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2度目の休息日が明け、マドリードへ向けた最終山岳バトルに入る前に、総合順位の軽いシャッフルが行われた。アルベルト・コンタドールは人生最後の個人タイムトライアルを力強くまとめ、総合5位に浮上した。ウィルコ・ケルデルマンは前評判通りの優れたTT能力で総合3位の座に返り咲き、ほんの3区間前まで表彰台の位置を守っていたエステバン・チャベスは9位へと陥落した。頂点はまったく揺るがなかった。大会に生き残る164選手中、しんがりに登場した赤き衣のクリス・フルームが、区間も総合も首位の座に君臨した。
タイムトライアルの圧倒的な強さで、生涯にグランツール総合7勝を手にしたミゲル・インドゥラインのお膝元で、スペシャリストたちが本領発揮した。2014年のジュニア世界選手権個人TTチャンピオン、レナード・ケムナが真っ先に大きなセンセーションを作り出した。4日後に21歳の誕生日を迎えるという今ブエルタぶっちぎりの最年少選手が、とてつもない好走を披露したのだ。最終的にも区間8位に入る大健闘だった。
全長40.2kmの孤独な全力疾走で、いわゆる「標準タイム」を記録したのは、106番スタートのトビアス・ルドビグソンだ。前日じっくり下見に出かけたというスウェーデンTTチャンピオンは、コース序盤にボトルケージが破損するハプニングに見舞われた。水分補給が思うようには出来ない……そんな苦境をはねのけて、暫定首位となる48分07秒71でフィニッシュ。その後161番スタートのコンタドールにタイムを塗り替えられるまで、約1時間20分に渡って首位を満喫することになる。
ところどころに軽い起伏はあるものの、全体的に平坦な道は、ピュアなヒルクライマーにとっては苦行に他ならなかった。それでもツール・ド・フランスで2年連続総合表彰台に上ったロメン・バルデは、出走前は、全力疾走を心に決めていた。今ブエルタではもはや総合争いに加わる望みはない。ただ「将来」のための予行練習をするつもりだった。だからコースを入念に下見し、周到に機材選び、勢い良くモーターレースサーキットへと飛び出した。残念ながら意気込みは空回り。サーキット内でコーナリングに失敗し、地面に滑り落ちた。急いで自転車交換するも、なんと、その後さらなる交換を余儀なくされた。最終的にはノーマルバイクで走り終えた。順位は下から数えて6番目、タイムはフルームから8分23秒遅れという、散々な結果に終わってしまった。
現役プロトン内でグランツール7勝を誇るチャンピオンは、ヒルクライマーでありながら、タイムトライアルの適正も有していた。この日も34歳コンタドールは「朝起きた時に脚が痛くなかった!モチベーションが上がった」と、序盤からハイペースで飛ばした。時にダンシングスタイルを組み込み、積極的に攻め続けた。第1計測地点も、第2計測地点も、最速で駆け抜けた。
「でも直接的ライバルたちとのタイム差を知ることが出来ないから、ただ自分のリズムで走るしかなかった。ワット等を一切気にせずに、ひたすら自分の感触に頼ってレースを続けた」(コンタドール、フィニッシュ後インタビューより)
フィニッシュラインは47分59秒82で駆け抜けて、ルドビグソンを上回り暫定首位に立った。さらには総合9位だった自分の後に続々とラインに走り込んでくるライバルたち、つまりマイケル・ウッズ、ファビオ・アル、ミゲル・アンヘル・ロペスモレーノ、チャベスを、総合タイムでも軒並み上回った。しかし最終的に区間5位で終えたコンタドールが狙っていたのは、単にタイム差を縮めることだけではなかった。2009年ツール第18ステージ、マイヨ・ジョーヌ姿で勝ち取った時以来となる、個人タイムトライアル区間勝利が欲しかった。
「満足してる。いいタイムトライアルが出来た。でも、できれば、勝ちたかった。もしも勝てていたら、もっと満足していただろうからね。なにより直接的ライバルの3人のうち2人が、僕よりも好タイムを出してしまった」(コンタドール、フィニッシュ後インタビューより)
その2人というのが、ケルデルマンとイルヌール・ザカリンだった。10分後に走り始めたケルデルマンは、あわやフルームを破ってしまうのではないか……と周りがドキドキするほどの、極めて素晴らしい走りを披露した。チームサンウェブのリーダーにとって幸いだったのは、若きケムナの走りを参考にすることも、さらにはコンタドールとのタイム差を知ることもできたこと。またコンタドールとは対照的に、最適なタイムトライアルポジションが決まったら、ひたすらDHバーの上で「腕をまっすぐ伸ばし続ける」よう努力した。途中で前を行くチャベスを抜き去り、あらゆる計測タイムでを上回り、47分29秒82と好記録をマークした。
「今年は年間通してタイムトライアルが上手く走れていて、しかも今日は脚が絶好調だった。総合3位に上がれて嬉しい。大会最後までこの調子を守っていきたい。とにかく残り5日間、毎日戦っていく。今の時点で断言できるのはこれだけ」(ケルデルマン、フィニッシュ後TVインタビューより)
たしかに13km地点の第1計測結果では、15分00秒で首位通過を果たしたケルデルマンから、フルームは23秒遅れていた。そもそもマイヨ・ロホはこの時点でザカリンより7秒、コンタドールより5秒遅れていたのだ。
「コース序盤は、監督があまりタイム差情報を知らせてこなかった。『もしかして……僕、遅れてる?それを気遣って何も言ってこないってこと!?』なんて考えたりもしたよ。他の選手たちは、中盤の軽い上りに向けて、スタートからスピードを上げたのかもしれないね。僕は脚を最後まで守るために、前半は抑えめに走ったんだ」(フルーム、フィニッシュ後TVインタビューより)
2011年ブエルタで頭角を現してからというもの、2014年最終ステージの短距離TTを63位で終えて以外、平坦であれ山岳であれグランツールの個人TTをトップ10圏外で終えたことは一度たりともない(プロローグ除く)……というとてつもない独走巧者は、27.9km地点の第2計測では、すでにあらゆるライバルを支配下に置いていた。フィニッシュでは2位ケルデルマンを29秒差突き放し、47分00秒51という驚異的なタイムを叩き出した。全出走者の中で唯一時速51kmで駆け抜けて、7月のツールでは1つも取れなかった区間勝利を、初秋のブエルタでは早くも2つ目の喜びを手に入れた。
「ラスト6~7kmくらいで、自分が区間優勝の位置にいることを突如として知らされて、逆に『ええっ』ってなった。いい成績が出せてホッとしているし、すごく嬉しい」(フルーム、フィニッシュ後TVインタビューより)
総合2位として走り出したヴィンチェンツォ・ニーバリもまた、第1計測地点は25秒遅れとふるわなかった。そこから先も、全てを凌駕したフルームのようには、タイムを回収できなかった。ただ3大ツール全てで総合優勝をもぎ取ってきた手練手管の32歳は、最終的にはコンタドールを2秒上回り、フルームから57秒差で1日を終えた。つまり総合では2位の座を守ったものの、首位との差は1分01秒から1分58秒にまで広がり、総合3位との差は1分07秒から42秒へと縮まってしまった。
走り終えたニーバリが「フルームを倒すのはもはや難しいだろう」と半ば白旗を上げたのだとしたら、総合5位コンタドールは「表彰台に上るのはすごく難しいだろう」と語る。総合3位ケルデルマン(首位から2分40秒差)との距離は、いまだ2分18秒も残っている。ひとつ前の4位ザカリンも乗り越えなければならないし、すぐ背後には、山で絶好調のロペスモレーノが27秒後に迫っている。
もちろん、かつてないほどしっかりと赤いジャージを身にまとい、白、緑、敢闘賞さえもまとめて持ち帰ったフルームも、最後の最後まで、難しい戦いとなるだろうことを覚悟している。
「明日もまた、壁のような上りがやってくる。戦争勃発は間違いなしだし、大会を左右する大きな動きが見られるに違いない。僕にとって、戦うべき日は、あと4日。マドリードまで、1日、1日を、ひたすらこなしていくだけだ」(フルーム、公式記者会見より)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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