キンタナ(モヴィスター チーム)
ぼくは冷静だ。自分の足の調子がいいことを分かっているから。今日のTTは予想していた以上に風が多かった。クリスはすごい走りを見せたけれど、でもいまだにぼくは、1分21秒のリードを有している。足はあるし、チームにも大いなる自信を持っている。アルベルト・コンタドールより、むしろ、オリカ・バイクエクスチェンジの選手たちが攻撃してくるだろうと予測している。だって表彰台の場所を取り戻したいはずだから。その場合、真っ先に防衛に回るべきはアルベルトだ。ぼくはアルベルトの動きに警戒していく。だって彼には1インチたりとも与えてはならない。切れ者の策士だからね。それからクリスの動きにも。彼はすごく強い。でも、マイヨ・ロホを守り通す準備は、できている。(レース公式リリースより)
■アルベルト・コンタドール(ティンコフ)
いいリズムでスタートしたけれど、最終盤に入ってから、高いワット数を保ち続けるのがちょっと苦しくなった。序盤にすごい向かい風が吹いていて、そこでチャベスを引き離さなきゃならないと考えたから。もしかしたら、あれが、終盤に影響したのかも。まあ問題はないさ。フルームは素晴らしいTTを実現させて、ぼくはこれ以上はできないほど力を尽くしたんだから。ブエルタ開幕時に、こんなシナリオは望んではいなかった。でもぼくは、こんな風に走るしかなかった。明日はきっと動きがあるだろう。チーム スカイは総力で攻撃しなきゃならないし、ぼくらはそれを利用していく。フォルミガルのステージ(第15ステージ)はかなり特殊な状況だった。単にぼくだけが引き起こしたのではなく、キンタナもまた、逃げを作ろうと企んでいたから。自分が望んでいるだけの足がない場合、時には、代替策を見つける必要があるのさ。見応えあるステージだったし、今年のブエルタは、あのステージのおかげで人々の記憶に残り続けるだろう。明日はぼくら全力を尽くすよ。(レース公式リリースより)
■エステバン・チャベス(オリカ・バイクエクスチェンジ)
厳しいTTだった。コース半ばですでに、フルームに追いつかれてしまった。予想はしていたよ。だって彼は素晴らしいチャンピオンだし、五輪メダリストだからね。コンタドールからどの程度タイムを失ったのか、今の時点では把握していないんだけれど、でもまだ戦いは終わってはいない。明日は厳しいステージだ。でもぼくのような、体重が60km以下の選手にとっては悪くないんだ。最終フィニッシュを迎えるまで、レースは終わらない。チーム一丸となって、ぼくらはベストを尽くす。まだまだ埋めるべき標高差はたくさん残っている。表彰台に登るために全てを尽くす。(レース公式リリースより)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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