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2010年にダヴィド・モンクティエが制してから7年。同じフランス人のジュリアン・アラフィリップが、ショレト・デ・カティの激坂で勝ち鬨を上げた。背後では現役のグランツール2大チャンピオンが見事な競演を披露した。アルベルト・コンタドールは総合争いへの希望をつなぎ、マイヨ・ロホ姿のクリス・フルームは、コンタドール以外の全てのライバルから、わずかながらも貴重なタイムを奪い取った。
暴力的な勾配が、1日の終わりに待ち構えていた。全長わずか5kmながら、総合リーダーのフルームが「レースが粉々に砕け散ってしまうだろう」と予言した激坂へ向けて、恐れを知らぬ者たちが飛び出して行った。どうしても逃げに乗りたかったアラフィリップは、チームメートのマッテオ・トレンティンに耳打ちをした。「前に連れて行って欲しい」と。
約40kmも続いた飛び出し合戦には、あえて加わらなかった。大きな集団が遠ざかっていくのをひたすら待った。それからトレンティンが、前方へ向けて猛スプリントを切った。第2ステージにはイヴ・ランパルトの区間勝利をお膳立てし、第4ステージは自らが勝利を仕留めた男が、発射台役を喜んで務めてくれた。おかげでアラフィリップは、楽々と逃げに滑り込むことができた。
ちなみに第5ステージでも、アラフィリップは前方に飛び出している。しかしあの日は、ほぼ全員から執拗なマークを受けて、最後には疲れ果ててしまった。だから今回は「警戒を逃れるため先頭交代に加わりながらも、体力を使いすぎてしまわぬよう注意した」(byアラフィリップ、フィニッシュ後インタビューより)。
21人のエスケープ集団内では、他にも素晴らしいチームワークが見られた。ステージ途中に2つ待ち構えていた3級峠では、ダヴィデ・ヴィッレッラの青玉ジャージを守るために、チームメイトのブレンダン・キャンティがせっせとライバルをけん制する姿が目撃された。なにより前方に3人を送り込んだボーラ・ハングスローエは、ラファル・マイカに区間勝利をもたらそうと、2人のアシストが模範的な献身を尽くした。
最終峠が近づき、小さなアタックが生まれると、エマヌエル・ブッフマンがすぐさま潰しに走った。登坂口に向けてはクリストフ・プフィングステンが最後の牽引を行った。さらに山道に入ると同時に、ブックマンがとてつもない加速を強行。あっという間に集団を切り裂いた。いよいよ激坂ゾーンに突入するという地点まで、リーダーを背負って、全力でペダルを踏み続けた。
ラスト5.8km地点で、ついにマイカ自らが先頭に立つ時が来た。かつてツールで山岳賞を2度持ち帰ったヒルクライマーは、今ツールは序盤の落車でリタイアを余儀なくされた。今ブエルタでは胃腸の不良に苦しみ、総合争いからあっさり弾かれた。狙いを区間狙いに切り替えるしか、もはや選択肢はなかった。そんな中でも、変わらず自分を支え続けててくれたアシストに報いるべく、力強く山道へ飛び立った。
..ただ、ひどく厄介なことに、アラフィリップがピタリ張り付いてきた。どんなに加速を切っても、どれほど執拗にダンシングを繰り返しても、プロトン屈指の激坂巧者を背中から引きはがすことはできなかった。かといってほんの少しでも駆け引きに興じると、途端に後方からセルジュ・パウエルスやヤン・ポランツェが追いついてくる。最大20%にも達するクレイジーな勾配の上で、マイカとアラフィリップは、時には肩と肩とをぶつけ合うような一騎打ちを繰り広げた。
「マイカは勾配のきついゾーンで、僕を突き放そうと何度も加速してきた。だから僕も歯を食いしばってこらえたんだ。それに監督から、残り3kmで、軽い下りに入ることを聞かされていた。そこでは体力を最大限に回復するよう努力した」(アラフィリップ、フィニッシュ後インタビューより)
その下りで体力を回復しているうちに、猛スピードで背後からポランツェが追いついてきた。突如として三つ巴の争いになった。マイカがどうしても避けたかったスプリントに、勝負はもつれこんだ。
フレンチパンチャーにとっては最高の形だった。S字を描く軽い上り坂で爆発的に加速を切ると、そのままフィニッシュラインへいの一番で飛び込んだ。2位が3回という大得意のアルデンヌクラシックを、今春はひざの故障でスキップし、過去区間2位が自己最高成績のツールにも手術後のリハビリが手間取って出場できなかった。そんなあらゆるフラストレーションを吹き飛ばすような、晴れやかなグランツール区間初勝利だった。クイックステップにとっては今ブエルタで3つ目のステージ優勝であり、2017年グランツールではなんと13勝目!
「勝利を追い求めて逃げたんだから、もちろん勝利を信じて走り続けたよ。でも、やっぱり、実際に勝利を手にしてみると信じられないような気分だね。僕にとっては人生でたった2度目のグランツールで、ひとつステップを上がることが出来た」(アラフィリップ、フィニッシュ後インタビューより)
後方ではいつも通りに、スカイボーイズが献身的な仕事を続けていた。総合3分2分遅れのネルソン・オリヴェイラが逃げに紛れ込んでいたから、なおのことタイム差コントロールは重要な任務だった。
「チームのみんなに『ジャージを一旦手渡して、レースの責任を押し付けてしまおう』って言ってしまえたら、どんなに楽だったことか。でもチームのみんなは、逃げとの適度な距離を守るために、とてつもない努力をしてくれた。だから僕は、チームメートの仕事を、絶対に無駄にはしたくなかった」(フルーム、フィニッシュ後インタビューより)
最終峠の入り口でライバルチームが猛攻を切り、ひどく狭い山道を勢いよく攻め上げると、思わずマイヨ・ロホの姿が後方へと沈んでしまったこともあった。その隙にダヴィド・デラクルスやサイモン・イエーツ、さらにはマイケル・ウッズが飛び出し、ラスト5km地点では、ついにコンタドールも攻撃に転じた。
幸いにもスカイのアシストに連れられて、フルームは前線復帰を果たす。それからコンタドールとの距離を、自らの脚で埋めにかかった。しかも追いついただけでは満足せず、鋭いアタックを繰り出した。1度目の加速でメイン集団を一気に絞り込んだ。2度目の加速ではコンタドール以外の全員を振り払った。山頂間際で振り下ろされた3度目の加速では..コンタドールさえも千切った!
ただ百戦錬磨のベテランは、例の高速移動に、あえて反応しなかったようだ。山頂はほんの目と鼻の先だったから、ならば自分のペースで登り切り、下りで追いつこうと考えたとのこと。コンタドールの読みは正しかった。山頂通過直後に両者は合流し、以降、フィニッシュまで行動を共にすることになる。
フルームは積極的に前を引いた。マイヨ・ロホを着てはいたけれど、前区間終了時点で総合2位との差はわずか11秒。後方でもがくライバルたちとのタイム差を、少しでも広げておきたかった。だって明日は、来週は、脚の調子がどうなっているのかわからない。「だから取れるときには取っておけ」と、監督ニコラ・ポルタルからも発破をかけられた。
「コンタドールとの差は3分以上あったから、今日のところは、問題なく協調体制を組めた。おかげで大多数のライバルから、さらなるタイムを奪うことが出来た。すごく満足している」(フルーム、公式会見より)
アラフィリップの歓喜から1分27秒後、コンタドールとフルームが同タイムでステージを終えた。その17秒後には、ヴィンチェンツォ・ニーバリ、ファビオ・アル、エステバン・チャベス等々がフィニッシュに駆け込んだ。ニコラス・ロッシュやティージェイ・ヴァンガーデレンはさらに11秒を失った。つまりフルームと2位チャベスとのタイム差は、28秒に広がった。前夜までは総合1分以内に9選手がひしめいていたが、第8ステージ終了後には一気に5人まで数を減らした。
連日のように攻撃を試みるコンタドールだが、フルームからの遅れは相変わらず3分10秒のまま。ただ3日目の体調不良で大きく落とした総合順位は、24位→17位とまた少し盛り返した。ちなみにフィニッシュラインの直前では、チームメートのヘスス・ヘルナンデスが待っていてくれた。特に何かの役にたったわけではなかったかもしれない。ただ長年の友を必死で支えようという心意気は、リーダーにしっかり伝わったに違いない。
一方ではステージ前に、リーダーとアシストを巡る問題が、ブエルタの周辺を騒がせた。今大会は「アシスト」任務を課されていたツール山岳賞ワレン・バルギルが、前区間最終盤にメカトラで遅れた「リーダー」ウィルコ・ケルデルマンを待たなかったとして、所属チームから強制帰宅を命じられたのだった..。
☐ ブエルタ・ア・エスパーニャ2017
ブエルタ・ア・エスパーニャ2017 8月19日(土)~9月10日(日)
全21ステージ独占生中継!
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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