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【パリ~ルーベ プレビュー】ボーネン最後の日。石畳路は栄光の花道か。それとも次世代王者が強制的に幕を引くのか!?
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか出場13回、優勝4回、2位2回、3位1回。「北の地獄」と呼ばれる石畳の悪路を心から愛し、輝かしい成績を築き上げてきたトム・ボーネンが、2017年パリ~ルーベの夜に自転車を降りる。本人が願うのはただひとつ。史上最多、5つめの石畳トロフィーを天に突き上げて、16年の長きに渡るキャリアにサヨナラを告げること。
2005年には世界チャンピオンに上り詰め、2007年はツールのマイヨ・ヴェールも身にまとった。ツール・デ・フランドル3勝=史上1位タイ、ヘント~ウェヴェルヘム3勝=史上1位タイ、E3ハーレルベーケ5勝=史上1位......と、フランドルクラシックにおいては過去10年以上にもわたって絶対的王者の座を守り続けてきた。こんなボーネンが、現役最後の年に強く望んだのは、ルーベの史上最多優勝回数を更新することだった。
「ルーベ競技場でプロ人生に終止符を打ちます。僕にとってこれ以上の方法はないでしょうね。僕にとって最後のレースであり、最大の目標です」
開催委員会もボーネンに敬意を大いに払う。レース前日のチームプレゼンテーションでは、稀代の石畳王を大いにフィーチャーする。120km地点のヴェルタン石畳では、風車の4枚の羽根に、それぞれボーネンの各勝利を想起されるデコレーションがほどこされる。
写真:トム・ボーネン
なにより、去りゆく石畳王に相応しい、難易度の高い石畳ゾーンが用意された。2017年大会の全長257kmのコース上に散りばめられたパヴェゾーンは全部で29カ所、通算55km。これはゾーン数においても、通算距離においても、過去10年で最も高い数字だ。当然ながら、石畳巧者にとっては有利となり、それ以外の選手にとっては、苦悩の時間が長くなることを意味する。
特に30年ぶりに登場する26番セクター(最初から4番目)のヴィスレー~ブリアストルは、全長3kmと極めて長い。農業高校の生徒たちが石畳修復のために大いに力を尽くしてくれたそうだが、たとえ石畳コンディションがよくとも、最終盤は「下り」。つまり、ただでさえ攻略は難しそうだ。
第19番石畳セクター、つまり11番目に登場するトゥルエ・ダランベール(全長2.4km)には、今回も開催委員会は5つ星をつけた。伝説的な勝負地として名高く、鬱蒼とした森を横切るまっすぐの一本道は、びっしりと下草に覆われておりひたすら滑りやすい。2017年はどちらかといえば「ドライ」な戦いになると噂されているが、ここだけは湿気が石畳を危険な状態に保っている。しかも、とびきり石畳の状態も素晴らしく(=酷くガタガタ)、ファンがびっしりと詰めかけるせいでチームカーの行き場もない。ここでメカトラor落車の犠牲になることは、勝負の終わりを意味するほどだ。
レース最終盤の勝負地は、おなじみ、第4番石畳セクターのカルフール・ド・ラルブル。フィニッシュまで17km地点に待ち構える全長2.1kmの石畳には、選手が通過する隙間もないほどにファンが詰めかけ、バーベキューとビールの匂いが充満する。追い越し不可能のこのゾーンで、勝敗を大きく左右する落車やハプニングが起こることもしばしば。
それにしても、パリ~ルーベは、石畳だけの勝負ではない。スタートから95km地点までは完全にアスファルトの戦いだし、最終盤のヘム(ゴール前8km)とルーベ石畳(1km)の間で、勝利へのアタックが決まることも多い。なにより自転車競技場の攻略法を知らねばならない。なにしろ21世紀に入って以来、かれこれ7回の少数スプリント勝負に持ち込まれてきた。昨年も4人のスプリントが繰り広げられ、ボーネンは2位に泣き、ヘイマンが初めての栄光を満喫している。
2017年4月9日の夕暮れ時に、果たして、新たな歴史は作られているだろうか。ボーネンが史上最多5つめの石畳トロフィーを手にして、大団円で2017年北クラシックは幕を閉じるのか。
とにかく若き才能たちは、それぞれにボーネンに敬意を払いつつ、ボーネンの歴史的勝利さえ願いつつ......(たとえばサガンは「ボーネンが勝ったら嬉しいだろうなぁ」と語る)、同時に世代交代を力づくで成功させたいと願っている。ペーター・サガンにラルス・ボーム、ジョン・デゲンコルプにグレッグ・ヴァンアーヴェルマート、アレクサンドル・クリストフ、エドヴァルド・ボアッソンハーゲン等々と名実揃えた若き役者が、コンピエーニュのスタートラインに詰めかける。
石畳の地獄を抜けた後には、天国への門が開いている。カンチェッラーラが去り、ボーネンが去りゆくこの春に、ひとつの時代が終わり、そして新しい時代が始まる。
■パリ~ルーベ放送情報
2017年4月9日(日)午後05:50~深夜 00:30 生中継&LIVE配信
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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