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写真:区間優勝したバルギル
フランス革命記念日に、大きな打ち上げ花火が上がった。赤玉姿のワレン・バルギルが、「フェット・ナシオナル(ナショナル・デー)」に、フランス人勝利をもぎ取った。誇り高き王者、アルベルト・コンタドールとナイロ・キンタナは攻撃的に走り、守備的に走った総合首位から4位までは、35秒という僅差でぎゅうぎゅう詰めのままピレネー山脈を抜け出した。
わずか101kmの超短期決戦だった。本スタートの瞬間、まるでロケット花火のようにトマ・ヴォクレールとバルギルが飛び出すと、すさまじいアタック合戦が始まった。あまりにも高速で突っ走ったものだから、2日前の落車で体を痛めたヤコブ・フグルサングとアルテュール・ヴィショは、あっという間に後方へと置き去りにされた。リーダー格の2人は、無念にも途中棄権に追い込まれた。
大会序盤から「道を知り尽くした第13ステージで逃げる」と宣言していた新城幸也も、積極的に前方へと打って出た。
「ツールではいまだ、バーレーンは前に誰も送り込めていなかったんです。だから朝のミーティングでも『今日はお披露目だ!』『絶対に逃げに乗るぞ!』とみんなで意気込んでいたんですよ」(新城幸也、フィニッシュ後インタビュー)
フレンチデュオが飲み込まれ、代わりに他のトリオが逃げ出した。そのすぐ背後では、新城が、10人程度の追走集団を猛然と牽引した。ただ、どうやら、タイミングが悪かった。13.5km地点に中間スプリントが待ち構えていたからだ。スプリンターチームが追走組を全て回収にかかり、熱心にポイント収集を続けるマイケル・マシューズが、楽々と4位通過を成功させた。5位にはマイヨ・ヴェールのマルセル・キッテルが続いた。
仕切り直してもう一度。新城と数人の逃げ好きたちは、再びスピードを上げた。またしても10人程度の追走グループを作り上げる。しかし、短距離ステージだからこそ、展開も猛スピード。スタートから25.5kmで、最初の1級峠に登り始めると、2度目のトライもあえなく強制終了させられた。
「登り口で集団がすぐ後ろまで来ていて……。しかも、メイン集団は、とてつもない速さで登り始めたんです。あっという間に抜かれました。なす術はなかったです。くっついていこうとさえ思えなかったほど、すごいスピードでした」(新城幸也、フィニッシュ後インタビュー)
メイン集団の最前列を、その「すごいスピード」で引っ張っていたのがバルギルだ。すでに1人だけとなった先頭を追い上げつつ、山頂まで1km、集団からひらりと躍り出た。山岳賞ポイント収集のためのダッシュだった。
そんな企てをすかさず、コンタドールが利用した。クリス・フルームに言わせれば「大胆にはるか遠くから攻撃できる危険人物」であり、いわゆる奇襲や大逃げの常習犯である。2012年ブエルタ第17ステージでは、50kmもの独走を画策し、逆転優勝をさらい取った。2013年ツールの第13ステージでは、横風で分断を作り出し、ラスト30kmを小さな先頭集団で突っ走った。昨年のブエルタ第15ステージでは、やはり118.5kmという超短期決戦の、スタートからわずか6km地点で奇襲を開始している!そもそも後ろの2つは、フルームを罠にはめるための作戦だった……。
そんな稀代の策士コンタドールの背中には、チーム スカイの英国人の補佐役ミケル・ランダがすぐさま張り付いた。目的は前でリーダーを待つことでも、総合ですでに7分14秒も遅れているコンタドールの脚を使わせることでもない。
写真:スタートで観客に応えるマイヨ・ジョーヌ
「飛び乗るには最高の後輪だと考えた。こういった短く爆発的なステージが得意な選手だから。だから彼についていき、一緒にしっかり協力し合ったんだ」(ランダ、チーム公式リリースより)
ランダの任務はむしろ、後方集団に留まったフルームのライバルを働かせること。さらには逃げ切りでリードを稼ぎ、3週目の総合争いをひっかきまわすこと。なにしろ、この日の朝の時点で、総合ではたったの2分55秒遅れでしかなかった。
「でも他の選手と比べれば、ランダとのタイム差は大きかった。だからアタックを見逃した。全員を追いかけることなんて不可能だから。もっとタイム差の小さな選手を重点的に警戒したんだ」(アル、公式記者会見より)
アレッサンドロ・デマルキを追い抜き、バルギルをいったん振り払うと、スペイン人コンビは先頭で本日2つ目の1級峠へと先頭で挑み始めた。その山道では、メイン集団から、ナイロ・キンタナが仕掛ける番だった。総合で4分01秒もの遅れを喫するも、どうにか挽回を目論むコロンビア人の動きに、今度こそバルギルはついていった。この時のスカイはミカル・クヴィアトコウスキーを同伴させたが、現役屈指のダウンヒル巧者に関しては、どうやら「前待ち」要員だった。
「キンタナが仕事の大部分を引き受けたけれど、最後の上りでは、僕も大いに働いた。コンタドールとランダに追いつこうと努力した。山岳ポイントを取るためには、山頂前に、2人を捕らえる必要があったから」(バルギル、公式記者会見より)
希望通り、3つ目の1級峠の、山頂のほんの手前で、コンタドール、ランダ、キンタナ、バルギルは合流を果たす。メイン集団から出来る限りのリードを開きたい前者3人と、3つ全ての1級峠でポイントを積み重ね、あとは第9ステージで逃した区間勝利にもう1度挑戦したいフランス人は、一致団結して最終22.5kmのダウンヒルへと飛び込んだ。下り切った先の、市街地でスプリントに突入するまで、誰もが協力を惜しまなかった。
ダイナミックなスプリントだった。5日前はコーナーのインとアウトの微妙なライン位置に泣かされたバルギルが、この日はラスト250mのUカーブを、大外からまくった。キンタナを2位、コンタドールを3位、ランダを4位(2秒遅れ)に従えて、堂々たるスプリント勝利を決めた。山岳ポイントは通算94ptに伸ばし、2位のランダ以下に61ptの大量差をつけて、5日連続で赤玉ジャージを身にまとった。なにより2005年第12ステージのダヴィド・モンクティエ以来12年ぶりに、フランス選手として、革命記念日に祖国に栄光をもたらした。
「テレビでツールを見ていた子供時代に、数々のアタックで僕の胸を震わせた選手こそが、コンタドールだったんだ。そして今日は、僕が彼を破った!まだ上手く実感できないや。まだ下のカテゴリーで走っていた時、レースを勝つと、『ピストレロ』のジェスチャーをしてたほどだからからね」(バルギル、公式記者会見より)
4人の後方を、8人が追いかけた。マイヨ・ジョーヌ初日のファビオ・アルを筆頭に、総合上位6人全員が勢ぞろいした。しかし、追走には、まとまりが見られなかった。前方の危険人物3人よりも、むしろ後方にいるライバルたちとの数秒差に気を取られた。スカイが数的有利(フルームとクヴィアトコウスキー)を誇ったのも、誰も協力したがらない原因だった。
「まだ大会2週目だというのに、互いに監視し合い、誰もがわずかなタイム差を死守することに忙しかった。残念な状況だったね。そのせいで数人の総合争い復帰を、手助けする結果になってしまった。パリで後悔しなきゃいいけど……。とにかくスカイが2人いて、アルがスカイのお尻にピタリ張り付いている状態で、僕自身もああいう走りしかできなかった。守備的に走って楽しいわけないさ」(バルデ、フィニッシュ後インタビューより)
ダニエル・マーティンとサイモン・イェーツだけが、最後の5kmで抜け出すことに成功し、区間勝者から1分39秒遅れてラインを横切った。ただしランダに総合では逆転され(5位1分09秒差)、それぞれ1つずつ順位を落としている。
またフルーム、アル、リゴベルト・ウラン、バルデ、ルイ・メインチェスは1分48秒遅れでフィニッシュした。もちろんアルは問題なく、人生2度目のマイヨ・ジョーヌ表彰式に臨んだ。フルームが2位の6秒差、バルデが3位の25秒差に変わりはなかった。前区間の補給違反によるペナルティ20秒が取り消されたおかげで、ウランは4位35秒差と、大きく総合表彰台へと近づいた。
また、区間2位のキンタナはボーナスタイム6秒、3位コンタドールはボーナスタイム4秒を手に入れ、総合ではそれぞれ8位2分07秒差、10位5分22秒差へと遅れを縮めている。
「あらゆる意味で、僕にとっては、難しいツールだ。肉体的にはすでに少し疲れているし、精神的にも、ショックを受けている。この先は1日1日を戦っていく。まだ1週間残っている。目的は最善を尽くすこと。区間勝利は本気で欲しい。もちろんだ」(コンタドール、フィニッシュ後TVインタビューより)
写真:積極的な走りを見せたコンタドール
☐ ツール・ド・フランス 2017
ツール・ド・フランス2017 7月1日(土)~7月23日(日)
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宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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