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【イル・ロンバルディア プレビュー】秋の気配に包まれた北イタリアで行われる、1日限りのクラシックレース
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか写真:今年から難易度は大幅に増したレースには、実力者たちがズラリと並ぶ。
ギザッロ教会の鐘が鳴り響くと、誰もが、熱くて長かったシーズンの終わりが近づきつつあることを知る。紅葉にはまだ少々早いけれど、すっかり秋の気配に包まれた北イタリアで、10月1日の土曜日に、史上110回目の「落ち葉のクラシック」が開催される。
コモ湖からベルガモまでの、241㎞の長旅。つまり昨大会とはスタート地とゴール地が入れ替わり、2年前と同じ場所にフィニッシュラインが引かれる。ただし途中通過するルート自体は違う。大きく異なるどころか……、難易度は大幅に増した!
自転車界に燦然と輝く5大モニュメント(ミラノ~サンレモ、ツール・デ・フランドル、パリ~ルーベ、リエージュ~バストーニュ~リエージュ、イル・ロンバルディア)の中で、秋の最終戦こそが、最もヒルクライマー向きのクラシックレースである。過去3大会も例に漏れず、ホアキン・ロドリゲス、ダニエル・マーティン、ヴィンチェンツォ・ニーバリというプロトン屈指の山男たちの手に渡ってきた。なにしろ峠ひとつひとつの登坂距離が長く、勾配はとてつもなく厳しい。累積標高も去年が3500m、一昨年が3400mと多かった。しかも2016年大会は、累積標高は一気に4400mまで引き伸ばされた。
特にコース後半に、これでもかというほど起伏が詰め込まれた(ちなみにロンバルディア伝統の上りマドンナ・デル・ギザッロは、前半64.7㎞地点に登場する)。コース折り返し地点のヴァリコ・ディ・ヴァルカーヴァは、登坂距離が11.65㎞と長い上に、平均勾配8%、最大17%というかなりの激坂だ。80年代から2011年まで大会に定期的に登場し、数多くの犠牲者を生み出してきた「恐ろしき壁」が、今年は最初のふるい分けを行う。しかも標高1336mの山頂を越えると、テクニカルで急な下り坂が20㎞近く続く。路面が濡れていたり、しっとり湿気を含んだ落ち葉に覆われていた場合は、ハンドル捌きに極めて集中せねばならない。
その後は息つく暇さえない。下りきった地点から60kmに渡って、立て続けに4連続アップダウンが襲いかかる。とりわけ初登場のサンタントーニオ・アッバンドナート(2つ目、登坂距離6.5㎞、平均勾配8.9%、最大15%)とミラゴロ・サン・サルヴァトーレ(3つ目、8.7㎞、7%、11%)はいずれも道幅は狭く、勾配も申し分なくキツい。おそらくこの連続登坂で、勝負が大きく動くと予想される。そして4つ目のセルヴィーノ(6.9㎞、5.4%、9%)を登り終えたら、ヘアピンカーブの下りをこなして、フィニッシュの地ベルガモへ――。
ラスト16㎞ほどで道はほぼ平坦になるが、しかし、まだ終わりではない。中世の名残を色濃く残すベルガモ・アルタ地区へ向かって、最後の爆発的な上りが待っている。ゴール前4.5㎞から約1.2㎞の坂道は、最大勾配12%に加えて、荒れた石畳ゾーンも2ヶ所あり!さらにはゴールまでの残り3.5㎞はクレイジーなほどの坂道で、カーブを抜けた直後に細い中世の門をくぐる……という危険も待ち構えている。ちなみに2年前はラスト500mで抜けだしたダニエル・マーティンがそのまま優勝をさらい取り、すぐ背後ではレース最後のカーブにつっこんで、集団落車が発生するというアクシデントも発生している。
昨季UCIワールドツアー最終戦の立場を取り戻したイル・ロンバルディアは、今季は4年ぶりに「伝統の」土曜日開催に立ち戻った。一方ではおそらく史上初めて、イル・ロンバルディアは世界選手権よりも早く開催される。とりわけ虹色争奪戦が秋開催に移行した1995年以来、このイタリアの伝統レースは、しばし真新しいアルカンシェルジャージのお披露目式となってきたものだ。過去10年でイル・ロンバルディアに乗り込んでこなかった世界チャンピオンは、2011年のマーク・カヴェンディッシュと、2015年のペテル・サガンというスプリンタータイプの2人だけ。2006年には世界チャンピオンのパオロ・ベッティーニが、イル・ロンバルディアも勝ち取っている。残念ながら2016年大会は、開催時期の関係で、ほやほやの世界王者を迎え入れることはできない。
また、ディフェンディングチャンピオンのヴィンチェンツォ・ニーバリも、五輪時の落車故障の影響で、残念ながら出場を回避した。それでも2014年覇者マーティン、2012・2013年ホアキン・ロドリゲス(五輪限りでの引退をほんのちょっと撤回して!)、2011年オリヴァー・ツァウグ、2009・2010年フィリップ・ジルベール、さらに2007・2008年覇者のダミアーノ・クネゴは意気揚々と大会に乗り込んでくる。
ジュリアン・アラフィリップやティム・ウェレンス、ハルリンソン・パンタノ、ディエゴ・ウリッシ、ルイ・コスタ、ミハウ・クフィアトコフスキー、ワウテル・ポエルス等々のアップダウン巧者は、もちろん大挙して詰めかけてくる。さらには、グランツールライダーが狙える数少ないワンデークラシックに、しかも例年よりはるかに山の多いイル・ロンバルディアに、たくさんの強豪が名乗りを上げた。
その代表格がアルベルト・コンタドールだ。根っからのステージレーサーで、グランツール総合優勝7回を誇るエル・ピストレロは、人生4度目のイル・ロンバルディアスタートラインに立つ。過去最高は2012年大会の9位。また2015年ブエルタ覇者ファビオ・アル、2016年ツール総合2位ロマン・バルデ、2016年ジロ総合2位&ブエルタ総合3位エステバン・チャベス、ジロ総合2位2回リゴベルト・ウランさらにはバウケ・モレマ、ロベルト・ヘーシンク、ウィルコ・ケルデルマン、ワレン・バルギル、トム・デュムラン等々、と近年の3大ツール総合争いを盛り上げてくれたる役者たちがズラリと並ぶ。
ロドリゲスの進退は未だはっきりしていない状況だが、2011年覇者ツァウグにとっては現役最後のレースとなる。また今季限りで現役引退を宣言しているライダー・ヘシェダル、フランク・シュレクも、もしかしたら、見納めとなってしまうのかもしれない。
日本からは、初夏にジロ・デ・イタリアを走り切ったNippoヴィーニファンティーニ所属の山本元喜も、参戦する予定だ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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