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【パリ~トゥール プレビュー】フランスの庭園とも呼ばれる美しきロワールの渓谷を舞台に、スプリンターたちの激戦に刮目せよ!
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか写真:舞台はフランスの庭園とも呼ばれる美しきロワールの渓谷
世界屈指の俊足が、スタートラインにずらり居並ぶ。ちょうど1週間前のイル・ロンバルディアと同じあだ名――落ち葉のクラシック――を分けあい、同じく今年で記念すべき第110回目を祝う歴史と伝統あるフレンチクラシックは、しかしイタリアのそれとはタイプをまるで異にする。2016シーズン最後のクラシックには、しばし「スプリンターズ」との枕詞がつけられる。そう、フランスの庭園とも呼ばれる美しきロワールの渓谷を舞台に、平坦大好きなスプリンターたちが猛スピードの戦いを繰り広げるのだ!
ただし、いつも大集団スプリントで締めくくられるのかというと、実はそうでもなかったりする。壮観なスプリント勝負が見られたのは、過去10大会でたったの3回だけ。終盤のアタックで勝利が決まったのが4回で、さらには序盤からのとてつもない大逃げがなんと3回も!
これぞ10月のレースの恐ろしさ。スプリンターチームは隊列を組んで追走を仕掛るけれど、いつだって、ひどく苦労させられる。シーズン中の故障や疲弊がたたって、完璧なトレインメンバーを連れてくることはそもそも不可能だ。どうにか大会にやってきたアシストたちも、長い長いシーズンの終わりに、みんなすでに抜け殻のような状態だったりする。開催委員会が「あえて」ワールドツアー登録をしないせいで、小さなコンチネンタルチームもたくさん乗り込んでくるから、そんな彼らはとてつもなくレースを引っ掻き回し、統制の取れた追走には協力しようともしない……。
それでも2016年大会は、大方の予想によると、大集団スプリント可能性が極めて高い。真っ先に上げられる理由は、いつにも増して、スプリンター贔屓のコース設定であること。例年は最終盤に3連続で登場する短い坂道が、今年は1つに減らされたのだ。プロトンはパリの西80kmのドルーからほぼ真っすぐに南下して、風の強い平地を突き進む。パンチャーたちの勝負地、つまりクロシュー坂→ボーソレイユ坂→レパン坂のアップダウンシリーズは姿を消し、ゴール前25kmにクロシュー坂がひとつだけ。252.5kmの果てに、伝統のグラモン大通りで――路面電車の設置で、かつての2600mから800mにまで短縮されたけれど――、栄光のフィニッシュを迎える。
さらにはスプリント勝負へと持ち込むべく、次の条件が揃っている。1)いつもは世界選後の開催だが、今年は世界選手権ロードレースのちょうど1週間前である。2)その世界選手権は、平坦なスプリンター向きである。3)世界選で優勝を狙うスプリンターたちが大量に乗り込んでくる。4)その一部は本番のアシストを引き連れてくる。
たとえば、強風+平坦のドーハで大暴れが予想されるベルギー代表チームからは、2005年世界覇者トム・ボーネン&2016年五輪金グレッグ・ヴァンアーヴェルマートを筆頭に、9人中7人がパリ~トゥールに出走する。ちなみにエティックス・クイックステップにはボーネンの他にも、昨大会覇者マッテーオ・トレンティンやら、トラックのオムニアム世界王者フェルナンド・ガビリアも同居しているから、相変わらず「船頭」が多い状態で……。
世界選に向けて露骨に照準を合わせてきたのがオリカ・バイクエクスチェンジだ。元U23世界王者マイケル・マシューズと元ジュニア&U23世界銀カレブ・イーウェンというオーストラリア代表のエーススプリンター2人と、今春パリ~ルーベを制した平地巧者マシュー・ヘイマン、発射台ミッチェル・ドッカーと、まさしくパリ~トゥールを走りながら最終調整を行ってしまう勢いだ。
一方で大切な本番ギリギリ直前に、何がなんでも「俺が代表エースだ」とアピールしなければならない選手も存在する。例のフランスの2人、アルノー・デマールとナセル・ブアニである。ライバル、と言うより、むしろ犬猿の仲。「あいつにだけは負けたくない」という意識が互いに強すぎて、最近も10月2日にブアニがスプリント勝利を決めると、その2日後にデマールがスプリントを勝った。おそらくパリ~トゥールでも、この2人はタイマンをはるのだろう。ちなみに代表メンバーとしてドーハに連れていける所属チームのアシストは、それぞれ3人ずつ。パリ~トゥールにブアニが3人全員連れてくるのに対して、デマールは2人しか連れてこない。
同じく「果たして誰がスプリントリーダー?」という状況のドイツ代表からは、アンドレ・グライペルだけがパリ~トゥールを選んだ。もちろん2011年世界チャンピオンのマーク・カヴェンディッシュ、2016年夏季五輪オムニウム金メダリストのエリア・ヴィヴィアーニもフランスで最終調整を行うし、9月末にカヴをスプリントで退けたことで急速に有力候補として台頭してきたサム・ベネットにも、大いに視線が集まる。いや、もしくは、まだ誰も知らぬ若きスプリンターが、急速に台頭してくるかもしれない。
もちろん、元大会覇者のマルコ・マルカトや、逃げ巧者シルヴァン・シャヴァネルなどが、果敢なアタックで戦いを引っ掻き回してくれるはずだ。もしくは代表「補欠」のブライアン・コカールが、並み居るアルカンシェル候補をあざ笑うような見事なスプリントを披露するかもしれない。
グラモン大通りが大いにわき、プロトンが静かに走り去っていった後、欧州での自転車シーズンは文字通り幕を閉じる。自転車界一行は秋のヨーロッパを飛び出すと、中東を経由して……いよいよ日本へと乗り込んでくる!
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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