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サイクル ロードレース コラム 2017年8月25日

ブエルタ・ア・エスパーニャ2017 第6ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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クレイジーすぎる1日だった。5つの峠が散らばる200km超のステージを、プロトンは時速42.727kmの超ハイスピードで駆け抜けた。逃げ集団は一時は37人にまで膨れ上がり、最終的に絞り込まれた3人から、トマシュ・マルチンスキーがスプリント勝利をさらい取った。アルベルト・コンタドールはメイン集団にとてつもないカオスをもたらし、数人の総合有力候補がタイムや「皮膚」を失った。

集団は猛スピードで走り出した。とびっきり逃げ向きのコースで、約50kmにも渡って激しいバトルは繰り返された。ようやく大きな塊が前方へ遠ざかっていったのは、1つ目の峠を山道に突入してから。逃げへの切符を手に入れたのは37人!チームスカイとオリカ・スコットを除く20チームが、前線に選手を送り込んだ。

逃げが一旦出来上がった後も、まるで落ち着きを取り戻さなかった。後方でスカイが隊列を組み上げ、いつも以上に恐ろしいテンポを強いたからだ。先頭集団の人数が多すぎたからであり、総合でわずか3分24秒遅れのルイス・レオン・サンチェスの存在が目障りだったからでもある。おかげで前も後ろもスピードはちっとも下がらず、ほっとする時間など一切存在しなかった。

3つ目の山頂を越えると、さらに雰囲気は慌ただしくなる。ダヴィデ・ヴィッレッラが2日連続の山岳ポイント収集に勤しみ、ダルウィン・アタプマが青玉ジャージへの野心をむき出しにした直後のことだ。下りを利用して、逃げ集団から、マキシム・モンフォールとボブ・ユンゲルスが弾丸のように飛び出した。35人を一瞬で置き去りにすると、凄まじい高速ダウンヒルへと繰り出した。

逃げのライバルたちには、一時は50秒もの大差をつけた。ただしフィニッシュまで100kmも残しての、2人ぼっちのアタックは、志半ばで打ち切られることになる。逃げに大量4選手を滑り込ませていたアスタナが、30kmほど先で、突如として回収に動いたからだ。

こうして再びひとつになった先頭集団で、次に動いたのはハリンソン・パンタノだった。トレック・セガフレードからただ1人前方に潜り込んだコロンビア人は、フィニッシュまで約65km、4つ目の山道で急激なスピードアップを断行した。メイン集団との差は約3分。逃げ集団を小さく切り刻み、先を急いだのは、なにも自らの成績を追い求めるためではない。フィニッシュ後にも認めているように、「アルベルトの準備が整った。前で待て」との無線の指示が飛び込んできたからだ。

ステージ最後の、そして最も難しい2級峠で、コンタドールが攻撃に転じた。フィニッシュ地まで残り41km。まずは山岳アシストのピーター・ステティナが鬼気迫る牽引を披露し、リーダーを最前線で解き放った。続いてまるで全盛期を思わせる軽やかなダンシングで、コンタドール本人が幾たびも加速を畳みかけた。もちろん登り途中ではパンタノが待っていた。登りでも、さらには得意の下りゾーンでも、惜しみなく自らの力を捧げてくれた。

「ひどく骨の折れる、1秒たりとも息つく暇のないステージだった。つまり総合ライバルを孤立させようと企てるには、完璧な状況だった。もしも誰かが僕にについてきてくれたら、面白いことになるだろうと考えたんだ。今日みたいな日は、アングリルなんかよりも、もっと大きな差をつけられる可能性を秘めているから」(コンタドール、フィニッシュ後インタビューより)

グランツール7勝王者の思惑通り、一気に集団は粉々になった。加速を繰り返すうちに、総合争いのビッグネームたちも次々と後退して行った。唯一マイヨ・ロホのクリス・フルームとティージェイ・ヴァンガーデレンだけが、コンタドールの後輪にピタリと張り付いて、あらゆる攻撃をしのぎ切った。


ただしヴァンガーデレンは、数珠つなぎでダウンヒルしている最中に落車し、突然姿を消した。また「もっと協力体制が組めると思っていたんだけど」とコンタドールが嘆いたように、マイヨ・ロホはただひたすらコンタドールの背中を見つめているだけ。パンタノも力尽きて後退して行ったし、次々と前から落ちてくる逃げの残党たちが、コンタドールと協力する理由などなかった。

だから……せっかく一旦は突き放せたというのに、再びじわじわと差を詰められた。特に最終峠からフィニッシュまでの長い下りで、エステバン・チャベス、ヴィンチェンツォ・ニーバリ、ファビオ・アル等々は息を吹き返した。残り25km地点で集団は再び大きくなった。

やはり最終峠の上りで、逃げ集団からは、トマシュ・マルチンスキーとエンリク・マスが先行を始めていた。下りではパヴェル・ポランスキーが加わり、37人と巨大だった逃げは、ついに3人にまで絞り込まれた。

逃げトリオには、コンタドールも羨むような、協力体制が存在した。なにしろほんの数秒後ろからはプロトン屈指のフィニッサーL・サンチェスと、イタリア一周ですでに区間2勝の経験を持つヤン・ポランツェが、凄まじい勢いで追いかけてくる。そのさらに数十秒背後では、超強豪集団が突進を続けていた。悠長に駆け引きしている暇なんて、そもそもなかった。

「抜け駆けを絶対に逃すまいと集中した。だって3人の中では、自分が一番スプリントが速いと確信していたから。上手く立ち振る舞う必要はあったけれど、他の2人を倒す自信があった。最後の最後まで『自分にはできるはずだ』と信じ続けた」(マルチンスキー、フィニッシュ後インタビューより)


そんな確信通りに、33歳のベテランは、3人でのスプリント勝負を制した。つまり生まれて初めてのグランツール区間勝利を手に入れた、2017年ブエルタにおける3人目の選手となった。ちなみに昨大会はなんと13人が、「グランツールで初めての区間勝利を挙げる喜び」をスペインで噛みしめている。

「信じられないような感動だ。区間勝利を争いたいと願って、今大会に乗り込んできた。でもこれほど早くチャンスが巡って来るとは、考えてもいなかった。すごく幸せだよ」(マルチンスキー、公式記者会見より)

わずか8秒後に追走の2人が、さらに26秒後には、フルームとコンタドールを含む有力者集団が塊となってフィニッシュラインへと滑り込んだ。コンタの加速時に転んでしまったダヴィデ・デラクルスは43秒遅れで、下りでの落車に加えて、ラスト3km付近でもう1度落車したヴァンガーデレンは46秒遅れで終了した。ヴァンガーデレンは総合2位から4位へ、デラクルスは5位から6位へとそれぞれ一歩後退を余儀なくされた。またツール総合3位のロメン・バルデは、この日だけで6分52秒ものタイムを失い、完全に総合争いから脱落した。

大いに戦いを引っかきまわしたコンタドールは、総合26位から23位へと、またほんの少しだけ順位を上げた。マイヨ・ロホのフルームとの差は3分10秒のまま変わらなかったが、トップ10とのタイム差は13秒縮めて、1分44秒差になった。

「たとえ総合タイムは大きく離れていても、コンタドールが危険人物であることに変わりはない。彼はどれだけ自分が強いか、自分がどれだけ策士なのかを、改めて証明した。ブエルタの終わりまで、間違いなく、コンタドールは至るところで戦いを仕掛けてくるだろう」(フルーム、チーム公式リリースより)

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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