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写真:初めてマイヨ・ジョーヌを着たアル
「言い訳はしない。僕には単純に脚がなかった。バルデとアルにはおめでとうを言いたい」(フルーム、フィニッシュ後インタビューより)
クリス・フルームが白と水色のジャージに着替えた。チームバスに詰めかけた大量の記者たちの前で、いつも通り紳士的な態度で……、上記のコメントを3度繰り返した。ロメン・バルデが区間勝利を手に入れ、ファビオ・アルが総合首位に駆け上がった後方で、フルームの足は少しだけ止まった。マイヨ・ジョーヌ着用日数は51日で一旦止まり、本人によれば「戦いは今まで以上にオープン」になった。
細かい雨の降るポーから、200kmを超える山岳マラソンコースへと走り出した。12選手が逃げの切符をもぎ取った。行く手には6つの峠が待ちかまえていたというのに、スプリンターに区分される2人も、大胆に前方へと飛び出した。激坂過多の第9ステージですでに「サガン風」を試みたマイケル・マシューズと、なんとマイヨ・ヴェールを着用するマルセル・キッテル本人である!
もちろんも2人にとっての勝負地は、道の果ての山頂フィニッシュではなく、94km地点の中間スプリント。冷たい雨にも負けず、マシューズが先頭通過20ptをさらい取り、キッテルも2位通過17ptを懐に収めた。
それにしてもマシューズは、活力がありあまっていたようだ。この日3つ目の登坂口で、緑ジャージが静かに脱落していったにも関わらず、アルデンヌ巧者のオージーは元気よくエスケープを続けた。可愛い赤玉ジャージを身にまとうチームメート、ワレン・バルギルのために、「他人のポイント潰し」の山頂スプリントに打って出た。2級アレス峠では2位通過、1級マンテ峠では山頂スプリントで首位通過!
ついでに、マンテ峠からの長い下りでは、猛スピードのダウンヒルさえも敢する。単独アタックか……と思われたが、実は、単にいつもの「グルペット」ペースで下っていただけらしい。下り切った時点で後ろを振り返り、誰もついてこないことに気が付くと、減速して他の10人の合流を待った。さすがに次の峠に差し掛かると、無理はせず、後方へと下がっていった。
エスケープは一時、6分15秒のリードを許された。ただしラスト約40kmからの超級ポール・ド・バレス→1級コル・ド・ペイルスルド→2級ペイラギュードの3連続登坂へと突入すると、急速にタイム差は縮まっていく。バレスの山道でトーマス・デヘントが独走を試み、さらにラスト33km、ひらりと追いついてきたスティーブン・カミングスが単独で逃げを続行するも、もはや吸収は時間の問題だった。
後方ではマイヨ・ジョーヌ親衛隊が、高速テンポを刻んでいた。スペイン国境にほど近い山々では、バスクの旗が風にたなびき、懐かしいオレンジ色のジャージがあちこちで目についた。元エウスカルテル所属のミケル・ニエベとミケル・ランダが牽引するチーム スカイの山岳列車は、いつも以上に猛威を振るった。
あまりに奮闘しすぎて、バレス山頂からの下りでは、ニエベが道を外れ、つられてフルームとアルがキャンピングカーの隊列に突っ込みそうになったことも……。2年連続で山岳ステージを仕留めてきたカミングスは、フィニッシュまで9kmを残して、ついには先頭から引きずり降ろされた。
ベテラン英国人を飲み込む前に、バスク人に引かれた英国列車は、すでにナイロ・キンタナを振り払っていた。さらにペイルスルドの山頂まで数百メートルで、アルベルト・コンタドールも遅れた。前日も含め3度の落車を喫したグランツール総合7勝の王者は、「アルプスを待つ」との慎重な発言とは裏腹に、1つ手前のバレス峠では、山岳賞バルギルの加速に反応する姿も披露していたのだけれど。
最終峠ペイラギュードの麓でニエベが最後の猛ダッシュを行うと、代わってラスト500mまでは、ランダが見事な献身を尽くした。ジョージ・ベネットの抜け駆けを、きっちりと封じ込めた。
「チームメートは今日もまた、素晴らしい仕事をしてくれた。ただ僕自身が、それを生かすことが出来なかった」(フルーム、フィニッシュ後インタビューより)
その直後だった。すでに214.1kmの山道を走り抜け、最後の400mに差し掛かった。ツール初登場の、最大20%超の激勾配ゾーンが、フルームの脚を止めた。かつて英国諜報員007の映画の舞台ともなった、山岳飛行場の滑走路を利用して、勢いよく飛び立つことはできなかった。
「あまりに暴力的で、僕にはあまりに厳し過ぎた」(フルーム、フィニッシュ後インタビューより)
写真:逃げた選手の中で最後まで残ったのはカミングス
マイヨ・ジョーヌがぎこちなくペダルを回す一方で、アルは勢いよく仕掛けた。同じ1990年生まれのバルデも、「チームの地元」第9ステージで勝てなかった悔しさを晴らそうと、ダンシングの脚に力を込めた。その第9ステージを制したリゴベルト・ウランもまた、恐るべき追撃を見せた。そして標高1580mの山頂で、笑顔で右手を上げたのは、バルデだった。
「こうして手を上げられたことが、本当に嬉しい。今季はまだ1度も手を上げられていなかったし、シーズンで最も厳しいレースで、手を上げられたことで、重荷がひとつ減った。おかげでここからひたすら総合争いだけに集中することが出来る」(バルデ、公式記者会見より)
昨ツール総合2位が「手を上げる=勝利」の機会を見事にモノにし、肩の荷を半分下ろした一方で、バルデの2秒後に、区間3位に滑り込んだアルは、フィニッシュラインを越えた瞬間に後ろを振り返った。
「電光掲示板で成績を見ようと後ろを振り返ったら、フルームが少し後方にいるのが見えた。急いで頭の中でボーナスタイムやなにやら、2、3の計算をした。もしかしたらマイヨ・ジョーヌが取れるかもしれないぞ、と考えた」(アル、公式記者会見より)
この日の朝、フルームからの遅れは18秒だった。フィニッシュ地では「ペダル」でディフェンディングチャンピオンを20秒突き放し(バルデからは22秒遅れ)、ボーナスタイムも4秒手に入れた。つまり6秒差で立場を逆転し、イタリア国内チャンピオンは、黄色いジャージに着替える権利を勝ち取った!
「正式に成績が告げられた時、ものすごい感動を覚えたよ。アスリートというものは……、少なくとも僕は、自分の手元に最高の結果を引き寄せられるはずだと常に信じているんだ。そして僕は上手くやったのさ」(アル、公式記者会見より)
2015年にジロのマリア・ローザを1日着用し(総合2位)、同年の秋にはブエルタでマイヨ・ロホを持ち帰った27歳が、生まれて初めてのマイヨ・ジョーヌに袖を通した。連日の落車とケガに苦しみながらも、自分を精一杯支えてくれたチームメートたちと喜びを分け合いたい、と新たな大会リーダーは真摯に語る。
「簡単なステージではなかった。雨、危険、そして恐怖。だってこの数日、落車が多かったからね。でも、また1日が、こうして終了した。パリまでまた少し近づいた。だから明日以降のことを考える前に、まずはマイヨ・ジョーヌを堪能したいな。明日どう動くべきなのかは、明日の朝、チームバスでのミーティングで考えるよ。もちろん、100kmの短距離コースが、とてつもなく難しい戦いになるだろうことは分かってる」(アル、公式記者会見より)
2015年第4ステージに続いて、人生2度目のマイヨ・ジョーヌ喪失を経験したフルームは、6秒差の2位につける。さらにバルデが総合3位・25秒差、ウランが総合4位・55秒差と続く。ちなみにウランはフィニッシュ手前5kmで補給を受けたとして、総合タイムに20秒のペナルティが課された。キンタナは4分01秒遅れ、コンタドールは7分14秒遅れに大きく後退した。
「明日の100kmのステージも、もちろん下見したから、それが役に立ってくれることを願っている。今日以上に厳しい1日になるだろう。スカイにも誇りと意地があるはずだから、今日の小さな失敗を取り戻しにくるはずだ。アルプス前の最後の大きな山岳ステージだし、なにより今大会の総合候補は、登坂レベルがみんなほとんど一緒だね。だからこそ明日は、大どんでん返しが起こる可能性がある」(バルデ、公式記者会見より)
写真:区間優勝を飾ったバルデ
☐ ツール・ド・フランス 2017
ツール・ド・フランス2017 7月1日(土)~7月23日(日)
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宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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