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サイクル ロードレース コラム 2017年8月28日

ブエルタ・ア・エスパーニャ2017 第9ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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海の見える激坂のてっぺんで、クリス・フルームが力強く右手を突き上げた。7月のフランスで取れなかった区間勝利を、8月末のスペインで勝ち取った。7日連続でマイヨ・ロホの表彰台に上がり、待望の休息日を、嬉しい赤いジャージで過ごすことになった。

「とても素晴らしい気分だ。大会1週目の終わりをマイヨ・ロホで迎えることが出来たし、あらゆる総合ライバルたちにかなりのタイム差をつけることができたからね」(フルーム、公式記者会見より)

なんともブエルタらしいコースが準備されていた。ステージカテゴリーは「平坦」。しかし「頂上フィニッシュ」という注意書きが添えられている。すなわち長い平地の果てに、全長4kmのとてつもない激坂が待っていた。スプリンター向きであるはずはなく、パンチャーにとっては少々上りが長すぎて、つまりは総合を争うヒルクライマーたちの戦場となるに違いなかった。それでも20kmほどの熾烈なアタック合戦を制して、10選手が前方へと飛び出していった。

メインプロトンの制御権を握ったのは、めずらしくチームスカイではなかった。キャノンデール・ドラパックプロサイクリングチームが隊列を組み上げると、厳しいタイム差コントロールに着手した。たいくつな平地パートでも、決して逃げ集団に3分以上の差を与えず、精力的に牽引を続けた。


黄緑色のジャージが前線を彩ったのは、悲しい理由があった。前夜、キャノンデールに所属する全選手に、チーム存続の危機が告げられた。来季からの協力が予定されていたスポンサーが、投資の中止を決めたせいだった。2018年以降も契約の残るすべての選手には、新たな移籍先を見つける自由が与えられた。今ジロで区間勝利を挙げたピエール・ローランは2018年末まで同チームと契約が残っていたし、7月のツールで総合2位に入ったリゴベルト・ウランは、ほんの2週間前に3年の契約更新にサインをしたばかりだというのに……。

「昨日の夜は寝付けなかった。選手だけではなく、チームのスタッフたちも、もしかしたら職を失うことになるのかもしれないと考えると……。今朝チームバスで、みんなの意見は一致した。僕らがすべきことは、今まで以上に団結して走ること。だから区間のスタート直後から、勝利を目指して戦った」(マイケル・ウッズ、フィニッシュ後インタビューより)

キャノンデールの奮闘のせいで、先頭集団は思うようにリードが奪えなかった。だから平坦ゾーンが終わると同時に、マルク・ソレルとトビアス・ルドビクソンが思い切って再アタックを打った。フィニッシュ手前42kmに聳え立つ2級峠で、逃げの仲間たちを捨てると、自らのチャンスを追い求めた。しかし、明日のない者たちの捨て身の行軍に、最後まで抵抗し続けることなど不可能だった。フィニッシュまで25kmで1分差、10kmで30秒差へと縮まり……残り6kmで、ついに逃げには終止符が打たれた。


黄緑色のジャージが前線を彩ったのは、悲しい理由があった。前夜、キャノンデールに所属する全選手に、チーム存続の危機が告げられた。来季からの協力が予定されていたスポンサーが、投資の中止を決めたせいだった。2018年以降も契約の残るすべての選手には、新たな移籍先を見つける自由が与えられた。今ジロで区間勝利を挙げたピエール・ローランは2018年末まで同チームと契約が残っていたし、7月のツールで総合2位に入ったリゴベルト・ウランは、ほんの2週間前に3年の契約更新にサインをしたばかりだというのに……。

「昨日の夜は寝付けなかった。選手だけではなく、チームのスタッフたちも、もしかしたら職を失うことになるのかもしれないと考えると……。今朝チームバスで、みんなの意見は一致した。僕らがすべきことは、今まで以上に団結して走ること。だから区間のスタート直後から、勝利を目指して戦った」(マイケル・ウッズ、フィニッシュ後インタビューより)

キャノンデールの奮闘のせいで、先頭集団は思うようにリードが奪えなかった。だから平坦ゾーンが終わると同時に、マルク・ソレルとトビアス・ルドビクソンが思い切って再アタックを打った。フィニッシュ手前42kmに聳え立つ2級峠で、逃げの仲間たちを捨てると、自らのチャンスを追い求めた。しかし、明日のない者たちの捨て身の行軍に、最後まで抵抗し続けることなど不可能だった。フィニッシュまで25kmで1分差、10kmで30秒差へと縮まり……残り6kmで、ついに逃げには終止符が打たれた。

ツールですでに総合4勝を手にしているだけでなく、ツール→ブエルタの連戦を過去4回経験してきたフルームは、5度目の挑戦に向けて万全な準備を積んできた。この朝も2015年第9ステージのビデオを繰り返し見たという。つまり残り2kmでトム・デュムランの飛び出しを見逃し、追走にとてつもない体力を奪い取られ、区間2位に終わった時と同じ失敗を、繰り返さなかった。

しかも2年前は、アシストの力を借りることが出来なかったため、残り800mから自ら先頭に立って全力でペダルを回した。ラスト350mでデュムランを一旦は抜き去ったというのに、最終的にはスプリントで打ち負かされてしまった。だから今年は、ラスト700mの急カーブを抜け切るまでは、ミケレ・ニエベの背後でじっと体力温存に尽くした。そこから先も、ダヴィド・デラクルスの加速にも惑わされることなく、マイペースを守り続けた。

「ビデオで山道を改めて検証し、どのタイミングで加速すべきなのかを確認した」(フルーム、チーム公式リリースより)

そのタイミングはラスト550mでやってきた。いつものように突如として加速を切ると、強い向かい風の中、フルームは猛スピードで山道を駆け上がっていった。

ここ数日の戦いを引っ掻き回し、総合順位を着々と上げているアルベルト・コンタドールは――中間ポイントでもライバルを使ってフルームのボーナスタイム収集を阻止した――、瞬時に反応はするも、すぐについて行けなくなった。チームとチームメートのためにどうしても勝利が欲しいウッズが動き、やはり2年前には同じ激坂でマイヨ・ロホを失ったエステバン・チャベスは、夢中で追いかけた。ラスト300mで、ついにコロンビア人が、フルームの背中を捕らえかけた。

「チャベスが猛スピードで追いついてきた時に、『ノー、2015年みたいなのは嫌だ!』と思った。そんなことを再び許してはならないのだ、とひたすら考えながら、ラスト数百メートルは自分の持てる全ての力を出した」(フルーム、公式記者会見より)

幸いにもチャベスは、1ミリたりとも前に出ることはなかった。むしろフィニッシュ手前で後輪から引きはがすと、ペダルで4秒差を押し付けた。もちろんボーナスタイムの10秒も懐にしまい込んだ。区間2位に終わったチャベスも当然ボーナスタイム6秒を得ているから、つまり総合2位のチャベスに、わずかながら新たに8秒の差をつけたことになる。前日までの両者の28秒差は、36秒差に広がった。

「区間勝利のために走るよう求めるのは、チームメートの負担を増すことになると思った。だから単純に、マイヨ・ロホを守るために、今日は走ったんだ。でもキャノンデールが1日中働いてくれたおかげで、僕に勝利のチャンスが転がり込んできた」(フルーム、公式記者会見より)

最後まで奮闘したウッズは5秒差の区間3位に滑り込み、総合では9位から8位にひとつ順位を上げた。またコンタドールはフルームの12秒後で終え、総合タイムの遅れは3分32秒に広がった。ただし順位は17位から13位へと、着実に上げている。

一方で総合3位ニコラス・ロッシュ、4位ヴィンチェンツォ・ニーバリ、5位ティージェイ・ヴァンガーデレンは総合順位内の序列こそ守ったものの、タイムはそれぞれ14秒、14秒、19秒を失った(さらにボーナスタイム10秒分も加わる)。前夜まで秒単位に留めていたフルームまでの距離は、1度目の休息日を前に、ついに1分以上に開いてしまった。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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