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写真:左から総合2位のウラン、1位のフルーム、3位のバルデ
小雨に濡れたシャンゼリゼの石畳を、24歳のディラン・フルーネウェーヘンが最速で駆け抜けた。新城幸也は自身7度目のパリ帰還を成し遂げ、38歳トマ・ヴォクレールは人生最後のツール・ド・フランスを走り終えた。緑、赤玉、白の3色ジャージにはフレッシュな顔ぶれが並び、クリス・フルームが自身4度目のマイヨ・ジョーヌで、高らかに凱旋を果たした。
大きな輪が、静かに閉じられた。北に500kmほどのデュッセルドルフから、3週間前に走り出した2017年ツール・ド・フランスが、ようやく長い旅の終わりを迎えた。当初は198人だった大集団も、落車や失格劇が有力選手を次々と奪い、167人にまで小さくなっていた。史上まれに見る僅差の総合争いは、はるか750km以上も南のマルセイユで、前夜、すでに決着がついた。
だから大会最後の日曜日、ツール誕生の地モンジュロンから走り出したプロトンは、しばらくは恒例の記念撮影や乾杯タイムを穏やかに楽しんだ。ヨアン・オフレドの「故郷アタック」や、シリル・ゴティエのプロポーズで、誰もが笑顔になった。フランスの首都パリが誇る歴史的建築群の間を駆け抜け、なにより史上初めてグラン・パレのガラス屋根の下をくぐり、おなじみのシャンゼリゼ周回コースへスカイ隊列が先頭で滑り込むと……いよいよ最後の戦いの始まりだ!
9人がはじかれたように飛び出した。空軍飛行隊が描き出した青白赤のフレンチトリコロール雲の下で、スプリンターチームは集団制御に着手した。特に今大会いまだに1勝目を追い求めるロット・ソウダルやコフィディス、ソリュシオンクレディ、チーム カチューシャ・アルペシンが精力的に牽引作業に取り組み、熾烈な追っかけっこを繰り広げた。
写真:最終ステージを勝ち取ったフルーネウェーヘン
おかげで最終周回に突入する前に、大会最後のエスケープは封じ込まれた。ラスト1周を告げる鐘がパリの空に鳴り響き、最後の凱旋門一周では、新城幸也が最前列でバーレーン・メリダ列車を猛然と引っ張った。
すべては大集団スプリントへと導かれた。パリまで生き残った数少ない有名スプリンターたち、つまりアンドレ・グライペルやアレクサンドル・クリストフ、エドヴァルド・ボアッソンハーゲンが、それぞれの発射台に導かれて位置取り争いを繰り広げた。フルーネウェーヘンもやはり、アシストの渾身の働きのおかげで、前方好位置につけていた。そしてコンコルド広場を抜け出し、最終コーナーを上手くこなすと――第1ステージの個人タイムトライアルでは、濡れたコーナーで路面で地面に滑り落ちたのだが――、この若きオランダ人が先頭へと躍り出た。
約300mの長い長いスプリントだった。微妙に上り気味の道を、力いっぱい踏み抜き、もはや誰1人として自分の前を走らせることはなかった。ツール挑戦2度目のフルーネウェーヘンが、世界で一番華やかな大通りで、生まれて初めてのグランツールステージ優勝を手に入れた。
ちなみに初めての区間勝利がシャンゼリゼ、というとてつもないジャックポットを引き当てたのは、2003年のジャンパトリック・ナゾン以来となる。ただしナゾンは同大会でマイヨ・ジョーヌを1日着用しており、表彰台は経験済みだった。2000年大会最終日を制したステファノ・ザニーニも、ツールでは初優勝だったが、ジロではすでに大会最終日スプリント勝利を手にしている。すると、なにもかもが初めてなのは、1999年のロビー・マキュウェンまでさかのぼらねばならないだろうか。ご存知の通り、オージーはその後のキャリアでツール11勝(計12勝)とジロ12勝、さらには3度のマイヨ・ヴェールを持ち帰っている。
その緑ジャージは6年ぶりに所有者が変わり、マイケル・マシューズが初めてシャンゼリゼの表彰台に上った。チームメートで今大会中のルームメートでもあるワレン・バルギルは、山岳賞とスーパー敢闘賞をダブル受賞。1年前はアダムが勝ち取った純白の新人賞ジャージを、今年は双子のサイモンが着こなした。
フルーネウェーヘンがぎこちなくガッツポーズを握りしめたはるか後ろでは、マイヨ・ジョーヌ姿のクリス・フルームが、アシストたちと健闘をたたえ合いながら、笑顔でフィニッシュラインを越えた。その瞬間、自身4度目のツール総合優勝が確定した。マルセイユですでに決まっていた通り、リゴベルト・ウランが総合2位に、ロメン・バルデが総合3位に入った。1秒差で4位につけるミケル・ランダが、無理な逆転劇を試みることはなかった。
初日のチームリーダの落車リタイアという苦難を乗り越えて、新城幸也は7度目のシャンゼリゼフィニッシュを心から楽しんだ。
「不完全燃焼なんてないです。たしかに逃げには乗れませんでしたけれど、逃げに乗るために、100%の力を使ってきましたから。スプリントにも日々チャレンジして、もう無理、と言うところまで力を尽くしてきました。つまり毎日、100%を出し切ったんです」(新城、フィニッシュ後インタビューより)
さらには「走りながらトマ(ヴォクレール)にも『おめでとう』と声をかけることが出来ました」と、長年のチームメートの労をねぎらった。マイヨ・ジョーヌを通算20日間着用し、フランス自転車界を必死で支え続けてきたヴォクレールは、特別にシャンゼリゼの表彰台に上ることを許された。
<写真:左から山岳賞のバルギル、新人賞のイェーツ、総合優勝のフルーム、ポイント賞のマシューズ
ところでフルームは、現時点では、ツール史上唯一の総合4勝選手である。すなわち、ツール114年の歴史で、4勝で永遠に足止めされた選手は存在しないということでもある。だからフルームにとっても、この4勝目は、単なる通過点に過ぎないのかもしれない。ジャック・アンクティル、エディ・メルクス、ベルナール・イノー、ミゲル・インドゥラインにとって、そうだったように。
「ツール・ド・フランスを5回制したもっとも偉大なる選手たちに続いて、自分の名前が挙げられることだけでも、すでに大いなる名誉を感じているんだ。でも、僕はこの先もレースやシーズンを、ひとつひとつこなしていくだけ。それに今は、ツールを5回制することがどれほどまでに難しいことなのかを、はっきりと理解している。1つ勝つたびにどんどん戦いが簡単になっていく……というわけじゃ決してないからね。たとえば今年のツールは、かつてないほど僅差だった」(フルーム、第20ステージ公式記者会見より)
フルームの5勝目クラブ入会試験は、2018年7月7日土曜日、ヴァンデ地方から始まる。ちなみにサッカーワールドカップの開催時期との兼ね合いもあり、例年より1週間遅い開幕となる。「だったらジロとツールの同一年ダブルツールを狙えるんじゃない?」と質問されて、「1週間遅いのかぁ。うーん、うーん……」と悩んでいる様子も見られたけれど、とりあえずこの8月19日から、ツールとブエルタの同一年ダブルツールに再々挑戦する予定だ。
☐ ツール・ド・フランス 2017
ツール・ド・フランス2017 7月1日(土)~7月23日(日)
全21ステージ独占生中継!
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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