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サイクル ロードレース コラム 2017年7月16日

ツール・ド・フランス2017 第14ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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まさかの総合首位交代劇が起きた。アルデンヌクラシック風でもあり、上れるスプリンター向きでもあるコースで、風と分断が多くの選手を苦しめた。クリス・フルームはチームメートに惜しみない感謝を贈りつつ、たった2日でマイヨ・ジョーヌを取り戻した。1日中プロトン先頭で働いてきたチームサンウェブとBMCレーシングチームの俊足エース対決は、マイケル・マシューズに軍配が上がった。

またしてもファーストアタックが決まった。これまでの平地区間と同様に、バトルは一切起こらなかった。人生最後のツール・ド・フランスだというのに、いまだ少々逃げ足りないトマ・ヴォクレールが、前日に続いてスタートフラッグと共に飛び出した。素早く反応できたのはチモ・ローゼン、マキシム・ブエ、そしてトーマス・デヘントのみ。少しだけ遅れてレト・ホレンシュタインが合流を果たすと、これにて打ち止めとなる。

いや、むしろ、逃げ合戦は許されなかった。すぐさまサンウェブとBMCが集団前方で横一列になり、プロトンに固く蓋を閉めたからだ。地形的には大逃げだって可能なはずだった。しかし「上れるスプリンター」マシューズを有する前者と、ワンデークラシックスペシャリストにして、2年前に同じフィニッシュラインで栄光をつかみ取ったフレフ・ヴァンアーヴェルマートを擁する後者が、制御不能な人数を飛び出させるつもりはなかった。

つまり大逃げの果てにマイヨ・ジョーヌの日々を通算20日間も楽しんできたヴォクレールや、今区間を含む逃げ距離がダントツナンバーワンの通算約590kmに達したデヘントにとっては、少々不満の残る1日となった。「スプリンターチームの作戦にはうんざり。もうおなかいっぱい」(テレビインタビューより)と、引退まで1週間と1日に迫った38歳はこぼし、「正直言って勝つ脚はあった。でも、そのためには、一緒に逃げてくれる協力者が必要なんだ」(ミックスゾーンインタビューより)と、ベルギーの髭面は肩を落とした。

5人は決して3分以上のリードをもらえなかった。ラスト32km地点でデヘントが独走を始めてからは、ただじわじわと距離を詰められていくだけだった。



写真:逃げた選手のうち、最後まで残ったデヘント

ステージ前半には、マルセル・キッテルにも素晴らしいスプリントの脚があった。55.5kmの中間スプリント地点は、メイン集団の先頭で駆け抜けた。わざわざ緑色のジャージ用ポイントを新たに10pt追加したのは、フィニッシュが自分には難しすぎることを、承知していたからかもしれない。ステージの折り返し地点で、道は中央山塊へと分け入る。起伏は徐々に増していく。フィニッシュまで約50km、この日最初の3級峠で、早くもキッテルは遅れ始めた。

しかも、嫌な横風が、吹いてきた。途端にプロトン全体が、ぴりぴりとした雰囲気に包まれた。分断の危険を避けようと、総合表彰台候補はポジション取りに神経質になった。サンウェブとBMCはより一層スピードを上げた。集団後方は長い長い一列棒状となり、次々と脱落者が生まれていった。

ラスト12.5kmで、ついには、孤独な旅を続けていたデヘントも飲み込まれた。同時に数度のカウンターアタックが発生すると、やはり2チームが完璧に対処した。たとえばトニー・マルティンがタイムトライアル世界チャンピオンの強烈な脚で、カオスを生み出そうと試みるも、サンウェブ列車が冷静に飲み込んだ。続いてやはりカチューシャからマリウツ・ラメルティンクが飛び出すと、すかさずBMCはダミアーノ・カルーゾを張り付かせた。サンウェブもニキアス・アルントを送り込んだ。ラメルティンクが先頭交代を促しても、至極当然のことではあるけれど、2人は頑として前には出なかった。フォルテュネオのピエールリュック・ペリションが遅れて合流してくると、ようやく少しだけ加速に協力してくれた。結局ラメルティンクは独走態勢に入るのだけれど、残り4kmで、無駄な抵抗には終止符が打たれた。

カウンターアタックに対処したサンウェブとBMCの代わりに、メイン集団先頭でスカイが隊列を組んだ。キッテルはいないけれど、フィリップ・ジルベールとダニエル・マーティンという2人のアルデンヌ巧者を誇るクイックステップも、猛烈に集団先方で加速を繰り返した。カヴの抜けた穴を、どうにか埋めようと必死の努力を続けるディメンションデータは、ラスト1kmから、早めの仕掛けで集団をかく乱しにかかった。

全長570m、平均勾配9.6%の上り坂に差し掛かると、クラシックの国の住民がパーティーへと繰り出した。ベルギーチャンピオンジャージを身にまとうオリヴェル・ナーゼンが真っ先にパンチ力を披露し、クラシック現役最多13勝を誇るジルベールが跳ね上がり、昨夏のリオ五輪金メダリストのヴァンアーヴェルマートが加速態勢に入った。

「残り400mで本気の加速を切った。でも、すごく、長かった。いつまでも終わらないような、そんな気持ちを抱いた。そうこうしているうちにヴァンアーヴェルマートに追い越された」(ジルベール、フィニッシュ後インタビュー)


「チームが素晴らしい仕事をしてくれたし、フィニッシュの地形は、本当に僕向きだった。絶好のタイミングで、スプリントを切れたと、信じていたんだけど」(ヴァンアーヴェルマート、フィニッシュ後インタビューより)

こんなセリフの後に、2人は口を揃えて言った。今日のマシューズは強すぎた、と。後悔の念さえ浮かばぬほど、完敗だった。オージーが残り200mで最前列へ躍り出ると、力強くダンシングスプリントを切り、フィニッシュラインをさらい取った。

「今日の勝利を目標に掲げて、かなり前から計画してきた。昨日とおとといの2日間は、今日に向けて体力を温存した。チームは1日中、計画通りの仕事をしてくれた。ツールで勝とうと思ったら、決して1人では無理なんだ。いや、まあ、ワレン(バルギル)は1人で勝ったけど、たいていは、チームの協力が必要なんだ」(マシューズ、公式記者会見より)

1年前は、大逃げの果てに6人の小集団スプリントを制し、生まれて初めてのツール区間勝利を手に入れた。オリカのチームメート2人が一緒に滑り込み、取るべくして取った栄光だった。今回はサンウェブの新しい仲間たちが、全員揃って働いてくれた。ツール序盤は連携ミスもいまだにあったけれど、逆に現場で失敗を重ねることで、徐々に歯車がかみ合っていった。

「今回の勝利で、肩の荷が下りた。重圧を感じることもなくなるだろう。そもそもプレッシャーとは、チームからかけられていたわけではなく、自分自身でかけてしまっていたんだけど。それにしても、昨日のワレンに続いて、チーム2連勝とはすばらし結果だね。いや、そもそも僕とワレンは今大会のルームメートだから、つまり1つの部屋から、2人の勝者が生まれたことになるよね!」(マシューズ、公式記者会見より)

ド平坦ステージではフィニッシュポイントが50pt満点なのに対し、起伏ステージはわずか30ptしかもらえないことに対しては、少々不満も隠せなかった。それでも緑ジャージ争いでは、キッテルからの遅れを99ptへと縮めることに成功した。

思わず歯を食いしばるようなスプリントが繰り広げられた、その第2列目では、クリス・フルームもがむしゃらにペダルを回していた。


「(ミカル)クヴィアトコウスキーが僕を最終数百メートルまで導いてくれた上に、無線で叫び続けてくれたんだ。『クリス、行け、行け、行け!タイム差が得られるぞ、大きな分断が出来てるよ!』って」(フルーム、公式記者会見より)

予想していなかった全力疾走で、息も絶え絶えとなった。ただおかげで、マシューズから1秒遅れの区間7位で飛び込んだ。ダニエル・マーティンとリゴベルト・ウランも数珠つなぎでラインを越した。クヴィアトコフスキーの予言通り、そこから後ろには、いくつもの小さな切れ目が出来ていた。ロメン・バルデとサイモン・イェーツは5秒遅れ、以下ミケル・ランダは15秒、ナイロ・キンタナとアルベルト・コンタドールは仲良く22秒、そしてマイヨ・ジョーヌ2日目のアルに至っては、なんと25秒..!

「アルに何が起こったのかは、僕には皆目見当がつかない。ただ、素敵なサプライズだったね。まさか今日みたいなステージでジャージが取り戻せるとは、想像さえしていなかった」(フルーム、公式記者会見より)

今日一番の敗者に言わせると、すでに上り前から分断の影響をもろに食らっていたらしい。アルはたった1人で穴を埋めに走ったが、修復は不可能だった。落車や故障続きのアスタナで、アシスト枚数が足りない影響がついに形となって表れた。すなわち6秒遅れの2位から、18秒リードの首位へと、フルームはあっさり返り咲いた。

☐ ツール・ド・フランス 2017
ツール・ド・フランス2017 7月1日(土)~7月23日(日)
全21ステージ独占生中継!

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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